朱色の光
湧き出たバグズの相手を銀狼に任せ、アリスと紡は復活した黒い妖魔へと駆け出す。先ほどよりも攻撃の速度が増し、撃ち出すノーツは瘴気に掻き消され全く通じず、紡の振るう刀も鉄のような硬さの外皮で弾かれてしまう。攻めあぐねる二人に追い討ちをかける様に黒い妖魔は自慢の剛腕を振り回した。
「このままでは押し切られる。ありす殿、拙僧が引き付ける間に先程の光の球を!」
「はい!」
捨て身覚悟で黒い妖魔の気を引く紡の後方で、アリスはノーツを収束させ光球へと変化させる。限界まで光球を膨張させ黒い妖魔目掛けて放とうとした刹那、地中から生き残っていた妖魔が現れアリスを勢い良く殴り飛ばした。
「がは!」
「ありす殿!」
紡の見せた一瞬の隙を黒い妖魔は見逃さず瘴気を頭部へ集め地面を抉るほどの勢いで突進を繰り出し刀で防ごうとした紡を無理矢理地面に押し潰した。
血を吐きながら痛みに耐える紡にトドメを刺さんと振り下ろされた拳を、ギリギリのところでアリスが展開した光の壁で防ぐ。形勢が逆転した二人の耳に、森の奥深くから銀狼の遠吠えが何重にも重なって聞こえてきた。数え切れないほどの銀狼の大群が勇猛果敢に黒い妖魔に飛び掛かり牙と爪を突き立てる。
「我らの縄張りを侵す者、我らの友を害する者に報いを受けさせてやれ!」
リーダーの檄が轟く。傾いていた戦況は一変、銀狼はその圧倒的な数でもって湧き出るバグズと妖魔を圧倒した。
「立つのだ。何も無かった荒れ果てた土地を、多くの人々で賑わう里にまでしたお前達人間がこの程度で諦めるつもりか?」
「愚問だ、銀狼の長よ」
軋む身体に鞭を打ち、紡は被っていた深編笠を脱ぎ捨て黒い妖魔と対峙する。赤い瞳に湧き上がる闘志を宿し、刀を握る手に力を込める。
「ありす殿、まだ戦えるか?」
力強く頷くアリスの目に迷いは無かった。里で帰りを待つ仲間のため、身体を襲う痛みを跳ね除け紡の側に並び立つ。その瞬間、首元のペンダントが淡い光を灯した。
「私にも守りたい大切な人達がいます。里の皆さんを、銀狼の皆さんを……この世界を守るために、最後まで戦い抜きます!」
ペンダントが輝きを放つ。鮮やかな朱色の光がアリスを包み、纏っていたアイドル衣装はその姿を変える。後ろ髪を一つに束ね、紡に似た朱色の着物と袴を纏い、腰には一本の刀が現れた。
「ありす殿、その姿!?」
「私にもよく分からないんです。戦うって強く願った時に、このペンダントが力を貸してくれるんです。花音ちゃんの世界でもそうでした」
「問答は後にしろ、来るぞ!」




