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イケメン上司とボク  作者: 夏目 碧央


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スイッチ~やけ酒屋台

 成海が去って行った。独り残された俺は、注文してしまったものを黙々と片づけていた。その内店内が騒がしくなり、一人でいる事がいたたまれなくなって店を出た。

 まだ飲み足りないし、暇になってしまったなと思って歩いていると、屋台を見つけた。博多で有名なラーメンの屋台か。だいぶにぎわっている。この暑いのに。

 しかし、そんな暑い中でも「おでん」の屋台を見つけてしまった。おでんと言えば日本酒だ。いいかもしれない。ラーメン屋台は人が多かったが、おでんの屋台には一人腰かけているだけで3~4個の椅子が空いていた。

「こんばんは。」

俺はそう声を掛けて椅子に座った。

「いらっしゃい。」

店主がそう言った。

「日本酒を冷やでください。あと大根と…」

おでんを注文しようとして覗き込んだが、何がどの名前だかよく分からない。

「適当に4つか5つ見繕って。」

そう言うと、

「あいよ。」

と店主が言った。

 日本酒を飲み、おでんをつまんでいると、1つ空けて隣に座っていた男性が声を掛けてきた。

「あんちゃん、どこから来たの?この辺の人じゃないでしょ。」

「あー、はい。東京から来ました。」

つい律儀に答える。

「もしかして芸能人?」

「いえ、違います。」

「本当に?ずいぶん綺麗な顔してるよねえ。あれじゃないの、地下アイドルとか。コンセプトカフェの店員とか。」

よく分からないが、無礼な人だなと思い、曖昧に笑って答えなかった。だが、そのおっさんは諦めてくれない。

「やっぱアイドルでしょ。なんかテレビで見た事ある気がするもん。あ、それか俳優?ドラマで見たのかな。」

うるさい。

「よく言われます。でも違いますから。」

少し語気を強めて言い、後は無視して飲んでいた。

「すみません、お酒もう一杯ください。」

「はいよ。」

俺はもう一杯酒を注文した。隣のおっさんはしばらく黙っていた。周りはガヤガヤしていて、そのうち他のお客も座った。たくさんの声や音が耳に入り、ガヤガヤザワザワしていて、俺はもう一杯酒を注文した。周りがうるさいなと思っていたのだが、だんだん人の話が理解できなくなり、そのうち何も聞こえなくなった。


 ふと気づいたら、周りはシーンと静まり返っていた。そしてなんと、俺は座っているのではなく横になっていた。天井がクリーム色の部屋にいて、薄暗い。何故こんなところにいるのだ?

 ギシっと音がして、寝ているものーベッドが揺れた。え、誰かいるのか?

「あれ、目が覚めたんだ。ずいぶん綺麗な顔だよなあ。そしてお肌もとても綺麗だ。」

「うわっ、なんで!」

でかい声を出したつもりが、あまり声が出なかった。目の前に現れたのは、あのおでん屋台で話し掛けてきたおっさんだった。40代、いや50代だろうか。ワイシャツを着ていたからサラリーマン風だったが、今はそのワイシャツを脱いで白いTシャツ姿になっている。そしてなんと、俺の上半身はむき出しに。おっさんが俺の腹から胸へかけて、指でなぞった。

「ひっ!」

俺は慌てて起き上がった。でもおっさんが覆いかぶさっているので起きられない。

「いやだ、なんでこんな!」

「あれ、覚えてないの?あんちゃんが酔っぱらって突っ伏してたから、俺がホテルに連れて行こうか?って言ったらあんた、ご親切にどうもって言ってついてきたじゃないか。肩を貸してここまで運んでやったんだよ。」

全然覚えていない。やばい、酔い潰れたのか。

「す、すみませんでした。でももう、帰ります。」

「帰るってどこに。」

「泊っているホテルです。」

「ホテルに泊まるならここでもいいじゃん。」

放してくれない。俺は全力でおっさんを押した。それでもダメだったので、足を使って蹴り上げた。流石におっさんは床にすっ飛んだ。

「いってー、何すんだよもう。」

おっさんが尻もちをついている隙に、俺はベッドから降りて入口へと走った。


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