悪意は曇天と共に
アリスと紡が銀狼の集落へと急いでいる頃。里では門の修繕がほぼ完了し、里を覆う竹垣の補強に取り掛かっていた。作業も一段落つき、煙草を吸い一服していた龍二と里の男達の元にお松と梅が大量のおにぎりを持って来た。
「お、気が効くなあ嬢ちゃん。あんがとよ!」
「龍二はん、作業の方はどうなんや?」
「ああ、もうそろそろ終わる頃だな。んで、花音の調子はどうだ、まだ目を覚まさねえのか?」
お松は目を伏せ首を横に振る。増産バグズとグランとの戦闘で負ったダメージがまだ残っているらしく、使用人がつきっきりで看病をしてはいるがまだ眠ったままだと答えた。重い空気の中、梅はおにぎりを龍二に差し出し明るい笑顔で口を開いた。
「大丈夫、きっとすぐに良くなるよ! だってこの里は桔梗様の加護があるんだから!」
「桔梗様? なんやそれ、紡はんと同じ名前やけどなんか関係あるんか?」
「桔梗様はこの里の長だよ! 里を守る結界も桔梗様が張ってくれたの! 紡兄はまだ小さい頃に桔梗様に拾われたんだって!」
「そうか……そうだな。俺たちが暗い顔しててもしょうがねえ、花音が回復するのを信じて待つとするか!」
そう言って龍二はおにぎりを受け取り勢い良く頬張る。里の男達も妖魔の討伐に向かった紡とアリスの帰りを信じて皆前を向いていた。
そんな彼等の希望を引き裂く様に、高見台に取り付けられている鐘が里に響き渡った。
「おいおい、冗談だろ!?」
「数理先に妖魔が見えるぞ! 数は……駄目だ、数え切れねえ!」
門の外から雄叫びが聞こえる。黒い瘴気こそ纏ってはいないが、数十体の妖魔達が里に向かって前進していた。男達はすぐさま武器を取り臨戦態勢に入る。妖魔達の影響か、快晴だった空をドス黒い雨雲が覆い強い雨が降りしきる。
「嬢ちゃん、ここは危ねえから母ちゃんのとこに戻れ!」
「う、うん!」
必死に元来た道を戻る梅の横を、鼻歌を唄い上機嫌なミノリが通り過ぎた。銃を手に取り警戒する龍二とお松も不自然なほど落ち着いた様子のミノリに気がつく。
「雨だね……」
「あ、ハイカラ団子娘! あんさんも早う離れとき!」
「妖魔がすぐそこまで来てる、お前さんも安全な場所まで逃げろ!」
「安全な場所? ふふっ、あっははははははは!」
狂気じみた笑い声を上げながら、ミノリは二人の静止を無視して門の前へと歩み寄る。雨水が一人でにうねりミノリに纏わり付いたかと思うと、徐々に形を変え純白の刀へと変化した。
「安全な場所なんて無いよ。だって……」
「なにをする気や!」
門の前で立ち止まり鞘から刀を引き抜く。半透明な刀身が薄暗い辺りを不気味に照らしていた。刀身の先に水が収束していき巨大な水泡となった瞬間、刀を横に薙ぎ払い水泡を破裂させ瀑布の如き勢いで修繕したばかりの門を粉砕した。
「だって、今からぜーんぶ消えて無くなるからさ!」
ミノリが弾ける様な笑顔でそう言うと、門前まで侵攻したいた妖魔達が一斉に黒い粘膜に包まれ、瘴気を纏い咆哮を轟かせた。




