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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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登校時間

 朝食を終え。


 賑やかだった食卓も少しずつ片付いていく。


 テレビの音だけが小さく流れるリビング。


 深樹は制服の襟を整えながら時計を見た。


「……そろそろか」


「あっ、もうそんな時間!?」


 紅音が慌てて立ち上がる。


 さっきまでプリンで盛り上がっていたのに、時間は思った以上に過ぎていた。


「急がないと!」


「慌てなくても間に合うだろ」


「でも余裕ある方がいいし!」


 紅音は慌てて自分の鞄を取りに走っていく。


 バタバタという足音。


 その様子を見て。


 深樹は少しだけ苦笑した。


 すると。


「お二人とも」


 ルナが声をかける。


 振り向くと、いつものメイド服姿のまま立っていた。


「忘れ物はございませんか?」


「……子供扱いしてないか?」


「確認です」


 即答だった。


 そのやり取りに、ちょうど戻ってきた紅音が笑う。


「ルナ、お母さんみたい!」


「……そうでしょうか」


「ちょっと否定しろよ」


「必要でしょうか?」


「ないんだ……」


 深樹はため息を吐く。


 少しして準備も終わり。


 二人は玄関へ向かった。


 靴を履く。


 いつもの登校前。


 だけど少しだけ前と違う。


「いってきま〜す!」


 紅音が笑顔で手を振りながら言う。


 するとルナは静かに頭を下げた。


「いってらっしゃいませ」


 いつもの落ち着いた声。


 だけど少しだけ柔らかかった。


 深樹も振り返る。


「じゃあ、行ってくる」


 そして扉が開く。


 朝の空気が流れ込んだ。


 並んで歩き出す二人。


 ルナはその背中を静かに見送る。


「……いってらっしゃいませ」


 小さくもう一度呟く。


 二人の姿が見えなくなって。


 家の中は静かになった。


 少しだけ間を置いて。


 ルナは窓の外を見る。


「……深樹様」


 優しい声だった。


 そして。


 床に黒い魔法陣が静かに広がる。


 淡い闇色の光。


 ルナは小さく目を閉じた。


「それでは、失礼いたします」


 次の瞬間。


 光が静かに舞う。


 そしてルナの姿は、その場から消えていた。


 一方その頃――


「お兄ちゃん急ご!」


「引っ張るな」


 家を出て少し。


 朝の街はゆっくり目を覚まし始めていた。


 通勤途中の人達。


 通学中の学生達。


 駅へ向かう人の流れ。


 開店準備をしている店先からは、食べ物の香りも漂ってくる。


 澄んだ空気の中。


 柔らかな朝日が道路を照らしていた。


 街路樹の葉が風で小さく揺れる。


 その下を二人は並んで歩いていた。


「今日はいい天気だねー」


 紅音は空を見上げながら言う。


 雲一つない青空だった。


「雨よりはいいな」


「お兄ちゃん、朝弱いしね」


「……学園も始まって慣れては来たけどな」


 少し歩くと、大きな交差点へ出る。


 信号待ちの人達。


 学生達の笑い声。


 自転車で追い抜いていく生徒の姿。


 いつもの朝の風景。


 だけど――。


 街の上空には、遠くを飛ぶ小型の魔導輸送艇も見えていた。


 魔力で浮遊しているその乗り物は、この街では珍しくない光景だった。


「おっ」


 紅音が空を指差す。


「今日も飛んでるね~」


「毎日見てるだろ」


「でもちょっとかっこよくない?」


 子供みたいに笑う。


 深樹は小さく笑った。


 そして数歩進んだあと。


「そういえばさ」


「ん?」


「ルナとは、昔より仲良くなってるかな」


 深樹は少しだけ空を見る。


「……まあな」


「なんか昔からいたみたいだった」


 昨日久しぶりに出会ったばかり。


 普通ならそんな風にはならない。


 だけど、不思議と違和感はなかった。


「ルナ、すごく楽しそうだったよねー」


「そうか?」


「うん」


 紅音は笑う。


「プリン出す時とか」


「……」


「なんかちょっと緊張してたし」


 “少し自信があります”


 あの言葉を思い出す。


 深樹は少しだけ口元を緩めた。


「……そうかもな」


 小さく呟く。


 そして。


 遠くに学園の大きな門が見えてきた。


 制服姿の生徒達も少しずつ増えていく。


 今日も、新しい一日が始まろうとしていた。


 学園の正門をくぐる。


 広い敷地の中には、すでに多くの生徒達の姿があった。


 制服姿の生徒達が友人同士で話しながら歩いている。


 中庭のベンチでは朝から談笑しているグループ。


 運動部らしき生徒達が校庭の方へ走っていく姿も見えた。


 朝の学園は思っていた以上に賑やかだった。


「今日も賑やかだな……」


 深樹が小さく呟く。


「朝はいつもこんな感じだよー」


 紅音は慣れた様子で言った。


 校舎へ入ると、さらに賑やかな声が聞こえてくる。


 廊下を歩く生徒。


 教室へ急ぐ生徒。


 階段を駆け上がって教官に注意されている生徒までいた。


「走るなー!」


「やばっ!」


 そんな声が遠くから聞こえる。


 紅音は小さく笑った。


「あ、いるいる」


「知り合いか?」


「知らない人」


「知らないのかよ」


 他愛のない会話。


 そんなやり取りをしながら歩いていく。


 すると。


 分かれ道へ差し掛かった。


「あ」


 紅音が足を止める。


「ここからは別だね」


「そうだな」


「うん」


 少しだけ間。


 そして。


「お兄ちゃん、ちゃんと授業聞くんだよ?」


「そこまで不真面目じゃない」


「居眠り禁止」


「してない」


「ホントかな〜?」


「しないって」


 紅音は隣でニヤニヤ笑う。


 そして少しだけ後ろ向きに歩きながら手を振った。


「じゃ、またお昼!」


「ああ」


 軽く手を上げる。


 紅音はそのまま人混みの中へ消えていった。


 少し静かになる。


 さっきまで隣にいた声がなくなっただけなのに、不思議とそう感じた。


 深樹は小さく息を吐く。


「……さて」


 そして自分の教室へ向かって歩き出す。


 廊下の窓から差し込む朝日。


 賑やかな話し声。


 その先にある教室の扉。


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