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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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13/23

3人で食べる朝食

 ――ピピピピッ。


 静かな部屋に電子音が響く。


 深樹は布団の中で小さく眉を動かした。


「……ん」


 枕元へ手を伸ばし。


 慣れた動作でアラームを止める。


 まだ少し眠気は残っている。


 だが、学園が始まってからは自然と起きる時間も整ってきていた。


 身体を起こし、窓へ視線を向ける。


 朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。


「朝か……」


 小さく呟く。


 昨夜のことを少し思い出しながら身体をのばした。


 4人での賑やかな夜だった。


 リゼの相変わらない過保護さ。


 ドライヤーを勝手に持ってきて、子供扱いみたいに髪を乾かされたこと。


 最後まで世話を焼いて、勝手に満足して帰っていったこと。


 思い出して、少しだけ苦笑する。


「……相変わらずだったな」


 小さく呟いて部屋を出た。


 廊下へ出た瞬間。


 ふわりと良い香りが漂ってくる。


「……?」


 朝食の匂いだった。


 深樹は匂いに釣られて歩き始めた。


 リビングへ向かうと。


 キッチンから楽しそうな声が聞こえてきた。


「ルナすごーい!」


「ありがとうございます」


「卵焼きめっちゃ綺麗!」


「紅音様もお上手ですよ」


「いや絶対ルナの方が上手!」


 朝から賑やかだった。


 深樹は少しだけ立ち止まる。


 そして何も言わず、その様子を眺めた。


 エプロン姿の紅音がフライパンを持っている。


 その隣では、メイド服姿のルナが落ち着いた手つきで朝食を並べていた。


 昨日まではなかった光景。


 なのに。


 不思議と違和感がない。


「……何してるんですか?」


 先に気付いたのはルナだった。


「うおっ」


「わっ、お兄ちゃん!?」


 二人同時だった。


「いや、なんか楽しそうだったから」


「見てたの!?」


「少しだけな」


 紅音は少し頬を膨らませる。


「声かけてよー」


「悪い」


 すると。


 ルナが静かに微笑んだ。


「ちょうど良かったです」


「?」


「朝食の準備が終わりました」


 テーブルの上には、綺麗に並んだ朝食。


 焼き魚、味噌汁、卵焼き。


 それにサラダまで用意されていた。


「……多くないか?」


「朝はしっかり食べないとダメです」


 即答。


 昨日誰かにも聞いた気がした。


「……なんか既視感あるな」


「気のせいだよ」


 紅音が笑う。


 そして三人は席についた。


「いただきます」


 深樹は味噌汁へ手を伸ばす。


 一口。


 そして卵焼きを食べる。


「……うまいな」


 一瞬。


「!」


 紅音だけが勢いよく反応した。


「ほんと!?」


 テーブルへ身を乗り出してくる。


「今日かなり頑張ったんだから!」


「頑張った?」


「うん!」


 紅音は胸を張る。


「今日はちゃんと焦がしてない!」


「基準そこか……」


「あとね、形も綺麗!」


「あと砂糖入れすぎなかった!」


 自信満々だった。


 その隣で。


 ルナが静かに補足する。


「紅音様、三回ほど味見されていました」


「ちょ、ルナ!?」


「努力の成果です」


「言い方ぁ!」


 深樹は少しだけ笑う。


「でもちゃんと美味い」


 一瞬。


 紅音が止まる。


「……ほんと?」


「ああ」


 すると。


 ぱっと表情が明るくなった。


「えへへ……」


 嬉しそうだった。


 ルナはそんな二人を見ながら、小さく微笑む。


 朝から騒がしい。


 でも嫌な感じはしない。


 むしろ。


 少し前の自分なら想像もしなかった時間だった。


「そういえばお兄ちゃん」


「ん?」


「昨日リゼさんと何話してたの?」


