出世はしたが……
週末には俺の家で仁さんと会い、少しずつ関係を深めていった。指を……入れてみるとか……色々と……少しずつ。
そして6月中旬、7月1日付で俺に辞令が出た。仁さんのおかげで、係長に昇進した。最年少記録を更新した。だが、どこの係に配属されたのかを確認し、目を疑った。それは第2企画部の発案課で、一瞬嬉しいと思ったのだが、なんと勤務地は福岡支社だった。
九州か!東京の本社内にもたくさん課はあるし、就業人数も東京本社がダントツだというのに、まさかの福岡支社とは。名古屋あたりなら週末に通えるかもしれないが、流石に福岡では毎週東京に来る事は難しいのではないか。
今は毎日仁さんと会っているからデートは週一で済んでいるけれど、普段会えないならもっと頻繁に会いたくなるに決まっている。それなのに……。悲しすぎて何を考えればいいのか分からない。
だが、せっかく仁さんが力を貸してくれて実った出世話。無下にするわけにも行かないぞ。困った。どうしよう。俺、やっぱり出世なんてしなくていい。ただ、仁さんの姿が見えないところで仕事がしたいだけなのに。
「成海……おめでとう。」
仁さんが後ろから声を掛けてきた。
「仁さん、俺、福岡なんて行きたくないです。」
静かに言うと、仁さんは苦笑した。
「俺も昨日聞いた時には驚いたよ。気持ちの整理も正直ついてない。気軽に話を進めた事を後悔したし。」
「仁さん……。」
抱きしめそうになったので、俺はこぶしを握り締めた。ここは会社だ。
「成海、お前栄転だな、おめでとう!」
同じ係の先輩がやってきた。
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
みんながやってきた。それで、暗い顔をしてもいられず、笑った。顔では笑って、心では泣いた。
すぐにお別れの時はやってきた。引っ越すなんて思ってもみなかったので、準備はバタバタだった。実家に帰る暇もなかった。引っ越し業者を手配し、荷物をまとめ、引継ぎをし、東京本社最後の勤務の日。
「成海君、あの……これ、選別。」
吉沢さんから小さな箱を渡された。
「第2係全員からのもあると思うけど、これは私個人から。成海君、元気でね。そしてまた戻ってきて。待ってるから。」
待ってる?それはどういう意味だ?
「あ、ありがとう。えーと、うん、また東京に戻って来ると思うから、その時はよろしく。」
箱を受け取った。そして、終業時間になると、仁さんから大きな花束をもらった。花束が似合う仁さん。その美しい人から美しい花を、俺は受け取った。そして、係の皆から拍手をもらった。
「皆さん、ありがとうございます。今までお世話になりました。」
泣きそうになるが、格好つけて笑う。みんなも笑っている。だが、吉沢さんは泣いていた。ハンカチを目に当てている。仁さんは……泣いてない。そりゃまあ、そうだよな。泣くとしても今じゃない。
俺は花束を抱え、空っぽの家に帰った。明日の土曜日に福岡へと旅立つ。吉沢さんからもらった箱を開けてみると、ブルーのハンカチが入っていた。そして、メッセージカードが付いていた。そこには、電話番号とメールアドレスが書いてあった。恐らく吉沢さんのプライベートな連絡先だろう。うーん、困ったな。無視するか?それとも何かメッセージを送るか……。
迷っている所へ、仁さんから電話が掛かってきた。
「はい、どうしました?」
「成海、今からお前んち行っていい?」
「え、でも何もないですよ。」
「いい、何も要らない。」
「……はい、来てください。待ってます。」
そう言って電話を切った。




