お宿、初めての吸血
泊まる予定だった宿が、お馬さんを連れて泊まれない宿だったので、新しい宿を探すことになる
数箇所巡って、ルナが太鼓判を押した宿、「こまめ亭」に泊まることになった
お絹ちゃんを馬小屋に入れ、買ってきた餌を餌入れに入れておく。食べやすい大きさにカットされたそれは、お絹ちゃんに大好評だった
お宿に入って、みんなも食事をとる。部屋に戻ろう、というところで鋼牙君が吸血のためにルナを部屋に連れていこうとする。
初めてのことなので心配だと伝えると、私も同席していいことになった
同席してた方がすぐに回復魔法使えるし良いよね
血は、献血ほどの量でいいらしく、ルナの首元……ではなく、手首に噛み付いた鋼牙君は、流れ出てくる血を少しの間舐めとると、回復魔法をかけてやってくれと口元を拭った
急いで回復魔法をかけると、血は止まり、元のきれいな肌に戻る
「こんな少しで大丈夫なのですか?」
「あぁ、生命活動に必要な分は補給できたから大丈夫だ。」
「わざわざ私を連れてきたのですから、もう少し吸ってもいいのですよ?」
「あんたも護衛として来てるんだろ?護衛が貧血とか笑えないからな。旅の間はこれでいいんだよ」
鋼牙君の言葉になるほど、と納得すると、ルナは早々に部屋を後にした
「……何か用か?」
「この部屋の壁は厚そうなので、貴方にだけは薬の効果を教えておいた方がいいと思って」
「なんのために?」
「あなたが自暴自棄にならない為に」
そういうと、鋼牙君は弱いところを突かれたみたいな顔で笑う
「なるほど、確かに必要な話だ」
完全に聞く姿勢になったのを確認してから、防音魔法を念の為張り、鋼牙君に薬の話を始めた
そもそも、この薬が生まれた理由は、1人の学者さんの疑問から始まった
「血を必要とするということは、吸血鬼は種族違いと判断されど、組織的に人間に近いのではないか?」と。
そこからの研究で、吸血鬼という種族が人間の突然変異体であることまで突き止めた。
ならば、と学者は考える。
突然変異体同士で掛け合わせて出来た吸血鬼という種族は、人間からなることも人間になることもできるのではないか、と。
そこからの研究とできたのが、私の持っている薬だ。
効果は、人間を吸血鬼にする薬。
もっとも、学者本人以外で試したことが無い為、効力は本当なのかは学者のみぞ知るが、前世での話のため、今の世には存在していない。
そこまで話すと、鋼牙君が手を挙げた
「それは、体に害は無いのか?せっかく鬼になっても体に害が及ぶようなら俺は賛成しない」
「前世ではその学者はピンピンしてたよ。薬についてペラペラ喋ってくれた本人だからね」
「なるほど、元気に過ごせるのなら良いんだ
俺は嫌だったけど、人間の中にはハーレムを望む者もいるだろうから、その薬は鬼の希望にはなると思う。けど……」
「けど?」
「作られた経緯は話さない方がいいと思う。俺はいいけど、鬼はプライドが高いんだ。元人間だったなんて、食事にしてる奴隷達と一緒だったなんて知ったら、怒り出すやつもいると思う。」
「わかった、薬の効果だけ伝えることにする」
話が一段落したと思って、防音魔法を消すと、鋼牙君が言いずらそうに「あの」と声を上げる
「心配かけてごめん。話してくれてありがとう」
「こちらこそ、心配させるようなことしてごめんね事情があるのに、鬼の国に行くこと決定してくれてありがとう」
「それは……依頼だから」
「依頼って点を抜いても、決断してくれたのは鋼牙君の強さで優しさだよ。ありがとうね」
お礼を言うと、照れてるのか顔を赤くしてそっぽ向く鋼牙君。
こういう時でもないとはっきりお礼なんて言えないからね、甘んじて受けてもらおう
それじゃあ、と言って戸を開けようとすると違和感がある。
もしやと思って、一気に戸を開くと、雪崩のように、いずなさん、ロアちゃん、レイさんが滑り込んできた
