血溜まりの怪物
血の怪物となったカサブランカは断末魔に似た雄叫びを上げる。すると、今まで人の形を保っていたフォール兵が一斉にその身体を歪に歪ませる。骨が砕け関節はあらぬ方向に曲がり全身から血を吹き出したかと思うと、異形の姿となってアリス達に襲いかかってきた。
バロール軍による一斉射撃による攻撃も意味を成さず、致命傷を負っても構うことなくフォール兵だった異形は突進する。
「総員射撃しながら後退! 装甲兵は接敵した敵生態を殲滅しながら狙撃隊を援護しなさい! 囲まれれば終わりよ!」
「アリス! アタシ達はあの女を狙うよ!」
「はい!」
静観するカサブランカ目掛けアリスと花音はノーツを撃ち出しながら駆け出す。ノーツの弾幕による攻撃は、血で形成されたカサブランカの身体を弾け飛ばすものの、飛び散った血が一人でに蠢き再びカサブランカにまとわりつき再生する。
愉快な笑い声を響かせ、カサブランカはその歪な蜘蛛のような脚を振り上げ力任せにアリス目掛けて振り下ろした。
「花音ちゃん、一緒に!」
「オッケー!」
二人はノーツを収束させ巨大な光球へ変化させる。構わず突進するカサブランカ目掛け、光球を炸裂させ追撃を図る。
「「Splash Shooting Star!」」
光球がカサブランカの血の肉体を抉り爆発によって血は辺りに弾け飛ぶ。だが、依然としてカサブランカは高らかに笑いながら再生し元の怪物へ姿を変える。手詰まりの状態の二人を大口を開けて飲み込もうとした瞬間、一際巨大なレーザーが後方から撃ち出されカサブランカの肉体を貫通した。
「アリス、花音。あなた達では相性が悪いわ。この女は私が片付ける」
ステルス機能で自身を透明化させたオリヴィエはオリヴィエに位置を悟らせない様常に移動しながら光銃の引き金を引く。エネルギーを充填させ高温、超高速で放たれるレーザーはカサブランカが纏う血を撒き散らすことなく蒸発させ再生をさせずに徐々に削り取っていく。
「その銃、厄介ですね。身体の再生が間に合いませんわ。……ええ、ええ! 良い痛みです!」
カサブランカを覆う血が収束する。刹那、球体となった血は一瞬で霧状に変化して辺りを覆いアリス達の視界を奪った。次々とバロール兵達の悲鳴が何処からともなく木霊する。アリスと花音は誤射を恐れノーツを撃ち出すことが出来ずにいた。同様に、オリヴィエも仲間に被弾することを考慮し光銃の引き金を引けずにいる。
「見つけましたよ」
透明化しているはずのオリヴィエの背後に現れたカサブランカは両手の爪に血を纏い鋭利な刃物の様な形状へ変化させ首筋を狙い振りかざす。すんでのところで躱したものの、視界を奪われたオリヴィエは追い詰められてしまう。
阿鼻叫喚の惨劇の中、アリスと花音は至って冷静に瞼を閉じ立ち尽くしていた。異形と化したフォール兵の雄叫び、交戦するバロール兵の足音や悲鳴、荒い吐息や光銃の銃声。それら全てを聞き漏らさない様に全神経を聴覚に集中させ、全員の位置を特定する。
無数の音の中から、二人はオリヴィエとカサブランカを探す。カサブランカの攻撃を凌ごうと駆け回るオリヴィエの位置を把握すると、花音は息を吸い込んで出来るだけ大声で呼びかけた。
「オリヴィエ! 止まれ!」
「いまは無理よ!」
「オリヴィエさん、信じて下さい!」
「……ッ! 信じるわよ!」
オリヴィエは足を止め光銃を構える。その瞬間、カサブランカの爪がオリヴィエの喉笛まで迫った。
「無駄な足掻きもここまでですよ———がはっ!」
「そこだあああああ‼︎」
オリヴィエの喉を引き裂くよりも早く、両足に光を纏った花音は超高速で駆け出しカサブランカを力一杯蹴り上げた。血の霧から吹き飛ばされたカサブランカに追い討ちをかけるため、アリスは同じく両足に光を纏い飛び上がるとありったけのノーツを展開して擊ち出した。ノーツの弾幕による衝撃波により血の霧が徐々に薄れていく。
「……見事です。ええ、実にお見事ですわアリス様、お仲間の皆様! これ程の痛みは、あの娘との戦い以来です!」
全身の骨が砕けまともに動くこともままならないはずのカサブランカは、やはり動じることなく声を上げながら無理矢理身体を動かし立ち上がった。
「…………あ、……あぁ……」
視界が戻るにつれ、辺りの様子を見つめるオリヴィエは声を漏らしながら突然膝から崩れ落ちてしまう。咄嗟にアリスが駆け寄るも、ガタガタと肩を抱きながら震えるオリヴィエはうわ言のようにごめんなさいと繰り返していた。
「オリヴィエさん! しっかり!」
「ちょっと、どうしたの!? アンタ、軍人なんでしょ! 目を背けたくなる気持ちは分かるけど、前を向け!」
花音の呼びかけにも応えることなく、オリヴィエの身体の震えはさらに激しさを増していた。その様子を楽しそうに微笑みながら見つめるカサブランカは纏わりつく血を舐めながら口を開く。
「無理ですわ。オリヴィエ様にとって、この様な惨劇はトラウマですもの」
「アンタ、何を言ってんの!」
「そうですわよね、オリヴィエ様? 貴女の犯したほんの些細な判断ミス。それにより貴女は多くの仲間を……最愛の友人を失ったんですものね」
「いや……いやあああああああああああ‼︎」
泣き叫ぶオリヴィエを他所に、カサブランカは高らかに笑い血を纏い怪物の姿へと変貌した。




