ホームルーム後の雑談
握手を終えたあとも。
蒼真はどこか楽しそうだった。
「いやー、よかった」
「隣が怖そうな人じゃなくて」
「……どういう基準なんだ」
深樹が小さく返す。
「なんとなく?」
初対面とは思えない距離感。
深樹は小さく息を吐く。
(……なんか人の懐に入るのが上手そうだな)
すると。
パンッ。
教卓を軽く叩く音が響く。
「はい注目ー」
神崎が話し始めようとして、教室は自然と静かになる。
「転入生紹介も終わったし、ホームルームの続きをして行くぞ」
神崎は黒板へ適当に文字を書いていく。
――魔力理論
――戦術基礎
――ダンジョン学
「改めてこれが私の担当で基本座学のみ」
一瞬。
「座学だけなんですか?」
誰かが声を上げる。
「うん」
神崎は頷く。
「私は実技担当じゃないし、頭を使って戦闘を進める指揮役だね。戦い方を知る、教える授業」
教室は静かだった。
神崎は続ける。
「能力だけ強くても駄目」
「魔力だけ多くても駄目」
「勝てる人間って意外と別」
そう言いながら教卓の端にあるリモコンを手に取る。
カチッ。
教室前方の大型モニターが起動した。
「例えばこんなの」
映像が流れ始める。
そこに映っていたのは。
別クラスの戦闘訓練映像だった。
ダンジョンを想定した模擬戦。
数人の生徒が魔物型訓練機を相手に戦っている。
「去年の戦闘訓練のやつ」
映像の中では前衛が勢いよく飛び出していた。
強い。
だが――。
「……あ」
誰かが声を漏らす。
直後。
横から現れた敵役に後衛が接近される。
隊列が崩れた。
連携が乱れる。
そして数秒後。
画面に大きく表示された。
――全滅判定
「えぇ!?」
教室から驚きの声が上がる。
神崎は平然としていた。
「1人、1人は強かったよ、個人ならね」
「でも負けた」
神崎は映像を止める。
「なんで負けたんだと思う?」
教室が静かになる。
「前しか見てない」
「周囲が見えてない」
「隊列崩れた」
ちらほら声が出る。
神崎は頷いた。
「正解」
「戦術基礎はこういう勝ち方より負けない考え方、生き残る力、知恵それを学ぶ授業」
教室はさっきより静かだった。
ちゃんと聞いている。
神崎は満足そうに頷いた。
「とりあえず説明終わり」
一瞬。
「短っ!」
教室からツッコミが飛ぶ。
「じゃホームルーム終わり」
「解散」
ガタガタと椅子を引く音が教室に広がる。
すると次の瞬間だった。
「天音!」
「本当に深層行ったの!?」
「探索動画で見たことある!」
「どんな感じだった!?」
一気に蒼真の周囲へクラスメイト達が集まっていく。
「うおっ!?」
蒼真が少し驚いた声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って!一気に来ると分かんないって!」
それでも嫌そうではない。
むしろ嬉しそうに楽しそうだった。
「深層って暗いの?」
「魔物強い!?」
「ソロ探索ってマジ!?」
「え、いやソロっていうか状況的にそうなっただけっていうか……!」
教室の中心はすっかり蒼真になっていた。
明るい声によって賑やかな空気となった教室。
深樹はそんな様子を少しだけ見たあと、静かに席を立つ。
そして教室を出た。
数人の生徒がいたりするが廊下は静かだった。
窓から朝の光が差し込んでいる。
深樹はそのまま窓際へ寄りかかった。
教室の中からは、まだ賑やかな声が聞こえてくる。
「えー!?」
「すげぇ!」
「本物だ……!」
蒼真の周りは未だ賑わっている。
転校生であり、有名人でもあるからな。
深樹は静かに窓の外へ視線を向ける。
(……すごいな)
自分にはないものだった。
「……天音君」
「すごいですね」
不意に隣から声がした。
声のした方に振り向く。
そこにいたのは白鳥優奈だった。
凛とした立ち姿。
落ち着いた空気。
どこか大和撫子を思わせる雰囲気。
派手さはない。
けれど自然と目を引く、不思議な存在感があった。
深樹も教室の中へ視線を戻す。
蒼真は質問攻めにされながらも、笑いながら答えていた。
「深層って暗いの?」
「暗い場所もある!」
「でも景色綺麗な所もあるぞ!」
「え!?マジ!?」
教室の中から笑い声が聞こえる。
「……楽しそうに話してるな」
ぽつりと漏らす。
優奈は教室の方を見たまま、小さく頷いた。
「人を安心させるタイプなんだと思います」
「初対面でも相手が嫌がらない距離感の取り方が上手ですね。そういう話しやすい人は、自然と周りに人が集まりますから」
廊下には静かな空気が流れていた。
教室の賑やかさとは正反対。
窓から差し込む朝日が床へ長く伸びている。
「……委員長らしいな」
深樹が何気なく言う。
一瞬。
優奈がこちらを見る。
「どういう意味ですか?」
「いや……」
深樹は少し考える。
「ちゃんと見てるなって」
数秒。
優奈は少しだけ視線を逸らした。
「……そういう立場ですから」
そう言いながら教室へ目を向ける。
「問題が起きてないか、とか」
「困ってる人がいないか、とか」
「そういうのは見るようにしてます」
その時。
キーンコーン――
校内にチャイムが響いた。
一瞬。
教室のざわめきが止まる。
「あ」
優奈が時計を見る。
「授業ですね」
「戻りましょう」
「ああ」
二人は窓際を離れる。
教室へ戻る途中。
「え!?もうそんな時間!?」
「まだ話足りないって!」
蒼真の声が聞こえた。
思わず。
深樹は少しだけ笑って、自分の席に着いて授業の開始を待っていた。




