隠れ里・霞
気を失ったままの梅と紡と共に元いた場所へと戻るアリス。見知らぬ少女と侍を連れて戻ってきたことで困惑していた龍二だったが、山の麓まで車を走らせた頃にはすっかり意気投合していた。
「龍二殿、この鉄の馬はどういった原理で動いておるのだ?」
「こりゃ車ってんだ。もっともっと先の時代じゃ大抵の奴らが乗り回す便利なもんだよ」
「むう、後の世では皆これを乗りこなしておるのか……便利な世なのだな」
「あー、楽しく話しとるとこ申し訳ないんやけど龍二はん、ちゃんと前見て運転しいよ」
男同士馬が合うのか車に乗るや否や喋り続ける二人に少しうんざりした様子のお松が注意した。山を抜けてからというもの、あれだけ快晴だったにも関わらず何処からともなく立ち込めた霧がどんどんと濃くなり視界が悪くなっていた。霧はさらにその濃度を増していき、遂にはどこを走っているのか分からなくなってしまった。
「参ったな、これじゃ進めねえぞ」
「龍二殿、構わず進んでくだされ」
「つってもなあ……この霧じゃ進みたくても進めねえしな」
「霧? ……む、そうだった失念していた」
何かを思い出したのか、紡は少し待つよう言うと車から降りて誰もいないはずの空間に向かって何か呟いた。しばらくそうしていると、あれだけ濃かった霧が徐々に晴れていく。
「拙僧の里は妖魔に襲われぬよう結界を張っていてな。里の者以外が容易に侵入出来ぬようになっているのを忘れていた、面目ない」
濃霧が完全に消え去り視界が明るくなった途端、目の前に巨大な竹垣の壁に囲まれた里が姿を現した。紡が手を上げると門が一人でに開く。
「歓迎しよう。拙僧の故郷、隠れ里・霞だ」
門を抜け里に入る。木造の平家が立ち並び多くの人で賑わいを見せている。紡と共に入ってきた車に皆興味津々なのかあっという間に大勢の観衆が集まり身動きが取れなくなってしまった。
「紡、戻ったのか! 梅ちゃんは無事か!?」
「心配無い、こちらの旅人らが助太刀してくれたのでな」
「こりゃなんだい? こんな鉄の塊が滑るように動いてたよ!」
「旅人さん達が助けてくれたってんならおもてなしせにゃいかんぞ!」
「おい、こっちで梅が寝てるぞ! 誰かおっ母呼んできてやれ!」
辺りの賑わいに気圧されながらもアリスは梅を抱えながら車を降り母親を探す。目を覚ました梅も周囲を見回している。しばらくすると、観衆の外から痩せこけた女性が早足で向かってくるのが見えた。
「梅!」
「おっ母!」
梅は涙を流しながら駆け寄り母親の胸に飛び込んだ。危険から解放されたことへの安心から涙を流し泣きじゃくる。
「バカ娘、里の外に一人で出ちゃいけないとあれほど言ったのに!」
「ごめんなさいー!」
「鶴子、無事に帰ってきたのだあまり叱らないでやれ」
紡が宥めると鶴子と呼ばれた女性はアリスに向かって深々と頭を下げながら礼を言う。もてなしの準備を始めると言いながら集まっていた観衆が散り散りになると、紡は自分の屋敷で休むよう提案してきた。
「後ほど里の者達で其方らをもてなしてくれる。まずは疲れを癒していただきたい」
「お気遣い感謝します」
「お姉ちゃん、またね!」
すっかり泣き止んだ梅と別れ、アリス達は紡の屋敷へと足を運んだ。




