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イケメン上司とボク  作者: 夏目 碧央


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19/26

出世はしたが……

 週末には俺の家で仁さんと会い、少しずつ関係を深めていった。指を……入れてみるとか……色々と……少しずつ。

 そして6月中旬、7月1日付で俺に辞令が出た。仁さんのおかげで、係長に昇進した。最年少記録を更新した。だが、どこの係に配属されたのかを確認し、目を疑った。それは第2企画部の発案課で、一瞬嬉しいと思ったのだが、なんと勤務地は福岡支社だった。

 九州か!東京の本社内にもたくさん課はあるし、就業人数も東京本社がダントツだというのに、まさかの福岡支社とは。名古屋あたりなら週末に通えるかもしれないが、流石に福岡では毎週東京に来る事は難しいのではないか。

 今は毎日仁さんと会っているからデートは週一で済んでいるけれど、普段会えないならもっと頻繁に会いたくなるに決まっている。それなのに……。悲しすぎて何を考えればいいのか分からない。

 だが、せっかく仁さんが力を貸してくれて実った出世話。無下にするわけにも行かないぞ。困った。どうしよう。俺、やっぱり出世なんてしなくていい。ただ、仁さんの姿が見えないところで仕事がしたいだけなのに。


 「成海……おめでとう。」

仁さんが後ろから声を掛けてきた。

「仁さん、俺、福岡なんて行きたくないです。」

静かに言うと、仁さんは苦笑した。

「俺も昨日聞いた時には驚いたよ。気持ちの整理も正直ついてない。気軽に話を進めた事を後悔したし。」

「仁さん……。」

抱きしめそうになったので、俺はこぶしを握り締めた。ここは会社だ。

「成海、お前栄転だな、おめでとう!」

同じ係の先輩がやってきた。

「おめでとうございます!」

「おめでとう!」

みんながやってきた。それで、暗い顔をしてもいられず、笑った。顔では笑って、心では泣いた。


 すぐにお別れの時はやってきた。引っ越すなんて思ってもみなかったので、準備はバタバタだった。実家に帰る暇もなかった。引っ越し業者を手配し、荷物をまとめ、引継ぎをし、東京本社最後の勤務の日。

「成海君、あの……これ、選別。」

吉沢さんから小さな箱を渡された。

「第2係全員からのもあると思うけど、これは私個人から。成海君、元気でね。そしてまた戻ってきて。待ってるから。」

待ってる?それはどういう意味だ?

「あ、ありがとう。えーと、うん、また東京に戻って来ると思うから、その時はよろしく。」

箱を受け取った。そして、終業時間になると、仁さんから大きな花束をもらった。花束が似合う仁さん。その美しい人から美しい花を、俺は受け取った。そして、係の皆から拍手をもらった。

「皆さん、ありがとうございます。今までお世話になりました。」

泣きそうになるが、格好つけて笑う。みんなも笑っている。だが、吉沢さんは泣いていた。ハンカチを目に当てている。仁さんは……泣いてない。そりゃまあ、そうだよな。泣くとしても今じゃない。

 俺は花束を抱え、空っぽの家に帰った。明日の土曜日に福岡へと旅立つ。吉沢さんからもらった箱を開けてみると、ブルーのハンカチが入っていた。そして、メッセージカードが付いていた。そこには、電話番号とメールアドレスが書いてあった。恐らく吉沢さんのプライベートな連絡先だろう。うーん、困ったな。無視するか?それとも何かメッセージを送るか……。

 迷っている所へ、仁さんから電話が掛かってきた。

「はい、どうしました?」

「成海、今からお前んち行っていい?」

「え、でも何もないですよ。」

「いい、何も要らない。」

「……はい、来てください。待ってます。」

そう言って電話を切った。


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