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6 王都ルフトブルク

【現在のステータス】

桜 LV 7(戦士)

 E : 兵士の剣/ 風紋の胸あて/うろこの盾

楓花 LV 6(盗賊)

 E : ルミナスナイフ / ぬののふく

ハンナ LV 10(神官)

 E : 鉄のメイス / 神官のローブ


【現在の場所】客の少ない宿屋


宿屋を出た桜、楓花、神官のハンナ――それに妖精のルフェルンは、しばらく続いた細い街道を抜け、ブルーメンと王都ルフトブルクを結ぶ大陸街道へ戻ってきた。


早朝にもかかわらず、街道には旅人や荷馬車の姿が少しずつ増え始めていた。桜たちもその流れに加わり、北にある王都を目指して歩き出す。


背後には遠く山並みが見えるものの、このあたりはなだらかな平野が広がっている。


「では、旅の再開ですね」


ハンナが穏やかに声をかけた。


「うん。王都へ行こう」


桜も前を向いたまま答えた。


三人が王都を目指すのは、はじまりの神殿で発動した危険回避の結界(エヴァトラン・クスト)によって行方不明になった神官ヨハンを助けるためだった。


ヨハンはマティアスとともに王都の宝物庫へ転送され、巡回中の兵士に発見されたことで、宝物庫への侵入者と疑われてしまった。マティアスは解放されたものの、ヨハンは拘束されたままだった。


「まさか、宝物庫に飛ばされるなんてね。運が悪いというか……」


桜は呆れたようにつぶやいた。


それでも、二人が無事だったとわかっただけでも朗報だった。カメリアもひまわりも、どこかで無事にいるに違いない。そう信じたい気持ちは、桜の中で変わらなかった。


ヨハンを解放するには、彼とマティアスが神官であることを神官長に証明してもらう必要があった。ところが、その神官長自身も結界によって飛ばされ、行方がわからなくなっている。


そこで頼りにされたのが、王都の兵士長ディートリヒの娘である桜だった。楓花と、付き添いのハンナも同行し、三人はこうして王都へ向かっているのである。


街道を進むうち、宿屋を出てからの旅がいかに平穏だったかを、桜はあらためて思った。泊まった宿屋もごく平凡で、これといったトラブルも起きていない。


ルフェルンは、幽霊騒ぎの余韻が残っているのか、それとも旅の疲れが出たのか、すっかり姿を見せなくなっていた。もっとも、彼女の姿が見えるのは桜だけだ。楓花やハンナが、その不在に気づくはずもなかった。


魔物や盗賊に遭遇することもない。隊商が行き交う大きな街道では、日中からそのようなものに襲われることなど、まずないはずだった。


とはいえ、最近はどうも物騒になってきている。何事もないからといって、油断はできなかった。


やがて街道の左手、西側には小さな丘陵が連なり、右手には南から流れてきた大きな川が、道に寄り添うように北へと続いていた。


この川をさかのぼれば、ブルーメンの町を出て間もないところにある船着き場へ行き着く。桜たちも、そこで小さな事件に巻き込まれて馬車を降り、以後は徒歩でこの道を進んできたのだった。