「ぶっ」


 危うく味噌汁を吹きそうになった。


「急に何だよ」


「気になるんだもん」


「私も気になります」


 ルナまで乗っていた。


「なんでだ……」


 二人の視線が妙に真っ直ぐだった。


 深樹は少しだけ視線を逸らす。


「……別に大した話じゃない」


「ほんと?」


「ほんとだ」


 紅音がじーっと見る。


「怪しい」


「怪しくない」


「絶対怪しい」


「昔話とか、他愛もない話してただけだ」


 半分本当だった。


 半分は説明が面倒だった。


 深樹は話を切るようにリモコンへ手を伸ばす。


「ほら、飯冷めるぞ」


「あ、話変えた」


「変えてない」


 ピッ。


 テレビの電源が入る。


『――続いて、本日のニュースです』


『各地で発生していた魔力異常反応について、調査機関は現在も原因を調査中――』


 その瞬間。


 深樹の手が僅かに止まった。


「最近こういうニュース多いよねー」


 ルナは静かに画面へ視線を向ける。


「昨日も似た内容の報道を目にしました」


「まだ原因分かってないんだ」


「そのようですね」


 だが。


 深樹だけは少しだけ視線を細めていた。


 ただのニュース。


 ――そう思えなかった。


 テレビは次の話題へ変わっていく。


 しかし。


「……あ」


 不意にルナが何かを思い出したように立ち上がった。


「そういえば、忘れるところでした。」


「?」


「お二人共、少々お待ちください」


 ルナは静かにキッチンへ向かった。


 そして冷蔵庫を開ける。


 しばらくして。


「……あと少しですね」


 キッチンから声が聞こえた。


 二人が覗くと。


 ルナは小さなガラス容器を並べ、その上へ手際よく生クリームを添えていた。


 さらに切っておいた果物を彩りよく乗せていく。


「わっ……」


 紅音が目を丸くする。


「パティシエみたい!」


「最後の仕上げです」


 ルナは落ち着いた様子で言う。


 けれど、その手つきはいつもより少しだけ丁寧だった。


 そして完成した三つのプリンを見て、小さく頷く。


「……出来上がりました」


 その一言が聞こえるくらいには珍しかった。


 ルナはお盆に乗せる。


「お待たせしました」


 テーブルへ並べられたガラス容器。


「プリン?」


「はい」


 綺麗な焼き色。


 上には生クリームと小さく切られた果物が綺麗に添えられていた。


 紅音が目を丸くする。


「えっ!?これ昨日作ってたの!?」


「朝食後の楽しみがあっても良いかと思いまして」


 相変わらず落ち着いた声。


 だけど。


 ほんの少しだけ得意そうだった。


 そしてルナは姿勢を正す。


「深樹様」


「ん?」


「こちらは……少し自信があります」


 一瞬。


 深樹が止まる。


 かなり珍しい言い方だった。


「……珍しいな」


「そうでしょうか」


「自信あるとか言うの」


 ルナは少しだけ視線を逸らす。


「……美味しくできたので」


 紅音がニヤニヤし始める。


「ルナ照れてる〜」


「照れてません」


「絶対照れてるよ~」


「違います」


 深樹はスプーンを手に取る。


 一口。


「……うまい」


 即答だった。


 一瞬。


 ルナの動きが止まる。


「……本当ですか?」


「なんで疑うんだ」


「いえ……その……」


「甘さもちょうどいいし、重くないな」


「朝ですので調整しております」


 いつも通りの声。


 だけど。


 ほんの少しだけ口元が緩んでいた。


「あっ」


 紅音が指をさす。


「ルナ今嬉しかった!」


「……」


「絶対!」


「……少し安心しただけです」


「認めた!」


 朝から賑やかな声が響く。


紅音も朝から楽しく過ごせているならもっと早く呼べばよかったかな。


紅音とルナの2人で楽しくお話をしながら朝食の時間が過ぎて行った。


 深樹はそんな二人を見ながら、小さく笑った。


 ――こういう朝も、悪くない。

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