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03 ギュンターおじさん

【現在のステータス】

桜 LV 1 (戦士)

 E : なまくらのつるぎ / かわのふく

楓花 LV 1 (盗賊)

 E : くだものナイフ / ぬののふく

カメリア Lv 1 (魔法使い)

 E : カメリアのステッキ / ぬののローブ

ひまわり LV 1 (魔法使い)

 E : かしのつえ / ぬののローブ


【現在の場所】クヴェルの村


昼の陽射しは少しずつ暖かさを増し、クヴェル村の石畳には巡礼者や村人の姿が行き交っていた。


はじまりの神殿へ続く坂道の途中に、小さな武器屋があった。

店先には剣や槍が並び、陽の光を受けて鈍い銀色の輝きを放っている。


入口の脇では、一人の初老の男が剣を砥石へ当てていた。


一定の調子で響く金属音が、静かな村へ心地よく広がっている。


桜は思わず笑顔になった。


「ギュンターおじさん」


男は顔を上げた。


かつては名の知れた戦士だったらしい。

引退した今でも鍛え抜かれた体つきは変わらないが、鋭かった眼差しも、今ではすっかり穏やかになっている。


桜を見るなり、厳つい顔が柔らかく崩れた。


「おお、サクラちゃんか」


その視線は自然と桜の姿を追う。


幼い頃は、父親の後ろをちょこちょこと歩いていた小さな少女だった。

ディートリヒがブルーメンの町から連れてくるたび、この店にもよく顔を出していたものである。


今では肩まで伸びた黒髪を揺らし、涼しげな黒い瞳でまっすぐ相手を見つめる、一人の娘へと成長していた。


「神殿への巡礼か」


「うん」


「そうか。もう十五歳か」


ギュンターは目を細めた。


「時が経つのは早いもんだ」


桜は少し照れくさそうに笑った。


「マルタおばさんから」


そう言ってワインを差し出す。


「おお、預かっててくれたか」


ギュンターは大事そうに受け取ると、満足そうに頷いた。


「ディートリヒのやつも律儀だ」


楓花は店先へ並ぶ武具へ目を向ける。


剣だけではない。


鎚、鉈、革鎧。


工具まで整然と並び、どれも丁寧に手入れされていた。


楓花はそれらを細部まで確かめるように、一つひとつへ食い入るような視線を向ける。


「お嬢ちゃんは、道具を見る目が違うな」


楓花の様子を見て、ギュンターが笑った。


「ただ見るだけです」


楓花は真面目に答える。


「本当かなぁ」


桜がからかうように言うと、ひまわりが思わず吹き出した。


その笑いにつられるように、ギュンターも豪快に笑う。


楓花は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、桜を立てたのか反論はしなかった。


カメリアだけは、そのやり取りには加わらず、店先へ並ぶ一本一本の剣を静かに見つめていた。


ひとしきり笑い声が響いたあと、ギュンターはふと表情を引き締めた。


「そういや、最近妙な話を聞いてな」


四人は自然と耳を傾ける。


「なんでも、妙な仮面をつけた男が、この辺りをうろついていたそうだ」


一瞬だけ、その場の空気が静かになった。


そのときだった。


「……その男を見たのですか」


口を開いたのは、カメリアだった。


桜は思わず彼女を見る。


その問いかけは、いつものカメリアらしくない。

静かな声だったが、どこか相手の返事を急がせるような響きがあった。


「いや」


ギュンターは首を振る。


「俺じゃない。ここに来ていた巡礼者から聞いた話だ」


「そうなんですか」


カメリアは小さく頷き、それ以上は何も言わなかった。


ギュンターは続ける。


「それと、宿屋には身なりのいい旅人が泊まっているそうだ」


「貴族の人ですか」


桜が尋ねる。


「さあな」


ギュンターは肩をすくめた。


「俺も護衛らしい者は見かけたが、それ以上は知らん。誰が泊まっているのかは、村の者のなかでも噂になってた」


一呼吸置いて笑う。


「宿の亭主も、こういうときは口が堅いからな。何を聞いても、『お客様のことは話せません』の一点張りさ」


ギュンターは笑った。


「そうそう。これはワインのお礼だ」


そう言うと、店先に並べられていた武器の中から一本の銅のつるぎを取り出し、桜へ差し出す。


「まあ、片田舎の武器屋だからな。大したものはやれんが」


「悪いよ」


桜は遠慮するように首を振った。


だが、ギュンターは手入れの行き届いた銅のつるぎを半ば無理やり桜へ持たせる。


「護身用だ。この辺りも最近は物騒でな。魔物だって出る」


桜は少し困ったように笑いながら、その剣を受け取った。


「……ありがとう」


どこか照れくさそうに、小さく礼を言う。


挿絵(By みてみん)




