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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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12/23

お風呂上がりの談笑

浴室の扉が開く音がした。


 少しして、髪をタオルで拭きながら深樹がリビングへ戻ってきた。


「ふぅ……」


 風呂上がりの深樹は、いつもより少し気の抜けた顔をしている。


 そして。


「……なんだ?」


 三人の視線が集まっていた。


 紅音はニヤニヤ。


 リゼは口元を押さえている。


 ルナはいつも通り平然としていた。


「別にー?」


「何もありません」


「うんうん」


「絶対なんかあっただろ」


 深樹が怪しそうな顔をする。


 だが誰も答えない。


 リゼは話を変えるように口を開いた。


「お風呂長かったね」


「普通だろ」


「のぼせてない?」


「子供扱いするな」


「心配だから聞いてるの」


 即答だった。


 深樹は呆れた顔をする。


 紅音はそんな二人を見ながら笑っていた。


「リゼさん、お兄ちゃんに対してほんと過保護だね」


「当然」


ドヤ顔のリゼ。


「即答なんだ」


少し呆れたような表情をした紅音。


「昔からの深樹知ってるからね~」


 リゼは腕を組む。


「放っておくと無理するし」


「……否定できません」


 まさかのルナまで同意した。


「おい」


「深樹様は休息を軽視する傾向があります」


「任務中ずっとそうだったし」


「最近は少しマシになったのかな〜?」


 三方向からだった。


 深樹はため息を吐く。


「なんで全員そっち側なんだ……」


 その言葉に。


 三人は小さく笑った。


 しばらくして。


 時計を見ると、思ったより時間が過ぎていた。


「……もうこんな時間か」


 紅音が小さく欠伸をする。


「ねむくなってきちゃった……」


 ルナがそっと立ち上がった。


「では、本日はそろそろ休みましょうか」


「賛成ー……」


 紅音は眠そうなまま立ち上がる。


「ルナ、一緒に来てー……」


「はい」


 すっかり自然だった。


 ルナも抵抗なく頷く。


「本日は紅音様のお部屋へ?」


「うん」


「承知しました」


 二人は並んで歩き出す。


 部屋の前で、紅音が振り返った。


「おやすみ、お兄ちゃん」


「ああ、おやすみ」


「おやすみなさいませ」


 静かに扉が閉まる。


 そして。


 リビングには深樹とリゼだけが残った。


 さっきまで賑やかだった空間は、一気に静かになる。


 テレビの音だけが小さく流れていた。


 深樹はソファへ腰を下ろす。


 すると。


 後ろでリゼが何かを探し始めた。


「……何してるんだ?」


「んー?」


 ガサガサと棚を漁る音。


 そして。


「見つけた」


 リゼの手にはドライヤー。


 深樹が嫌な予感をした。


「……何する気だ」


「何って」


 当たり前の顔だった。


「髪乾かすのよ」


「自分でやる」


「まだ半分くらい濡れてる」


「問題ない」


「問題ある」


 即答だった。


「風邪引いたらどうするの」


「引かない」


「引く」


 いつもの流れだった。


 そしてリゼは深樹の後ろへ回る。


「座って」


「いや」


「座りなさい」


「……」


 二回目だった。


 深樹は諦めたようにため息を吐く。


「……相変わらずだな」


「当然♪♪」


 満足そうな声。


 次の瞬間。


 ブォォ……という静かな音が響いた。


 温かい風が後ろから流れる。


 風属性のリゼが扱うせいか、風は強すぎず弱すぎず心地いい。


 リゼは片手でドライヤーを持ちながら、もう片方の手で深樹の髪を軽く整えていく。


「前向いてて」


「子供か俺は」


「動くとやりにくいの」


「……」


 反論しようとして。


 深樹は諦めたように黙った。


 リゼは少しだけ笑う。


「大人しくてよろしい」


 指先が髪をすくう。


 昔と変わらない動きだった。


 任務終わり。


