01 地下の古代遺跡
【現在のステータス】
桜 LV 2(戦士)
E : どうのつるぎ / かわのふく
楓花 LV 2(盗賊)
E : くだものナイフ / ぬののふく
カメリア Lv 2(魔法使い)
E : カメリアのステッキ / ぬののローブ
ひまわり LV 2(魔法使い)
E : かしのつえ / ぬののローブ
【現在の場所】地下の古代遺跡
クヴェルの村近くにある洞窟の先――。
桜にしか見えない、蛍のような淡い光に導かれ、桜、楓花、カメリア、ひまわりの四人の少女は、古代遺跡と思われる地下空間へ足を踏み入れた。
その奥へと続く木の扉は、長い年月を経てもなお、固く閉ざされていた。
だが、その扉はつい先ほど、仮面の男によって開かれたばかりだった。
男はすでに、その向こうへ姿を消している。
考えたくはない。
それでも、その先で鉢合わせる可能性だけは、四人とも覚悟していた。
そんな思いを胸に抱きながらも、桜は小さく息を吐くと、不安を振り払うように顔を上げた。
――今は考えても仕方がない。
楓花が慎重に扉へ手を掛ける。
蝶番は意外なほど滑らかに動き、軋みひとつ立てなかった。まるで、来訪者を歓迎するかのようだった。
四人が中へ入る。
すると、それを見届けたかのように、背後から小さな音が響いた。
桜が振り返る。
先ほどまで入口だった場所で、岩壁の一部がゆっくりと動いていた。
岩は音もなく元の位置へ戻っていき、やがて、外から差し込んでいたわずかな光さえも途絶えた。
――入口が閉じたのだ。
桜は内側の壁へ目を向けた。
そこには、外側で見つけたものと同じように、スイッチのような窪みがある。
おそらく、これを押せば、またあの岩が開くのだろう。
それは、なぜか直感で分かった。
――桜と楓花は、それぞれランタンを掲げた。
揺れる灯が、暗い室内へゆっくりと光を広げていく。
その先に広がっていた光景は、洞窟とはまるで別世界だった。
「古代遺跡」の内部は、床も壁も天井も白く鈍い光沢を帯びた石で統一され、磨き上げられた大理石のような質感を見せている。
余計な装飾は一切ない。
ただ機能だけを追い求めたような静かな美しさがそこにはあり、空気までも地上と変わらぬように凛と澄んでいた。
幅三メートルほどの通路は真っすぐ奥へ伸び、その先には巨大な石扉が立ちはだかっている。
通路の左右には、それとは対照的に木製の扉が一つずつ設けられていた。
左右に二つ、正面に一つ。
少なくとも、この通路から入れる部屋は三つしかないようだった。
その瞬間だった。
壁の上部に等間隔に埋め込まれていた細長い灯具が、まるで四人を迎えるように一つ、また一つと淡い白い光を宿し始める。
ランタンだけが照らしていた空間は、たちまち柔らかな光で満たされた。
「えっ……」
桜が驚きの声を漏らす。
カメリアも静かに光の源へ目を向け、その青い瞳に、普段は見せない驚きの色を浮かべた。
「これは魔法灯。古文書で読んだことはあるけど、実物を見るのは初めて」
しばらく光を見つめてから、小さく続ける。
「今も一部の神殿にも使われているって聞く。でも、高度な魔法が必要なの。この光は火ではない。魔法そのものが光っている」
誰も言葉を返せなかった。
桜には、この遺跡がいつ築かれたものなのか見当もつかなかった。
小さい頃から、こうした古い建築や神殿には興味があった。けれど、この地下の古代遺跡のようなものは、もちろん見たことがない。どこか遠い昔の物語に出てくるもの――そんなふうに、想像の域を出ないものだと思っていた。
しかも、五百年前なのか、千年前なのか、それとも二千年前なのか――そんな数字を思い浮かべただけで、自分でも途方もない話だと思う。
地下の古代遺跡。
その言葉は知っている。
だが、本当にそんな時代の建物が地下で今なお魔法の光を灯し続けているなど、想像したこともなかった。
楓花は、壁へ埋め込まれた魔法灯を一つひとつ見つめ、その仕組みを見抜こうとするように観察している。
興味は尽きないようだったが、さすがに今は探索が先だと割り切ったらしく、
「分解するのは後にしよう」
と、小さくつぶやいた。
ひまわりはというと、ただただ目を丸くして辺りを見回していた。
ここにあるものすべてが初めて目にするものばかりで、驚きを隠そうともしない。
それぞれが胸に異なる思いを抱きながら、四人は気持ちを切り替えるように歩き出す。
ここまでは迷宮とは対照的な、幅のある一本の直線通路だった。
それが、かえって不気味だった。
さらに歩みを進めるうち、桜は妙な違和感を覚えた。
最初は何が引っかかるのか分からない。
やがて、その正体に気づく。
「……足音?」
広い通路を歩いているというのに、自分たちの足音がほとんど響かないのである。
まったく聞こえないわけではない。
ただ、普通の石造りの建物とは明らかに違っていた。
カメリアも壁へも目を向け、小さくうなずく。
「これも古文書で読んだことがある。この石には、音を吸収する性質があるらしい。人の存在さえ薄れてしまう、とも書かれていた」
楓花も改めて壁へ手を触れた。
