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動き出す影

 一週間後、ルークのもとに父から報告が届いた。


 内容を読んで、すぐにファイを呼んだ。今度は王宮の庭園ではなく、ルークの私室だった。人目だけでなく、耳も遠ざけられる場所でなければならなかった。


 ファイは報告書に目を通した。指先が、一瞬だけ紙の上に残った。


「神殿が、アルティナ家の系譜を調べようとしている」


「ああ」


 ルークは椅子の背にもたれた。


「先週、神殿の祭司たちが王家の文書館に閲覧申請を出してきた。過去数百年にわたる貴族家の系譜に関する記録だ。申請の中に、アルティナ家の名前が含まれていた」


「なぜ神殿が貴族の系譜を?」


「通常、理由はない。父上も即座に申請を保留にした。しかし神殿側は諦めていない。王都のいくつかの商家と情報屋に別のルートから接触して、情報を集めようとしているらしい」


 ファイは報告書をテーブルに置いた。


「……これまでは動かなかったのに、なぜ今になって」


「サクラの力が目覚めつつあることを、神殿側も察知しているのかもしれない」


「神殿と神は、繋がっているのか?」


「確証はない。ただ、神殿は神を祀る場所だ。何らかの形で神の意志が伝わっている可能性は、否定できない」


 二人の間に沈黙が落ちた。窓の外で、夕暮れが始まっていた。


「レンのことも、神殿は知っているかもしれない」


 ファイが言った。声が低かった。


「使徒が任務に反したとすれば、神がそれを知らないはずはない。神殿を通じて、レンの所在を探っている可能性もある」


「俺も同じことを考えた」


 ルークは立ち上がり、窓の外を見た。


「神殿の動きが、サクラとレン、その両方に向けられているとすれば。これは俺たちが思っていたより、早く動いている」


「どうするつもりだ?」


「まず情報だ。今ある断片だけでは足りない。王家の文書だけでは読めない部分がある。セルディア家の書庫も調べてもらえるか」


「わかった」


 ファイは立ち上がった。


「ただし慎重に動く。神殿とは表向き友好関係にあるから、あからさまな動きはまずい」


「わかってる」


 ファイは扉へ向かいながら、立ち止まった。背中を向けたまま、動かなかった。


 少しの間、部屋が静かだった。


「ルーク」


「何だ」


「神殿が動き出したということは、猶予があまりないかもしれない」


 ルークは窓の外を見たまま、答えた。


「わかってる」


「レンに何かを伝えるとしたら、俺たちが選んでいい時間は、もう長くないかもしれない」


 沈黙が落ちた。


 夕暮れが夜に変わりかけていた。王都の魔術灯が、一つひとつ点り始めていた。


「……わかってる」


 ルークはもう一度、同じ言葉を繰り返した。


 扉が静かに閉まった。


 一人残された部屋の中で、ルークはしばらく窓の外を見ていた。


 遠くに、神殿の尖塔が見えた。夜空を背景に、その影だけが暗く、はっきりと立っていた。

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