 無茶をして戻ってきた時。


 疲れ切って眠りそうな深樹相手に、こうして世話を焼いていたことが何度もあった。


 深樹が小さく目を細める。


「……昔も似たようなことあったな」


 一瞬。


 リゼの手が止まる。


「……覚えてたんだ」


「なんとなくな」


 少しの沈黙。


 そして。


 今度はさっきより少し優しい手つきになった。


「なら今も大人しくされて」


 ドライヤーの音だけが静かに響く。


 しばらくして。


 リゼが髪を軽く整える。


「……よし、終わり」


「終わったか」


「うん」


 リゼは少し満足そうだった。


 深樹は髪へ触れる。


「……ありがとな」


「!」


 一瞬。


 リゼの動きが止まる。


「……ど、どういたしまして」


 少しだけ視線を逸らした。


 そして。


 二人はそのままソファへ座り直す。


「……静かになったな」


「そうだね」


 さっきまで笑い声が響いていたせいか、余計にそう感じる。


 少しの沈黙。


 だが、不思議と気まずさはなかった。


 長い時間を一緒に過ごした相手だからだろう。


「……なんだ」


「え?」


「さっきから見すぎだ」


「見てない」


「いや見てる」


 即答だった。


 リゼは少し視線を逸らす。


「……久しぶりだったから」


「?」


「ちゃんと元気そうで安心しただけ」


 少しだけ声が小さくなる。


 深樹は数秒黙った。


「……そうか」


「なにその反応」


「いや」


 深樹は苦笑する。


「相変わらずだなと思って」


「何が」


「過保護なところ」


 その言葉に。


 リゼは少しむっとした。


「深樹が原因でしょ」


「なんでだ」


「なんでじゃない」


 即答だった。


「誰が好きで危ない人の心配すると思ってるの」


「危なくない」


「危ない」


「……」


「危ない」


 二回目だった。


 深樹は諦めたようにため息を吐く。


 リゼは少しだけ笑う。


 そして。


 その笑顔が少しだけ柔らかくなった。


「でも……ほんと変わったよ」


「そうか?」


「うん」


 リゼは部屋を見回す。


「昔の深樹なら、こんな家の空気なかった」


「……」


「ルナいて、紅音ちゃんいて、普通に笑って」


 静かな声だった。


「なんか安心した」


 深樹は少しだけ目を逸らした。


 何か返そうとして。


 少し考える。


「……悪くない」


「え?」


「こういうのも」


 短い言葉。


 でも。


 リゼは少し目を丸くして。


 そして、ふわっと笑った。


「うん」


「それなら良かった」


 少しの沈黙。


 静かな時間だった。


 その後。


 リゼがゆっくり深樹を見る。


「……ねぇ」


「なんだ」


「今日はもう戻る」


 深樹が少しだけ目を向けた。


「いいのか?」


「うん」


 リゼは笑う。


「久しぶりに顔見れたし」


「それに」


「?」


「長時間の召喚は魔力消費もあるでしょ」


「問題ない」


「ダメ」


 即答だった。


「昔からそうやって平気って言う」


「……」


「だから今日は終わり」


 完全に保護者だった。


 深樹は少しだけ苦笑する。


「相変わらずだな」


「当然」


 リゼは胸を張る。


 そして少しだけ優しく笑った。


「ちゃんと寝てよね」


「分かった」


「絶対だよ?」


「……分かったって」


 すると。


 リゼは満足そうに頷く。


 次の瞬間。


 緑色の魔法陣が静かに足元へ広がった。


 柔らかな風が部屋を包む。


「おやすみ、深樹」


「ああ」


「またいつでも呼んでね」


 少しだけ寂しそうで。


 でも安心したような笑顔だった。


 光が静かに舞う。


 そしてリゼの姿は、夜風のように消えていった。


 静かになったリビング。


 深樹は少しだけ天井を見上げる。


 賑やかな夜だった。


 昔では考えられないくらいに。


 小さく息を吐き。


 深樹も自室へ向かう。


 明日もまた、学園での日常が待っていた。

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