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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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戦術授業2

キーンコーン――


 始業のチャイムが校内へ響く。


 さっきまで賑やかだった教室も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「やば、もう始まる!?」


「天音、また後で聞かせろよ!」


「お、おう!」


 蒼真は囲まれていたクラスメイト達に手を振りながら、自分の席へ戻ってきた。


「いやぁ……すごかった」


 席へ座るなり大きく息を吐く。


「有名人って大変なんだな……」


「自覚なかったのか」


「ない!」


 即答だった。


 深樹は小さく息を吐く。


 その時。


 ガラッ――


 教室の扉が開いた。


 神崎だった。


 片手には紙コップ。


 もう片方には資料。


 相変わらず緊張感がない。


 教卓へ向かいながら、適当に教室を見渡す。


「さて、授業はじめるよ」


神崎教官は教卓の機械を操作を始める


 カチッ。


 教室前方の大型モニターが起動した。


「今日はこの映像から見てもらうよ」


 映像が流れ始めた。


 映っていたのは――ダンジョン内の探索映像。


 数人の探索者パーティが薄暗い通路を進んでいる。


「実際の探索記録」


「許可済み映像」


 一瞬で教室の空気が変わった。


「本物!?」


「こういうの見れるのか!?」


 ざわつく教室。


 蒼真も少し前のめりになる。


「うわ……懐かしいな…」


「懐かしい?」


 深樹が隣を見る。


「あ、いや、ダンジョンの空気って独特だから」


 映像の中では探索者達が慎重に進んでいた。


 前衛。


 後衛。


 支援役。


 綺麗な隊列。


 順調だった。


 だが――。


「あ」


 誰かが声を漏らした。


 曲がり角。


 一人が少し先行する。


 その瞬間。


 横道から敵が出現。


「後ろ!」


 映像内で声が響く。


 隊列が乱れる。


 前衛が振り返る。


 後衛が慌てて下がる。


 そして。


 画面が停止した。


「え!?」


「ここで止める!?」


 教室から不満の声が上がる。


 神崎は振り返った。


「問題」


「この後どうなると思う?」


 一気に教室が静かになる。


「なんで?」


「簡単」


 神崎は画面を指差した。


「戦う前に負け始めてるから」


 空気が少し変わる。


「じゃあ……天音答えてみて」


「え!?俺!?」


 教室から笑いが起こった。


「なんで俺!?」


「経験者だから」


「理由真っ当すぎる!」


 ツッコミを入れながらも。


 蒼真は画面をじっと見る。


 さっきまでの明るい表情とは違った。


 数秒。


 教室が静かになる。


「……この後、後衛から崩れると思う」


「後衛?」


 誰かが聞き返す。


 蒼真は画面を指差した。


「敵が出た場所が悪いんだよ」


「後ろ側に近いから、最初に危険を感じるのは後衛と支援役になる」


 画面には横道から現れた敵。


「後衛って距離を取って戦うだろ?」


「だから急に近くで敵が出ると、一回下がろうとする」


「でもこの通路狭いんだ」


 指先が支援役を示した。


「ここに支援役がいるから、下がる場所が被る」


「そうなると避ける人、止まる人、振り返る人が出てくる」


 教室は静かだった。


「しかも前衛はまだ前を警戒してる」


「だから後ろの状況が一瞬遅れる」


 一呼吸置く。


「たぶん次の数秒で、誰がどこ見てるか分からなくなる」


「そうなったら隊列終わり」


 静かだった。


 神崎は少しだけ目を細める。


「……正解」


「おぉ……!」


 教室から驚きの声が上がった。


「すげぇ!」


「やっぱ本物だ!」


 蒼真は慌てる。


「いやいや!」


「そんな大したことじゃないって!」


 神崎は何も言わず、映像を少し巻き戻した。


 敵が現れた瞬間で停止する。


「天音の言ったこと結構大事だからね」


画面に前衛、後衛、支援役の位置が表示された。


「焦ること自体は悪くない」


「敵が急に出たら誰でも焦るから」


 教室は静かだった。


「問題は、焦った人が自分だけ見始めること」


 神崎は後衛を指差す。


「危ないって思うと、人は敵しか見なくなる」


「そうなると周りが見えなくなる」


 画面が切り替わる。


「すると今度は味方の動きも見えない」


「誰が避けるのか、誰が戦うのか、誰が魔法を使うのか」


「それが分からなくなる」


 今度は前衛へ視線を向ける。


「戦闘で崩れる時って、敵が強いからじゃない」


「味方同士の動きが噛み合わなくなった時」


 一瞬置いて。


「だから隊列は形じゃない」


「助けられる距離のこと」


 そして神崎は再生ボタンを押した。


 止まっていた映像が動き出す。


 後衛が下がる。


 前衛が振り返る。


 支援役が止まる。


 連携が崩れる。


 そして画面中央。


 ――探索失敗


 教室は静まり返っていた。


「だから言った」


 神崎は教卓へ寄りかかった。


「戦術って、戦う技術じゃない」


「崩れない技術」


 一瞬置いて。


「強い人になるのは大事だけど、生き残る人になるための授業だと思って」


 いつもの軽い声なのに。


 その言葉だけは、不思議と教室に残った。


 その中で。


 蒼真だけが頭を掻く。


「うわぁ……」


「これ懐かしいな……」


「……経験あるのか?」


 深樹が小さく聞く。


 一瞬。


 蒼真は固まった。


「……あ」


「言った?」


 やらかした顔だった――

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