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Idea  作者: ひのきそら
第二章 妖魔剣聖譚
39/58

龍、天衣を纏いて———

 超高速の剣戟が飛び交う。グランとは違い一撃一撃が必殺の威力をこそ秘めてはいない。だが、グラン以上の速度で繰り出される刃の雨は着実にダメージを蓄積させていく。加えて周囲の水を自在に操り逃げ場を無くす様に立ち回る。


「水を自在に操る力。なるほど、地の利はそちらにあるということか」


「ご名答! 私は水から魔力を得てそれを使役することが出来る。水辺において、私は無敵なんだよ」


 一向に降り止まない雨から無尽蔵に魔力を汲み取るミノリの攻撃はさらにその激しさを増す。しかし、振るわれる刃の全てを斬り払い迫り来る水の刃までも弾き返す。アリスと紡が繰り出す千変万化の太刀筋は、徐々にミノリを追い詰めていた。


「無敵か……。生憎と、拙僧の剣は無限の剣技。如何に面妖な太刀筋であろうと、その全てを捉え斬り伏せる」


「紡さん!」


「うむ、攻め切るぞ!」


 先ほどの状況とは一転、二人が繰り出す怒涛の剣戟に圧倒され防戦に徹するしかないミノリは態勢を立て直そうとたまらず飛び退いた。その一瞬の隙を見逃すはずも無く、アリスと紡は同時に駆け出した。


「無窮一刀流・八重桜!」


「無窮一刀流・青水無月!」


 アリスが放つ超高速の斬撃がミノリの使役する漆黒の龍を一瞬で小間切れにする。紡の放った一撃を防ごうと刀を振るうも、あと一手間に合わずミノリの肩から斜めへ斬りつけ血飛沫が飛び散った。


「詰みだ。貴様の剣では、拙僧を殺すことは出来ん」


「ミノリさん、こんなこともうやめて下さい。今なら、今ならまだ間に合います!」


「…………ふふ。あっはは、あっはははははははは!」


 身体から流れる血を見つめながら、ミノリは狂った様に笑い声を上げる。足元の水が浮かび上がりミノリの全身を覆ったかと思うと、負傷した傷口が癒え羽衣の様な形状に へと変化した。


「なにが可笑しい?」


「いやあ、あの女とおんなじ事言うもんだから……ついね」


「あの女? まさか……」


「礼装・天衣あまごろも。あの女を殺すためのとっておきだったんだけど……気が変わった」


 雨雲が雷を帯びながら渦巻いていく。空を泳ぐ天女の様な姿のミノリは、神々しい光を放つ礼装を纏い刀身に大量の水を収束させる。


「認めるよ。こと剣技において、私は貴方達に敵わない。それなら、小賢しい剣技を押し潰すくらいの火力を用意すればいいだけだよね」


「ミノリさん!」


「アリスちゃん。貴女がどれだけ戦ったとしても、この世界は……Ideaはもう手遅れなんだよ」


 大気を震わせる咆哮が轟く。渦巻く雨雲の中から、視界に収まらないほど巨大な水の龍が姿を現した。


「我が名はミノリ・マクファーレン。主命により、この世界を暗雲に染め上げる者」

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