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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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11/23

女子トーク、リゼも参戦

 夜空を駆け抜けながら。


 リゼはかなり機嫌が良さそうだった。


「もうちょっと速度上げてもいい?」


「これ以上はやめろ」


「えー」


 ニヤニヤしながら不満そうな声。


 風魔法の速度は少しだけ落ち着いた。


 深樹は小さく息を吐く。


「そんなに楽しみか」


「楽しみだよ〜?」


 リゼは即答した。


「深樹の家とか気になるし」


「普通の家だぞ」


「それでも!」


 テンションが高い。


 昔の冷静な風の魔導士とは思えないくらいだった。


 そんなやり取りをしながら。


 二人は静かに自宅へ降り立つ。


 玄関前。


 リゼはなぜか一度深呼吸した。


「なんで緊張してるんだお前」


「してない」


「絶対してる」


「してないってば」


 言いながら髪を整えている時点で説得力は無かった。


 深樹は苦笑しながら玄関を開ける。


「ただいま」


 家の中は静かだった。


 リビングからテレビの音だけが微かに聞こえてくる。


 二人が中へ入ると。


 ソファでは、紅音がクッションを抱えたまま眠っていた。


「……寝てる」


 リゼが小さな声で呟く。


 その隣にはルナ。


 紅音へブランケットを掛けながら、静かに座っていた。


「お帰りなさいませ、深樹様」


「ああ」


 ルナは視線をリゼへ向ける。


 すると。


 ほんの少しだけ目を丸くした。


「リゼ様もお久しぶりです。」


「久しぶり〜、ルナ」


 リゼが軽く手を振る。


 だが次の瞬間。


「……本当に家にいたね」


「疑ってたのか?」


「ちょっとだけ」


 リゼは小声で答えた。


 ルナはそんな反応を見て、小さく微笑む。


「どうぞ、お入りください」


「お邪魔します……」


 急に大人しくなった。


 深樹は少し笑う。


「お前さっきまでの勢いどこいった」


「いやだって思ったより普通に家なんだもん!」


「意味分からん」


 ルナはくすっと笑う。


 リゼは少し視線を泳がせながら部屋を見回していた。


「……なんか落ち着くね」


「そうか?」


「うん」


 戦場とも危険区域とも違う。


 普通の日常の空気。


 それがどこか新鮮だった。


 その時。


 深樹が小さく息を吐く。


「俺、風呂入ってくる」


「あ、うん」


「ごゆっくり」


 そう言って深樹はリビングを後にした。


 浴室の扉が閉まる音。


 それを聞いた後。


 リビングには少し静かな空気が流れる。


 リゼは改めてルナを見る。


「……ほんとにメイドしてるんだ」


「成り行きですが」


「似合いすぎじゃない?」


「ありがとうございます?」


 少し不思議そうに返すルナ。


 リゼはソファへ腰を下ろす。


「紅音ちゃんとも仲良さそう」


「とても仲良くさせてもらってます」


 ルナは眠っている紅音を見る。


「深樹様のことを、本当に大切にされております」


「それは分かる」


 リゼも小さく頷いた。


 眠っている紅音の表情は穏やかだった。


 安心しきっている。


「……変わったね、深樹」


 リゼがぽつりと呟く。


「昔なら、こういう家の空気とか絶対作れなかったと思う」


「はい」


 ルナは静かに頷く。


「以前の深樹様は、自分を休ませることを知りませんでしたので」


「ほんと無茶ばっかだったよね」


「ええ」


 二人とも、昔の深樹をよく知っている。


 だからこそ。


 今の穏やかな姿がどれだけ変わったのか分かっていた。


「でもさ」


 リゼが少し笑う。


「深樹、ルナには昔からちょっと甘かったよね」


「……そうでしょうか?」


「そうだよ」


 即答だった。


「他の召喚存在には割と容赦ないのに、ルナには昔から対応柔らかかったし」


 その言葉に。


 ルナは少し考え込む。


「自覚はありませんでした」


「絶対特別枠だったって」


「リゼ様も十分近い存在だったと思いますが」


「私はお姉さん枠だから」


「何ですかその枠は」


 二人の間に小さな笑いが零れる。


 すると。


「んぅ……」


 小さな声。


 紅音がゆっくり目を覚ました。


