08 地上への脱出
【現在のステータス】
桜 LV 3(戦士)執筆バックアップ
E : 砕けたのつるぎ / かわのふく
楓花 LV 3(盗賊)
E : くだものナイフ / ぬののふく
カメリア Lv 3(魔法使い)
E : カメリアのステッキ / ぬののローブ
ひまわり LV 3(魔法使い)
E : かしのつえ / ぬののローブ
【現在の場所】
地下の古代遺跡
長い階段を上り続けた四人は、やがて行き止まりに突き当たった。
そこには、一枚の扉がある。
「……出口かな」
桜がランタンを掲げた。
洞窟から地下遺跡へ入ってから、どれほど歩いただろう。ランタンに照らされた洞窟の闇と、地下遺跡の淡い魔法灯を見続けてきた四人の目は、いつの間にか、その暗さに慣れていた。
「急に明るいところへ出ると、目を傷めるから、注意して」
楓花が言った。
その注意は、単なる知識から出たものではなかった。楓花自身も、いよいよ地上へ出るのだと感じているのだろう。
桜が扉のノブに手をかける。
今度は、何の抵抗もなく回った。
「開く」
扉の向こうへ出る。
そこは、薄暗い地下室だった。
桜と楓花がランタンを照らすと、壁際には木箱や棚が並び、布に包まれた道具や燭台、器、儀式に使うと思われる品々が収められている。
「どこかの物置みたいや」
ひまわりが棚を覗き込んだ。
どうやら、教会で使う祭具などを保管するための地下室らしい。
洞窟から地下の古代遺跡へ――。非日常の空間を抜けて、ようやく日常の世界へ戻ってきた。
脱出できた。
そのことを実感すると、四人の身体から、ようやく力が抜けていった。
桜が念のため、出てきた扉のノブを回してみる。
「鍵がかかってる。向こうの階段からは開けられるけど、この部屋から入るには鍵がいるんだね」
桜が言った。
楓花は扉と、その周囲をじっと観察した。
「……埃が積もってる」
指先で扉の縁をなぞる。
「長いあいだ、この扉は使われていなかったみたい」
「じゃあ、うちらが初めて?」
ひまわりが尋ねる。
「さすがに初めてではないでしょう。必要があったから、この扉は作られたはずです」
楓花は扉を眺めたまま続けた。
「ただ、何年も使われていなかったのは確かだよ」
四人は地下室を出た。
階段を上がると、見覚えのある神殿の内部が現れた。
地上一階部分だろう。
古めかしい木の柱。静かに差し込む光。祭壇へ続く広い床。
桜は足を止めた。
「ここって……」
記憶をたどる。
幼いころ、父ディードリヒに何度か連れてきてもらった場所だった。
「はじまりの神殿」
桜が呟く。
「ここって、はじまりの神殿なの?」
楓花も、記憶をたどるように神殿の中を見回した。
彼女も幼いころ、一度は親に連れられてきたことがある。ただ、当時の楓花にとって、神殿や教会はどこも似たようなものにしか見えなかった。
「え。ちょっと前に行ったところやん。戻ってきたってこと?」
ひまわりが目を丸くする。
「そうみたいね」
先刻も「十五歳の巡礼」のために訪れたばかりである。このときは受付のところで引き返すことになったのだが――。
クヴェル村には少し不釣り合いなほど大きな、木組みの教会。
その地下に、あれほどの古代遺跡が眠っていたなんて、今まで考えたこともなかった。
「つまり、さきほどの地下の遺跡の上に、この神殿が建てられたということだね」
カメリアが静かに言った。
「知らなかった」
桜は素直に驚いた。
同時に、ひとつの疑問が浮かぶ。
このクヴェル村の人たちは、このことを知っているのだろうか。
少なくとも、父のディードリヒからは聞かされていない。もちろん、自分も父も、この村から見ればよそ者だ。知らないことがあっても不思議ではない。
それでも――。
桜が記憶の迷宮に入りかけたとき、ひまわりの声が割り込んだ。
「まあ、生きたまま脱出できてよかったわ。死体で戻ってきても、しかたないし」
「生き埋めの場合、死体でさえ戻れないからね」
楓花が真顔で言う。
桜は少し考えてから、にっこりした。
「死体が出てこなければ、生き埋めって断定できないんじゃない?」
「そこ、張り合うところちゃうやろ」
ひまわりが呆れたように言った。
そんなやり取りをしているうちに、四人は少しずつ、地下遺跡での緊張から解放されていった。
そして桜は、ふと思い出した。
