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Idea  作者: ひのきそら
第二章 妖魔剣聖譚
36/58

無窮

 抜剣と同時に懐へ飛び込んだアリスの刀が黒い妖魔を襲う。紡も後に続き息のあった剣戟で黒い妖魔を追い詰めていく。


「「無窮一刀流・八重桜!」」


 居合の構えから同時に繰り出される刀の斬撃が、黒い妖魔に着実にダメージを与える。加えて銀狼による援護でまともに身動きが取れずにいた。拳を振り上げ反撃を試みるも無駄の無い体さばきで全てをいなし斬り刻まれていく。


 たまらず倒れ込む黒い妖魔を前に、二人は刀を鞘に納め再び居合の構えをとり、意識の全てを刀に集中させる。周囲の喧騒、雑音は消え去り、心臓の鼓動だけが木霊していた。


「我が無窮一刀流、その真髄は無限へ至り全てを知り全てを阻む無双の剣。この一太刀でもって、貴様との果し合いに決着をつけようぞ」


 影が揺れる。霞がかかったかの様に二人の空間はぼやけ姿を捉えることが出来なくなった。数多の剣、無数に広がる可能性の中から最適、最善を選び必殺の一撃を解き放つ。


「「無窮一刀流・奥義 絶影」」


 決着は呆気ないほど一瞬だった。視認を許さない超高速の抜刀術、背後に移動していた二人に黒い妖魔が気が付いた時には、既にその頭は首から離れ地に落ちていた。斬られた首から大量の血を吹き出し、黒い妖魔の身体は力無く倒れ込みその身は徐々に土塊へと変化していく。同時に、空を覆う闇が晴れ湧き出ていたバグズも塵となって霧散した。


「我らの勝利だ、勝ち鬨を上げろ!」


 銀狼達の雄叫びが響き渡る。緊迫していた状況から解放された紡も肩の力を抜き笑みをこぼす。


「誠に感謝致す。ありす殿の助力が無ければ、此度の勝利は得られなかったであろう」


「そんな、当然のことですから!」


 戦いが終わった———。そう思っていた矢先、アリスはある異変に気付く。不自然なほど分厚い雨雲が、異常な速度で広がり空を覆っていた。瞬く間に激しい雨が降りしきり木々を靡かせるほどの強風が吹き荒れる。


「ッ! あれって!?」


 山の麓、里がある方角へ目を向けると不規則に点滅する光が上空に上がっていた。嫌な胸騒ぎを覚えた二人は言葉を交わすことなく同時に山を降り始める。


「あの光、きっと花音ちゃんです! もしかしたら、里で何かあったのかもしれません!」


「うむ、急ぐぞ!」


 勝利の余韻に浸る間もなく、二人は全速力で里に向けて足を進めた。

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