川は北へ向かうにつれて幅を増し、やがてルフト湖へと注いでいる。湖から流れ出た水はさらに海へと向かい、その河口には港町ハーフェンがあった。


広大なルフト湖のほとりに築かれているのが、風の国ルフトの王都ルフトブルクである。


歩き続けるうち、平野の彼方に、ひときわ高く空へ突き出した塔が見えてきた。


「……あれ、かな」


桜は目を細めた。


幼いころ、父の馬に乗せられて何度かルフトブルクを訪れたことがある。遠い記憶ではあったが、あの塔の姿ははっきりと覚えていた。


桜はふと肩のあたりに目をやった。いつもなら、こういうときには何かと話しかけてくる妖精がいるのだが、今日もずいぶん静かだった。


歩を進めるにつれ、塔は次第に大きくなっていった。その下には、巨大な城塞が広がっている。


厚い石造りの城壁に囲まれた城塞の中央には、王族が暮らす四階ほどの本城があり、そこからさらに高い主塔が空へと伸びていた。


その背後には、広大なルフト湖が静かに広がっていた。


その背後には、広大なルフト湖が静かに広がっていた。


王都ルフトブルク。


長い旅の果てに、桜たちはようやく、その全貌を目にしようとしていた。


昼をかなり過ぎたころだった。


ほとんど休むことなく歩き続けてきたせいで、疲れもさすがにたまっている。早朝から歩き通してきた桜は、ふと歩調を緩めた。


「さすがにお腹すいたね」


その言葉を口にした途端、桜の脳裏に、ひまわりの声が浮かんだ。


『なあなあ、もうお昼やろ? うち、めっちゃお腹すいたんやけど』


「……ふふっ」


思わず、桜の口元が緩む。


「どうした?」


楓花が不思議そうに尋ねた。


「ううん。ひまわりがいたら、たぶん今ごろ同じこと言ってるんやろなって」


「……確かに」


楓花も小さく笑った。


少し後ろを歩いていたハンナも、そんな二人の様子を見て、穏やかに微笑んでいた。


桜は肩まで届く黒髪を風になびかせ、楓花は黒いボブヘアに眼鏡をかけたまま、いつもの落ち着いた表情で前を見ていた。その少し後ろには、二十歳の神官であるハンナが静かについてきている。


