罪と罰
一年前———。
フォール軍との争いが加速度的に苛烈を極める中、オリヴィエ率いる狙撃隊とオリヴィエの無二の親友であるバネッサ・クライスが率いる装甲兵は国境付近の戦闘に参加していた。多くの犠牲を払いながら、戦況はバロール側が僅かながら優勢だった。
「オリヴィエ、一杯どうだ?」
安物のラム酒を抱えながらバネッサは作戦を練るオリヴィエの側に座ると、返事も聞かずに栓を開けグラスにラム酒を注ぐ。呑気に酒盛りしてる場合じゃないでしょ、と呆れたように言いながらもオリヴィエはグラスを受け取り口に含む。
「明日にでも死ぬかもしれないんだ、休める時には目一杯楽しむくらいの権利はオレ達にもあるだろ?」
無邪気に笑いながらそう言うと、バネッサはグラスを仰いで再びラム酒を注ぐ。男勝りなバネッサと幼い頃から共に育ち、どんな状況でも先陣を切る勇猛さに敬意と信頼を寄せていたオリヴィエは微笑みながらそうね、と返しラム酒を飲み干した。
時刻は午後九時を回った頃。寒空の下、オリヴィエとバネッサが思い出話に花を咲かせている最中、それは突如として飛来した。
地を揺るがし飛来したそれは大気を震わせるほどの高音を響かせる。おそらく位置を味方へ知らせているのだろう、彼方遠方から流星の様に軌跡を残してオリヴィエの元へと迫っていた。
「何だあれ、見たことねえ機体だ! 新型か!?」
「総員戦闘準備!」
すぐさま武装したバネッサと同時に、オリヴィエは光銃を掲げ空に赤い光を撃ち放った。
緊急時の発光弾。バロール兵は皆慌てて武装しテントから飛び出すと飛来してくる新型機兵との交戦を開始した。戦時条約の一つ、休戦時は双方攻撃を行わない。という規約を違反したフォール軍の急襲、油断していたバロール兵を蹂躙するのにそう時間は掛からなかった。悲鳴と断末魔は入り混じり、飛び散る血が白銀の雪原を真紅に染め上げる。
「オリヴィエ、兵と撤退しろ! オレが時間を稼ぐ!」
「でも!」
「私情を挟むな! これ以上被害が出ねえうちに態勢を立て直せ!」
ここは戦場、命の奪い合いを行う場であることはオリヴィエも理解はしている。そして、たった一人残り時間を稼ぐと言ったバネッサが生きて戻ることもないということも、オリヴィエはすぐに理解出来た。
たった一人の親友、しかし多くの兵力を失うことは避けなければならない現状にオリヴィエは唇を噛み締め機兵と戦うバネッサに背を向け撤退の指示を出す。
生き残った兵と共に数キロ離れたオリヴィエは後方から響く爆発音を聞き焦燥した面持ちで振り向く。引き止める兵に踵を返し、オリヴィエは弾ける様にバネッサの元へと駆け出していた。幼い頃の記憶、平凡だった日々がオリヴィエの脳内を駆け巡る。息を切らし、野営していた場所へと戻ったオリヴィエの目に飛び込んだのは、ボロボロになり瓦礫と化した機兵と共に地に伏せるバネッサの姿だった。
「バネッサ!」
まだ息のあるバネッサに駆け寄り応急処置を施す。
まだ間に合う。すぐに本部へ戻り治療すればまだ助かるはず。そう考えオリヴィエは虫の息のバネッサを抱え上げようとした、その時だった。
「ッ!!」
バラバラになった機兵の山の中から再起動した一体の機兵は火花を散らせながらその機体を軋ませ立ち上がると、残ったエネルギーを腕に取り付いたブレードへ充填し、オリヴィエ目掛けて振り下ろした。
光銃を構えるがブレードが目前まで迫る。差し違える覚悟で引き金を引こうとした瞬間、オリヴィエの身体は勢い良く何かに突き飛ばされた。
「言ったろ……私情を挟むなって……」
「あ、ああ、バネッサ!」
顔を上げると、そこにはオリヴィエを突き飛ばし盾となる様に機兵に背を向けながら、ブレードに身体を貫かれたバネッサの姿があった。




