やりがいのある仕事
「今後、手紙を書く人はどんどん減ります。レターセットは辞めましょう。それよりも、今まさに上向いているのがぬいぐるみです。アート展示のモチーフをふわふわな素材で作り、オリジナルなキーホルダーなどにするのはどうでしょうか。」
新しい職場では、係長になったとはいえメンバーの人数は少なく、リーダーと言えども自分で情報収集し、自分でプレゼンをするという状態だった。
しかし、それが面白い。東京のように美術館が溢れているわけではないので、我が社の九州地域での進出はまだまだこれからだ。やりがいを感じる。
次はどうしようか、と常に考えている。支持を受ける側ではなく授ける側になったので、勤務時間外にも考える事が多い。だから、恋人―仁さんと会えない事や、今までの知り合いが誰もいないという事も、あまり考えないで済んでいる。寂しさを感じている暇がないのだ。
福岡に来て2週間が経った週末には、仁さんが訪ねてきてくれた。今、俺は会社の寮に入っているので、仁さんを泊める事は憚られ、博多のホテルで一緒に泊まった。翌日は博多観光を二人でして、仁さんは帰っていった。
その2週間後、今度は俺が東京に泊まりに行く番だった。そう仁さんとも約束をしていた。ところが、前の日に大事な仕事が終わらず、土曜日も仕事をすることになってしまった。つまり、東京に行く事が出来なくなってしまったのだ。
「もしもし、仁さん?成海です。あの……すみません。明日東京に行かれなくなりました。」
電話でそう伝える時は、とても胸が痛かった。仁さんは一瞬黙ってから、
「そうか、仕事か?仕事ならしょうがないな。あんまり無理しないように頑張れよ。」
と、明るく言ってくれた。来週にはきっと行くからと約束をした。それでも、仕事が面白く、夢中になっている俺は、行かずに済んでホッとしている部分もあった。あんなに夢中になっていた仁さんに、会えない事に慣れてしまったのだろうか。
翌週には東京に行けた。東京のホテルは高いので、思わずラブホテルに泊まってしまった。仁さんと二人でラブホに入る所を、万が一誰かに見られたら困るので、俺が先に入って部屋を取り、後から部屋番号を仁さんに伝えて時間差で落ち合った。
ラブホは楽しかった。一緒にお風呂に入り、鏡張りの部屋で交わり、広いベッドで一緒に眠った。また時間差でホテルを出て、外で落ち合って一日デートをした。
「成海、再来週俺が行くからな。」
輝く笑顔で仁さんが言った。
「待ってます。」
俺がそう言うと、
「そ、そんなに見つめんなよ。照れるだろ。」
と言って目を反らす仁さん。何を今更、と思ったけれど、いつまでも純粋で可愛らしい仁さんが愛おしかった。
そして2週間後、また週末になって問題が発生した。
仁さんが金曜の夜に博多にやってきた。飲み屋で待ち合わせをし、乾杯してすぐ、会社から電話が掛かってきた。
「はい、成海です。え?それは……まずいですね。今から行きます。」
「成海?トラブルか?」
仁さんが目をパチクリさせている。
「はい。納品書に手違いがあったみたいで、工場に回す前に発覚したようなのですが、どういう手違いがあったのかが伝わって来ないので、俺が現場に行って確認してきます。」
俺がそう言うと、仁さんは一瞬俯いた。それを見て、しまった!と思った。はるばる博多まで来てくれたのに、俺は置いてけぼりにするのか。だが、仕事は大事だ。誰かに頼める状況でもない。
「仁さん、すみません。明日、必ず埋め合わせしますから。後で連絡します。」
ここでキスをしたいところだが、流石に公衆の面前ではできない。肩に手を置き、ギュッと力を込めて放した。
「分かったよ、行ってこい。俺はもう少し飲んでからホテルに戻るから。」
仁さんはそう言って笑ってくれた。俺は急いで現場へと急いだ。




