別れの日
仁さんは酒を持ってやってきた。コンビニで買ったと思われる缶ビールと、スルメなどのつまみも持って来てくれた。
「グラスもないだろうと思って、ビールにしたよ。これなら缶のままでいいだろ?」
仁さんは言った。プシュッと缶を開け、乾杯した。何もない壁に寄りかかって座る。
「なんでこんな事になっちゃったんでしょうね。」
つい、呟く。
「……うん。」
仁さんが相槌を打つ。そして、二人黙って飲む。
「成海、俺……福岡行くよ。毎週とは行かないと思うけど、1ヶ月に1回は行くから。」
仁さんが言った。
「じゃあ俺も、1ヶ月に1回は東京に来ます。そうしたら、2週間に1回くらい会えるって事ですよね?」
俺がそう言うと、仁さんは俺の顔を見て頷いた。
どちらからともなく、キスをする。大丈夫、そんなに遠くない。それでも、毎日会っていた今までと比べたら、寂しくて、心配で、心が折れそうになる。
「成海、浮気するなよ……」
「仁さんこそ……」
そんな事を言いながら、キスを繰り返す二人。そして、やっぱり吉沢さんにメッセージを送るのは辞めようと思った俺。そんな事から浮気が疑われるのだ。仁さんが他の人にプライベートな連絡をしたら、俺は嫌だから。
「今日は、最後までしていいよ。」
仁さんが囁いた。
「え、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。覚悟出来たから。」
少しずつ練習をしてきた俺たちのセックスも、とうとう本番を迎える。ベッドではなく、床にタオルケットを敷いた上で。
「成海、来い!」
「は、はい!」
「う、うう……」
「仁さん、大丈夫ですか?」
「だいじょう……ぶ……」
お互いにまだ不慣れだけれど、一つになれた。
「それじゃあ、気を付けて。」
「はい。仁さん、お元気で。あ、着いたら電話します。」
空港まで送ってくれた仁さんに別れを告げた。手を握っても変に思われないように、俺は握手を求めた。仁さんが俺の手を握る。握手をして、その手を静かに放す。指先が離れるその瞬間まで、仁さんの手の感触を味わった。仁さんがニッコリ笑う。俺も笑う。そして仁さんに背を向けた。