「……あれ?」


 ぼんやりしたまま周囲を見る。


 そして。


「……リゼさん?」


「起こしちゃった?」


 リゼが頭を撫でながら少し笑う。


 紅音はまだ眠そうに目を擦った。


「お兄ちゃん帰ってきたの……?」


「今お風呂だよ」


「そっかぁ……」


 紅音は再びソファへ身体を預ける。


 そんな様子を見ながら。


 リゼが少し身を乗り出す。


「ねぇ紅音ちゃん」


「んー?」


「深樹って学園でどんな感じ?」


 その質問に。


 紅音は少し眠そうな目のまま笑った。


「悪く目立ってるかも」


「やっぱり?」


「本人は目立ちたくなさそうだけどねー」


 紅音はクッションを抱え直す。


「でも模擬戦でめちゃくちゃ強かったし」


「……あー」


 リゼが遠い目をする。


「昔からそういうタイプだった」


「やっぱり?」


「普段静かなのに戦うとおかしいくらい強いの」


「それそれ!」


 二人の声が重なった。


 ルナが小さく微笑む。


「深樹様は昔から、戦闘になると別人のようでしたので」


「しかも本人無自覚なんだよね」


 リゼが呆れたように言う。


「普通に戦ってるつもりで周囲引かせるし」


「今日まさにそんな感じだったよ」


 紅音が苦笑する。


「クラスのみんな固まってたし」


「目に浮かぶわね〜」


 リゼは楽しそうに笑った。


 その後。


 紅音がふと思い出したように口を開く。


「そういえばリゼさんって、昔のお兄ちゃん知ってるんだよね?」


「長い付き合いだからね〜」


「どんな感じだったの?」


「んー……」


 リゼは少し考え込む。


「危なっかしい弟みたいな?」


「ルナと似たような事言ってる」


「だって本当だし」


 即答だった。


「昔の深樹って、自分が壊れるの全然気にしなかったから」


 その言葉に。


 ルナも静かに頷く。


「はい。任務の成功を優先しすぎておりました」


「でもさ」


 リゼが少し笑う。


「今はだいぶマシになったよね」


「そうなの?」


 紅音が聞き返す。


「昔なら誰かとこんな風に家でのんびりするとか無かったし」


「えー……」


「任務、訓練、休憩、また任務って感じ」


 紅音は少し複雑そうな顔になる。


「大変そう……」


「実際大変だった」


 リゼは苦笑した。


「だから今の深樹見てるとちょっと安心する」


「分かります」


 ルナも静かに同意する。


「以前より、表情が柔らかくなりました」


 紅音は少し嬉しそうに笑った。


「なんかそれ聞くと安心するなぁ」


「紅音ちゃんのおかげも大きいと思うよ?」


「えっ私?」


 突然話を振られて紅音が目を丸くする。


「うん」


 リゼは自然に頷いた。


「紅音ちゃんいる時かなり気を抜いているように見えましたよ」


「そうなのかな〜」


「お久しぶりに見て思いましたよ」


 ルナまで頷いた。


「紅音様と話している時の深樹様は、とても自然です」


「へ、へぇー……」


 少し照れくさそうな紅音。


 リゼはそんな反応を見て笑う。


「妹強い」


「なんで!?」


「昔の深樹からしたら考えられないくらい普通のお兄ちゃんしてるもん」


「そうなのかなぁ……」


「そうだよ」


 リゼはどこか嬉しそうだった。


 長い間。


 深樹はずっと戦い続けていた。


 だからこそ。


 今こうして普通の日常を過ごしている姿が、どこか眩しく見える。


 その時。


 ルナがふと口を開いた。


「ですが」


「ん?」


「深樹様は、昔から家族のことだけは特別に大切にされておりました」


 静かな声だった。


「どれほど危険な任務でも、必ず戻る理由として口にされていたので」


 紅音の表情が少しだけ変わる。


「……お兄ちゃんが?」


「はい」


 ルナは優しく頷いた。


「紅音様の存在は、深樹様にとって非常に大きかったのだと思います」


 紅音は少し俯きながら笑った。


「……なんか恥ずかしいな」


「だから、紅音ちゃんは深樹の支えでもあるんだよ」


 リゼが柔らかく笑う。


 その空気は穏やかで。


 昔の戦場では決して得られなかったものだった。


 三人は静かなリビングで、深樹の昔話をしながら穏やかな夜を過ごしていく。


 そして。


 そんな女子トークの裏で。


 当の本人は、自分が話題の中心になっていることなど知らず、のんびり風呂に浸かっていた。

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