ホームルーム②
ガラッ――
扉がゆっくり開いた。
教室中の視線が、一斉にそちらへ集まる。
そこに立っていたのは、一人の男子生徒だった。
少し跳ねた青黒い髪。
明るい表情。
人懐っこそうな雰囲気。
どこか場の空気を自然と軽くするような、不思議な空気を持っていた。
そして――。
「初めまして! 今日から編入してきました、天音蒼真です!こういう教室って初めてだから少し緊張してるけど、仲良くしてくれると嬉しい!」
勢いよく頭を下げる。
明るい。
第一印象はそれだった。
一瞬。
教室が静かになる。
そして。
「……天音?」
「え?」
「嘘だろ」
ざわっ――。
「あの『蒼風の踏破者』!?」
一気に空気が変わった。
「高難易度ダンジョン攻略してた!?」
「単独探索のやつ見たことある!」
「新聞にも載ってた!」
「本物!?」
教室は一気に騒がしくなる。
さっきまでの「転入生が来た」という反応とは明らかに違う。
探索者界隈ではかなり有名。
それだけで十分だった。
しかし当の本人は。
「え?」
きょとんとしていた。
「いやいやそんな大したやつじゃないって!」
頭の後ろを掻きながら笑う。
「たまたま運が良かっただけだし!」
「絶対違うだろ!」
誰かが即座にツッコむ。
「深層攻略してたじゃん!」
「少人数で危険区域突破したって有名だぞ!」
「えぇ……なんか恥ずかしいな……」
困ったように笑う蒼真。
有名人なのに。
そういう扱いに慣れていないらしかった。
深樹は窓際から静かにその様子を見ていた。
(……思ってた感じと違うな)
もっと近寄りがたいタイプかと思っていた。
むしろ逆だった。
すると。
「静かにしてください!」
教室によく通る声が響く。
一瞬で空気が止まった。
立ち上がっていたのは白鳥優奈だった。
「ホームルーム中です!私語は控えてください!」
さすが委員長。一言で皆の声を止めてしまった。
教室が少し静かになる。
「す、すみません……」
「委員長怖……」
小声が聞こえる。
だが優奈は気にしない。
そして蒼真へ向き直った。
「申し訳ありません、続けてください」
綺麗な姿勢で一礼をした姿は綺麗だった。
すると蒼真は少し目を丸くした。
「おぉ……」
一瞬。
優奈が止まる。
「すごいしっかりしてる!さすが学級委員長って感じ!」
「はい?」
完全に予想外だった。
「クラスまとめるの大変そうだけど、頑張って!」
笑顔だった。
悪気ゼロだった。
優奈は少しだけ言葉に詰まる。
「……えっと……ありがとうございます?」
少しだけ調子を崩されていた。
それを見て。
教室の空気が少し和らぐ。
そして。
「はいはい」
手を叩きながら神崎教官が気の抜けた声を出した。
「盛り上がるのはその辺で」
そう言って蒼真を見る。
「席どうしよかな、決めてなかった」
一瞬。
静止。
「…………」
数秒。
「神崎教官!」
優奈の声が教室中に響いた。
「転入生の席は事前に決めるものです!」
「そういうもの?」
「そういうものです!」
「へぇ……」
「初めて知ったみたいな顔しないでください!」
まただった。
教室に笑い声が広がる。
神崎は少し考える。
そして。
「じゃあ……」
教室を見渡し。
窓際を見る。
「紫乃宮の隣空いてるね」
一瞬。
「ん?」
深樹が顔を上げた。
「よろしく」
軽く挨拶だけ済ました。
「よろしく!」
蒼真は笑顔で返事をする。
そして鞄を持って歩いてくる。
生徒の机の間を通りながら。
「いやぁ助かった!」
「一人だけ立ってるの地味に緊張してた!」
そのまま深樹の隣へ座る。
ガタッ。
椅子を引く音。
そして――。
「天音蒼真!改めてよろしく!」
「君は?」
距離が近かった。
初対面とは思えないくらいに。
深樹は少しだけ間を空ける。
「……深樹」
「へぇ!よろしく、深樹!」
そう言った次の瞬間。
蒼真は笑顔のまま手を差し出した。
「これから同じクラスだし!仲良くしよう!」
一瞬。
深樹はその手を見る。
あまりにも自然だった。
迷いもなく。
打算もなく。
ただ当たり前みたいに差し出された手。
「……」
数秒。
そして深樹は小さく息を吐いた。
「……ああ」
差し出された手を握る。
ぎゅっ。
「よろしく」
その瞬間。
蒼真は嬉しそうに笑った。
「うん!」
まっすぐだった。
その笑顔を見て。
深樹は思う。
(……騒がしくなりそうだな)
だけど。
少しだけ悪くないとも思った。
そんな予感がした――。




