山間の根城
黒い妖魔を撃退してすぐに門の修繕は開始された。またいつ襲撃があってもおかしくないと、里の人間の大半を集め急ピッチで作業が進められている。居ても立っても居られないといった様子の龍二も、彼らに混じって作業を手伝っていた。
「そういえばアリスはん。アリスはんが飛び出して行った時になんやハイカラな娘に話しかけられたんやけど、知り合いか?」
「ハイカラな娘? あ、ミノリさんのことですか? お団子食べてた」
「せや。そのハイカラ団子娘に言伝を頼まれたんや」
お松と合流したアリスと紡が屋敷で休んでいる中、ミノリの言伝を話し出す。ミノリが里に辿り着く前、山の中を彷徨い歩いていた際に件の黒い妖魔の姿を見たという。奇しくもその山はアリスたちがこの世界に漂着した際にいた山だった。紡は血相を変えお松に迫ったかと思うと、唇を噛み締め座り直した。
「紡さん、なにかあるんですか?」
「うむ、あの山は銀狼の一族の縄張りだ。手負いとはいえ、黒い妖魔相手に彼等だけで太刀打ち出来るかどうか……」
黒い妖魔の騒動で決別してしまっている手前、助けに向かったとしても追い返されてしまうのは目に見えていると呟き俯いてしまう。血が滲むほど手を握りしめる姿を見たアリスは立ち上がり俯いたままの紡に口を開く。
「行きましょう、紡さん」
「しかし……」
「今まで助け合って暮らしていたんです。誤解を解いて、また元の関係に戻る為にもあの黒い妖魔を倒すべきです!」
アリスの言葉で決心がついたのか、紡は顔を上げると両手で自分の顔を平手打ちして立ち上がりアリスを見据える。
「ありす殿、客人である其方にこの様な願いを請うのは情けない限りだ。だが、里の者たちを守るため、銀狼の一族を守るために今一度力を貸していただきたい」
「勿論です、こちらこそ協力させて下さい!」
事態は一刻を争う。未だ目を覚まさない花音の側を離れられないお松を残し、アリスと紡は銀狼の住まう山へ向かうため屋敷を出る。
門を修繕していた里の人間と龍二に妖魔の討伐に向かうことを説明し、馬を一頭借り受け里を出ようとした時、梅を連れたミノリが相変わらず団子を頬張りながら現れた。
「紡兄、どこ行くの?」
「梅、少しばかり里を離れる。案ずるな、すぐに戻る」
「絶対帰って来てね、絶対だよ!」
「ああ、約束だ」
「アリスちゃんも行くの?」
「ミノリさん。はい、私もこの里の皆さんの力になりたいですから」
気をつけてねと労うミノリに頭を下げ、紡と共に馬に乗り込み全速力で山へと向かった。