そして四人は武器屋をあとにし、本来の目的である「はじまりの神殿」へ向かった。


石段を登るにつれ、神殿の姿はさらに大きく迫ってくる。


幾度となく風雨へさらされながらも、太い木柱は今なお堂々と立ち並び、高く伸びた尖塔は青空を真っすぐ指していた。


重厚な木の扉は建物の大きさに比べれば意外なほど控えめで、それがかえって神殿の威厳を際立たせている。


四人は静かに扉をくぐった。


外の賑わいが嘘のように遠ざかる。


高い天井を支える柱が左右へ規則正しく並び、その先には大きな祭壇が据えられていた。


色鮮やかなステンドグラスから差し込む陽光が床へ赤や青の模様を落とし、神殿の中を静かな光で包んでいる。


祭壇の部屋の周りでは神官や巫女たちが祭具を整え、花を飾り、静かに準備を進めていた。


十五歳を迎えた若者が、生命の神ヴィータへ祈りを捧げ、一人前の証を授かる儀式。


人々はそれを「十五歳の巡礼」と呼んでいた。


決まった日取りがあるわけではない。


冬に執り行われる大神祭の三日間を除けば、一年を通して各地から若者が訪れ、順に儀式を受けていく。


この日も、本来なら静かに、いつもどおり始まっているはずだった。


だが――


不思議なことに、儀式が始まる気配は、いつまで待ってもなかった。


準備はすでに終わっているように見える。


それなのに誰一人として祭壇のある部屋へ進もうとはせず、神殿全体が、まるで誰かの到着を待っているかのような静けさに包まれていた。


桜は思わず首をかしげた。


「……何かあったのかな」


受付にいた神官が四人へ気づき、申し訳なさそうに歩み寄ってくる。


「一五歳の巡礼の方ですね」


「はい」


「誠に申し訳ございません。ただいま重要な儀式の準備がございまして、巡礼の儀式は、しばらくお待ちいただくことになります」


「どれくらいですか」


楓花が四人を代表するように尋ねた。


神官は少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。


「申し訳ございません。それは、お答えいたしかねます」


「何かあったんですか」


桜も尋ねる。


神官は困ったように微笑み、小さく首を振った。


「それも、お話しできません。どうか、しばらくお待ちいただければと」


桜は神殿の中を見回した。


神官たちは皆落ち着いている。

慌てている様子はない。


それでも、この静けさはどこか落ち着かない。


そんな空気だけが神殿を満たしていた。


「帰りの巡礼馬車に間に合うのかな……」


桜がぽつりと漏らす。


神官は申し訳なさそうに頭を下げるだけだった。


これ以上尋ねても答えは得られそうにない。


四人は顔を見合わせる。


「……仕方ないね」


桜が苦笑する。


「時間をつぶそう」


楓花が静かに言った。


ひまわりは少し不満そうに頬を膨らませる。


「せっかく来たのになぁ」


カメリアだけは最後にもう一度祭壇の奥へ目を向けると、何も言わず神殿をあとにした。





神殿をあとにした四人は、時間をつぶすように村の道具屋へ立ち寄った。


店先には薬草や包帯、保存食など、旅に必要な品々が並んでいる。

ひまわりは昼食へ行きたそうだったが、神殿のことが気になり、そんな気分にもなれないらしい。


桜は薬草を数束手に取った。


その様子を見ていたカメリアが、静かに口を開く。


「……この辺りは、良い薬草が採れると聞いたことがあります」


店主は嬉しそうに頷いた。


「おや、お嬢さん、よく知ってるねぇ。この辺りは昔から薬草の名産地なんだよ」


桜も頷く。


「うん。父も、この村の薬草は評判がいいって言ってた」


幼い頃、そう話していた父のことを思い出す。


そして少しだけ声を落とした。


「でも、本当に質のいいものは、なかなか店には並ばないんだけどね」


「と言うと?」


カメリアが話しを合わせる。


「数が少ないし、採れる場所も限られてるから」


桜はそれ以上は語らなかった。


幼い頃、父から「一人では近づくな」とだけ言われた場所がある。

そのことを、不意に思い出していた。


その横で、ひまわりが感心したように声を上げる。


「えっ。じゃあ、ここで売っとるんは普通の薬草なんや」


店の中が、一瞬だけ静まり返る。


「ひ、ひまわり……」


桜は困ったように袖を引いた。


店主は苦笑しながら肩をすくめる。


「普通と言われると、商売あがったりだけどね」


ひまわりは「あっ」と口を押さえ、照れくさそうに頭をかいた。


楓花は小さく咳払いをした。


「……薬草も買ったし、そろそろ行こうか」


「う、うん」


桜は苦笑しながら代金を払い、四人は店をあとにした。


店を出ると、春の風はまだ少し肌寒く、それでも心地よく頬をなでた。


四人は石畳の道を歩く。


神殿へ続く坂道とは反対側には、村で一番大きな二階建ての宿が静かに建っていた。

玄関先には旅人の馬がつながれ、荷馬車も一台止まっている。


巡礼者だけではない。

遠方からの旅人も、この宿を利用しているのだろう。


桜は何気なく宿を見上げた。


二階の窓を見上げると、一部屋だけ厚いカーテンが閉ざされたままだった。

昼間だというのに、陽の光を拒むように。


――あの部屋に、ギュンターおじさんが話していた「身なりのいい旅人」が泊まっているのだろうか。


桜は少しだけ考え込む。


「……少しだけ、様子を見ていこうか」


三人は顔を見合わせた。


そして楓花は肩をすくめた。


「見るだけ?」


「うん。もちろん」


ひまわりはすぐに笑顔になる。


「何かおいしいもんもあるかもしれへん」


「それが目的じゃないでしょう」


桜は苦笑した。


四人は並んで宿屋へ向かって歩き始める。


その宿には、まだ誰も知らない出会いが、静かに待っていた。

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