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Idea  作者: ひのきそら
第二章 妖魔剣聖譚
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銀狼

 生い茂る草木を掻き分け少女が走る。使い古された和服に身を包む少女は、野草が入った小さな籠を大事そうに抱えながら息を切らして必死に何かから逃げていた。小川が流れる開けた場所まで辿り着いた時、足元の木の根につまづき少女はその場に倒れ込んでしまう。


「痛っ……ひい!」


 痛みで疼くまる少女は背後に迫る何かに怯え身体を震わせる。茂みから姿を現したそれは、美しい銀の毛並みに包まれた狼だった。不気味に喉を鳴らす銀狼の群れはリーダーと思われる一際体格の大きい銀狼に付き従う様に少女を取り囲んだ。


「おっ母の病気を治すにはこの薬草が必要なの! お願いだから、命だけは勘弁してください!」


 地面に頭を擦り付け少女は銀狼に向かって命乞いをする。しかし、少女の願いを無視して銀狼は一斉に牙を剥き出して少女に飛び掛かった。鋭い牙が少女の喉笛を噛み切ろうとした直後、その場に駆けつけたアリスの放つノーツが直撃し銀狼を吹き飛ばした。


 目の前に盾となって立つアリスを呆然と見つめる少女。銀狼も突然の襲撃に戸惑いを見せるがリーダーが吠えると直ぐに冷静さを取り戻し臨戦態勢を維持する。


「怪我はありませんか?」


「あ、貴女たちは……」


「説明はこの場を凌いでからや!」


「ぎゃあ! 妖魔!」


 アリスの身体から飛び降り側に駆け寄ったお松を見た瞬間、少女は叫び声を上げながら白目を剥き気を失ってしまった。


「はぁ!? 妖魔て、なに言うてんねんこの娘!」


「お松さん、とりあえずその子をお願いします!」


 背後にノーツを展開してアリスは銀狼と相対する。一瞬の隙を伺う銀狼の群れに、迂闊に動くことが出来ないアリス。痺れを切らした銀狼達は威勢よく吠えながら走り出した。すかさずノーツを撃ち出し飛び掛かる銀狼を迎撃する。ノーツに翻弄され近づくことが出来ない群れに向かってリーダーの銀狼が吠えたかと思うとすぐさま後退して睨み合う。


 膠着した状況の中、静観していたリーダーは音も無くアリス目掛けて突進する。再びアリスがノーツを撃ち出すも、リーダーの銀狼は縦横無尽に放たれたノーツを避けながらアリスの眼前へ迫り鋭い爪を振り下ろした。


「くっ!」


 アリスは咄嗟に光の壁を展開して難を逃れる。リーダーは後退し突然現れた光の壁と浮遊するノーツを交互に見つめている。配下にあたるであろう銀狼たちとは明らかに動きも判断力も違う。指示を出しているのか付き従う銀狼へリーダーが吠えると四方を取り囲むように銀狼達は陣取りジリジリと距離を詰めてくる。


「アリスはん、無闇に攻撃したらあかんで! こいつら学習しとる!」


 花音の世界にいたバグズに比べて数は少ない。だが、統率力がある分バグズとは違った手強さがあった。お松と少女をこの場から逃しても配下の銀狼が追ってしまう。アリスが思考を巡らせる最中、今まで冷静だったリーダーの様子が一変した。全身の毛を逆立て野太い唸り声を上げる。怒りを露わにしたその瞳は、アリスの背後へと向けられていた。


「間に合わないかと焦燥していたが、よもや助太刀があったとはな」

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