そうだ。
いろいろなことが起こりすぎて忘れかけていたが、四人がブレーメンの街からクヴェル村までやって来た本来の目的は、ここ、はじまりの神殿で「十五歳の巡礼」の儀式を受けることだった。
まだ、その儀式は始まっていないようだ。
桜は近くにいた祭司へ声をかけた。
「十五歳の巡礼の儀式は、まだ始まっていませんよね?」
「ええ。申し訳ありません」
祭司は恐縮したように頭を下げた。
「やっぱり、まだか」
桜は小さく息を吐いた。
「とりあえず、あの宿屋へ行こうか」
「洞窟にいた兵士さん、王女さまに薬草を届けられたんやろうか」
ひまわりが言った。
「やっぱり気になるね」
桜が頷く。
「うん」
カメリアも短く答えた。
四人は神殿を出た。
太陽の光と初春の空気が、ひどく懐かしく感じられた。
地下で長い時間を過ごしていたせいか、風が吹き、鳥の声が聞こえるというだけのことが、妙に新鮮だった。
四人はそのまま、二階建ての宿屋へ向かった。
その途中、偶然、武器屋のギュンターとすれ違った。
初老の男は、四人の姿を見るなり足を止める。
桜に銅のつるぎを渡してくれた、父ディードリヒの友人だった。
「桜ちゃん、どうしたの。ずいぶんと汚れてしまって」
小さいころから桜を知っているギュンターの口調には、まるで泥遊びをしている子供を見つけたような、呆れと温かさが混じっていた。
「それに、さっきもらった銅のつるぎも折れてしまって。ごめんね」
「ああ、いいよ。また代わりのものを渡そうか」
ギュンターは、どうして剣が折れたのか、なぜ四人がこんな姿になっているのか、詳しく聞こうとはしなかった。
ただ、四人を見つめる目には、心配する気持ちと、無事だったことへの安堵があった。
ふと、その目が桜の腰に下げられた剣――光のつるぎへ向いた。
だが、桜は気づいていない。
「それは悪いよ」
「遠慮するな。ずいぶんディードリヒには世話になったんだ。剣の一本や二本くらい、お安い御用だよ」
そして、苦笑しながら続けた。
「まあ、上等なものは期待しないでくれ。あとで店に寄ってくれ。巡礼の儀式は、まだなんだろう? さっき小耳に挟んだよ」
「うん。ありがとう」
桜は素直に頷いた。
これ以上断るのも、かえって失礼な話だった。
「じゃあ、またあとで」
ギュンターは手を振ると、四人とは反対の道へ歩いていった。
その背中を見送りながら、桜は少しだけ笑った。
地下遺跡から戻ってきたばかりだというのに、こうして村の人と話していると、さっきまでの出来事が夢だったようにも思えてくる。
けれど――。
腰に残る光のつるぎだけは、夢ではなかった。
宿屋に入ると、亭主がすぐに桜へ気づいた。
「あれ、桜ちゃん。……あっ、ひょっとして、洞窟から戻ってきた兵士が言っていた四人っていうのは、桜ちゃんたちのこと?」
「たぶん」
桜は、いかにも自信なさそうに答えた。
もちろん、ほかに該当する四人などいない。
「ちょっと待ってて」
亭主はそう言うと、二階へ上がっていった。
しばらくすると、上から人の話す声が聞こえてくる。
やがて階段を下りてきたのは、あの洞窟で見つけた兵士だった。
兵士は四人の前まで来ると、深々と頭を下げた。
「その節は、ありがとうございました。おかげで無事に洞窟を抜け、探して頂いた薬草も王女様へ届けることができました。改めて、お礼を申し上げます」
「よかった」
桜が笑う。
「ところで……」
兵士が顔を上げる。
「王女様がお待ちです」
「王女さまは病気では……?」
桜が尋ねる。
「あの薬草――泉癒草のおかげで、なんとか体力を取り戻したようです。それで、ぜひ皆さんに直接お礼を言いたいと」
「ですが……ご迷惑では」
桜が心配そうに言う。
その横では楓花が黙っている。
表情こそいつもと変わらないが、王女という存在への興味が隠しきれていない。
カメリアも心配そうに口を挟んだ。
「うん。とはいえ、病み上がりなら、安静にされたほうがいいんじゃないかな」
すると、ひまわりが屈託なく言った。
「王女さまのお誘いを断ったら、かえって失礼にあたるんちゃう?」
「えっ」
桜とカメリアの声が重なる。
ひまわりは、まるで何でもないことのように笑っていた。
だが、その目には王女に会えることへの好奇心が、しっかりと浮かんでいる。
兵士は微笑んだ。
「では、ぜひ」