「王都に着いたら、市場でお昼にしましょうか。もちろん、用件を済ませてからだけど」


ハンナが声をかけると、桜は嬉しそうに頷いた。


「うん。そうしよう」


三人はそのまま、王都へ向かって歩き続けた。





やがて、三人の前に、王都ルフトブルクを囲む厚い城壁が見えてきた。


城壁のところどころには見張り塔が設けられ、その中央には大きな城門が開かれている。


今でこそ平和な時代だが、かつては敵国の大軍がこの城壁へ攻め寄せたこともあった。それでも、この城壁はびくともしなかったという。


もちろん、いまでは魔物や盗賊を街の中へ入れないための、大きな防壁としての役割がほとんどである。


それなのに、最近は王都の警備が厳しくなったらしい――。


途中の宿場町で聞いた話を思い出しながら、桜たちは門へ近づいていった。


すると、脇に立っていた兵士が三人へ声をかけた。


「止まってください」


三人が足を止めると、兵士は桜たちを順に見た。


どう見ても、商人の一行には見えない。


女性が三人。そのうち二人は十五歳くらいの、まだ年端もいかない少女である。一人は鎧を身につけているが、見たところ戦士の見習いといったところだろう。


クヴェル村からブルーメンを経て、ここまで来たという。馬車で来たわけでもないことは確認している。


よくもまあ、こんなところまで歩いてきたものだ。


「王都へ来られた目的を伺っても?」


「王城へ行きたいんです」


桜が答えると、兵士の視線が再び三人の姿を追った。


「王城へ?」


兵士が怪訝そうな顔をするのも無理はない。王城は、一般の者が気軽に訪れるような場所ではないのだから。


「はい。少し事情があって……」


そのとき、兵士の目がハンナの服装に止まった。


旅装として自然に見えていたため、これまで気づかなかったのだろう。よく見ると、それは神官のローブだった。


「……神官の方ですか?」


「はい。ヴィータ様に仕える神官です」


ハンナが静かに答えると、兵士はわずかに態度を改めた。


「そうですか。それでしたら、お通りください。ただ、王城へ行かれるのであれば、さらに確認が必要になるはずです。そこで事情を説明してください」


兵士はそう言って、城下町の奥へ続く道を指し示した。


――ここまでは問題ない、ということなのだろう。


「ありがとうございます」


ハンナが軽く頭を下げる。


三人は兵士に会釈を返すと、そのまま城門をくぐった。


やがて、王都ルフトブルクの城下町へと足を踏み入れた。





城下町に入ると、広い通りの両側には石造りの建物が並び、多くの人々が行き交っていた。宿屋や食堂、工房なども見えるが、三人には街を見て回る余裕はない。


少し空腹は感じているが、まずは用件を済ませておくべきだろう。


通りの向こうには、先ほどから見えていた王城がある。


桜は、まず父のディートリヒに会って、事情を説明しなければならない。問題は、無事に取り次いでもらえるかどうかだ。


王都の警備が厳重になったということは、当然、王城もそれ以上に警戒しているはずである。


三人は王城を目指して歩いていった。


城下町を抜けると、王城へ続く大きな通りに出た。


平野の中にある、わずかに小高い丘。その上に王城は築かれている。


山や谷といった地形に頼るのではなく、幾重もの厚い城壁によって守られた、巨大な城である。背後には、広大なルフト湖が静かに広がっている。


近づくにつれて、厚い城壁と、その中央にそびえる本城の姿が、次第に大きくなっていった。なかでも中央にそびえる主塔はひときわ高く、その姿には圧倒されるような迫力がある。


ルフト湖を背にした巨大な城は、遠くから見ていたとき以上の威容を見せていた。


――やがて、三人は王城の正門へとたどり着いた。


左右に立っていた二人の兵士が、こちらへ目を向ける。


三人とも女性で、しかも若い。王城を訪れる一行としては珍しいのだろう。兵士たちの視線には、わずかな戸惑いが浮かんでいた。


門の前まで来ると、そのうちの一人が、まずハンナの姿に気づいて口を開いた。


「……神官のようだが。何用だ」


ぶっきらぼうな声だった。


ハンナが答えようとすると、隣にいたもう一人の門番が小さく呟いた。


「神官が来る予定は聞いていないはずだ」


「分かっている」


最初の門番が短く答え、改めて三人へ目を向ける。


「それで、何の用だ」


「えーと……」


桜が戸惑いながら答えようとする。


ハンナが神官であることを頼りにしようとしたのかもしれない。楓花も、どう説明したものかと考えているようだった。


すると、ハンナが一歩前に出た。


「直接、兵士長のディートリヒ閣下とお会いして、お話をしたいのです」


「……ディートリヒ殿に?」


門番の表情が変わった。


まさか、目の前の少女たちがディートリヒとの面会を求めてくるとは思っていなかったのだろう。


もう一人の門番も、改めて三人の姿を見た。


そして、その視線が桜の顔で止まった。


「……ひょっとして、サクラお嬢ちゃん?」


桜は名前を呼ばれて、少し驚いた。


それから、静かにうなずく。


「ああ。やっぱり。ずいぶんと大きくなったな」


門番は懐かしそうに笑った。


「小さかったから、覚えていないかもしれないけどな。昔、ここでディートリヒ殿と一緒に働いていたんだ」


桜には、その頃の記憶がほとんどない。


幼い頃に父に連れられて王都へ来たことはある。けれど、城の中を自由に歩き回ったわけではなく、父について何度か訪れただけだった。


目の前の門番の顔にも、覚えはなかった。


「ちょっと確認してきてくれ。ディートリヒ殿に、娘さんが来ていると伝えてくれ」


「はっ。分かりました」


先ほどまでのぶっきらぼうな態度とは打って変わり、門番は背筋を伸ばした。


桜がその様子を見ていると、隣にいた楓花が小さく呟いた。


「お父さんって、すごい人だったんだな」


「なにも出ないよ?」


桜は、少しいたずらっぽく笑った。


それからしばらくして、先ほどの兵士が戻ってきた。


「ディートリヒ殿から、お許しが出ました。どうぞ、お城へ」


「ありがとうございます」


ハンナが頭を下げる。


こうして三人は、王城の門をくぐった。

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