防音魔法を張っててよかったと思いながら、「盗み聞きですか?」と詰め寄る
「いや、私はとめたんだけどね、レイが……」
「何よ!いずなだって乗り気だったじゃない!」
「私……巻き添え……」
「「1人逃げようとしない」で!」
雪崩状態のままわちゃわちゃと騒ぐ3人に、鋼牙君と共にため息が出る。
「はぁ……お前ら暫くお菓子禁止な」
「そんな殺生な!」
「心配……しただけ、なのに……」
「そうそう私たち鋼牙君が心配で聞いてただけっていうか……ね?」
「正座」
「「「はい」……」!」
その日、鋼牙君のお説教は夜がふけるまで続いたそうだ。
……私?朝練もあるしそうそうにルナと寝ました
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次の日の朝、寝不足気味のロアちゃんとレイさんと一緒に朝練をしてから、お絹ちゃんの所に行き、ご飯を置いて、
宿へと戻り朝ごはんを食べる事にした
朝練では、レイさんには消音魔法を教えた。代わりに、回復魔法をもっと詳しく教えて貰った。気持ち精度が上がった気がする。
お絹ちゃんは、朝早くだったがもう起きており、私が来るととても喜んでくれたブルルルっと嘶くお絹ちゃんを撫でながら、掃除をして、新しい餌を用意すると、直ぐに食べ始めてくれた。ガリポリシャクシャクといい音が鳴る
嬉しそうに食べてくれる姿に嬉しくなりながら、名残惜しくも馬小屋を後にした。
朝食は、目玉焼きとパン。そしてローストチキンだった
ご飯は、レイさんだと大きさ的にすべて食べれないため、いつも鋼牙君と分け合いっこしてるらしい。
今回も分け合いっこしてたが、レイさんはパンに目玉焼きもチキンも挟んで食べだしたので、「行儀が悪いぞ」と、鋼牙君にチキンのソースを拭ってもらってた
あまりに仲がいいので、「付き合ってるの?」と聞いたら、「そんなわけないじゃん!」と笑われてしまった
鋼牙君はノーコメント。……頑張れ、鋼牙君
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朝食を食べ終わると、宿を後にする。
お絹ちゃんを引いて街を歩いてると、なんだかとても視線を感じる。
視線の方を見てみると、慌てたように目線を逸らされる
どうしてだろうと思っていると、鋼牙君が耳打ちしてくれた
「多分、貴族だと思われてる」
「え、なんで?」
「馬に乗せてる馬具が高価だし、そもそも馬を連れてる人自体貴族でもないといないからな」
「そうなの?」
「そりゃそうでしょ〜まあ、リーシャちゃんがお姫様なのは確かだし、無礼をする人が居ないのは良い事だけど……」
「居たとしても……ぶちのめす」
「ロア過激〜っ!まぁ、そんな感じだから心配しないで!」
「いや、心配というか……あっ」
恥ずかしいのだけれど、という言葉は突然ぶつかりそうになった人の登場で掻き消える
視界に入らずとも気配で分かって綺麗に避けたのだが、「チッ」という舌打ちと共にその者は去っていった
「えぇ、舌打ち……?」
「あいつ捕まえるか?」
「実害が……無いから、捕まえられない」
「舌打ちぐらいじゃ捕まえるほどでは無いでしょう?」
「いや、多分あいつスリだ。皆が避けてるようなところでわざわざぶつかりに来るなんて余程のバカだけどな。金に目が眩んだんだろうよ。」
スリか……私も暗殺者にならなかったらああやって稼いでいたのかもしれない。
だからといって許す訳では無いが、実害が出ていないのだから通報することも出来ないだろう
「無視していいよ、行こう」
そう言うと、私は考えを振り切るように両頬をパチンと叩いた
「リーシャ様?」
「大丈夫」
ルナに不思議そうな目で見られたけれど、大丈夫だと言えば、ルナはそれ以上追求はしてこなかった