「どこかの産地の大理石かと思ったけど……どうも違う。これも魔法が関わっているのか」
楓花は金属や機械には詳しい。
しかし、この白い石は見当がつかないらしい。
その問いに、カメリアは静かに首を振る。
「そこまでは分からない。古文書にあったのも、別の古代遺跡についての記述だから。この遺跡にも当てはまるのかは、まだ判断できない」
楓花は白い壁へ視線を向けた。
「少なくとも、この静けさは意図してつくられたというわけか。この遺跡は……底知れないな」
地下に広がるこの空間といい、魔法灯といい、そして音さえ吸い込む白い石といい――。
桜には、そのすべてが、自分たちの知る世界の常識では測れないものに思えた。
そして――。
四人の視線は、自然と正面の巨大な石扉へ向かった。
通路の左右にも木製の扉が一つずつ据えられていたが、そのどちらも正面の扉に比べれば控えめな大きさである。
正面の石扉は、高さ三メートルほど。
一枚岩を削り出したような白い扉には、取っ手もノブも見当たらない。
飾りは驚くほど少ない。
それでも、近づくだけで自然と背筋が伸びるような厳かなさだけは、確かにそこにあった。
桜はそっと手を当てて押してみたが、びくともしない。
引こうとして初めて、開けるためのものが何ひとつ付いていないことに気づいた。
「どうやって開けるの……?」
楓花は壁との継ぎ目や床との境界まで丁寧に調べ、指先で確かめながら扉の周囲を一巡したものの、やがて小さく首を振る。
「分からない。開ける方法があるはずなんだけど……見つけられない」
カメリアも静かに石扉を見上げた。
「古代の遺跡には、こういう扉もあったって聞く。どこかに開ける仕掛けがあるんだろうけど……私にも分からない」
誰も無理に開けようとはしなかった。
「まずは、右から見てみよか」
ひまわりの一言に、四人は通路の右側にある木製の扉へ向かう。
妙にひまわりが乗り気なのは、この行き詰まった空気を少しでも和らげようとしているからなのかもしれない。
正面の扉は年代不詳だが、この木製の扉は長い年月を経ていることがひと目で分かった。
それでも朽ちる気配はなく、年代相応の風格だけをまとい、なお扉としての役目を果たしている。
よく見ると、洞窟側の入り口にあった扉と同じ文様が、控えめに刻まれていた。
また、正面の石扉とは違い、人が普通に出入りできる大きさで、丸いノブと鍵穴が備えられている。
桜が軽くノブを回してみる。
だが、ぴくりとも動かなかった。
代わって楓花が前へ出ると、鍵穴をのぞき込み、小さく眉を寄せた。
「普通の鍵じゃない」
その声にカメリアも歩み寄り、しばらく鍵穴を見つめてから静かに口を開く。
「そういう扉もある。しかも、これはかなり強い施錠の魔法で守られているね」
「だとすれば、無理に開けない方がいい」
楓花はすぐに判断した。
「施錠だけじゃない。下手に触れば、別の仕掛けまで動く可能性もある」
「ほな、左やな」
ひまわりは迷うことなく左の扉へ向かう。
こちらも同じような木の扉だったが、桜がノブへ手を掛けると、今度は抵抗なく静かに回った。
鍵はかかっていないようだった。
「開く……」
桜が思わず呟いた、そのときだった。
「待って」
楓花が制し、入れ替わるように鍵穴へ顔を寄せる。
「……やっぱり」
その一言で、カメリアも近づいた。
鍵穴へ手をかざし、しばらく調べる。
「鍵穴の周りに、魔力の乱れがある」
静かな声だった。
「こっちは、何かの魔法でこじ開けたみたい」
カメリアも静かに頷く。
どうやら、鍵をなくしたときなどに使われる民間魔法の一種らしい。
つまり、この扉にかけられていたのは物理的な鍵だけ。
それも、そう複雑なものではなかった。
二人のやり取りだけで十分だった。
ここを通った者がいる。
しかも、ごく最近。
四人の脳裏に、同じ人物の姿が浮かんだ。
仮面の男。
張り詰めた空気のなか、桜だけがふっと表情を緩めた。
「本当にすごいね。まるで遺跡探索家みたい」
感心したような声だったが、そこには少しだけ楓花をからかう響きがある。
けれど、当の楓花はそれに気づかない。
「そうかな」
そう言って、ほんの少しだけ視線をそらした。
その様子を見て、カメリアは小さく微笑んだ。
「じゃあ、入ってみよか」
調子よくひまわりが一歩踏み出そうとしたところで、楓花が静かに手を上げた。
「ちょっと待って。開けるのは私がやる」
まだ仕掛けが残っているかもしれない。
それに、この先で仮面の男が待ち構えている可能性もある。
用心に越したことはなかった。
楓花はノブをゆっくりと回し、扉をごくわずかに開く。
その隙間から、慎重に中の様子をうかがった。
やがて小さくうなずく。
「……今のところは大丈夫そう。誰もいない。でも、この先までは見えない」
その一言で、四人は互いに顔を見合わせた。
引き返す理由はない。
だからといって、気を緩める理由もなかった。
楓花は細心の注意を払いながら、音を立てないよう静かに扉を人ひとりが通れるだけ開く。
桜を先頭に、四人は息を潜め、その先に広がる未知の空間へと足を踏み入れた。




