上裸で路頭に
ホテルの廊下に出て、エレベーターで地上階へと急いだ。おっさんが追いかけてくるかもしれないと思い、なるべく遠くへ行こうと思った。
外へ出てみると、全くどこだか分からなかった。人もまばらで、深夜なのだろう。とはいえ、俺は上半身裸の状態だった。幸いズボンは履いていたので、ポケットに財布もスマホも入っていた。とにかく人目につかないように建物の陰に入った。恥ずかしすぎる。
暗がりにうずくまり、両腕で体を抱えた。すると、涙が出てきた。怖かった。気持ち悪かった。とにかく宿泊しているホテルに帰るしかない。このまま帰るか、それともコンビニでシャツでも買うか。
立ち上がろうとしたところで、スマホが震えた。規則正しく震えている。電話だ。スマホをポケットから取り出すと、画面に成海の名前が出ていた。
「な、成海?」
すぐに電話に出た。
「あ、はい。まだ起きてましたか。メッセージ送ったけど未読だったので、寝ちゃったかなと思ったんですが、そうじゃなかったらーと思って心配になって。」
涙がどっと出た。
「うっうっうっ……」
言葉にならない。
「仁さん?」
「お、俺、今どこに居るのか、わかんな……。服、着てなく……て。」
「え、え?どういう事ですか?あの、今いる場所をLINEで送ってください。迎えに行きますから。」
「わ、かった。」
俺は電話を切った。あまりやった事がなかったが、LINEで居場所を送れる事は知っていた。それをやってみる。ついでに「今、上裸」という文字も送った。
15分くらい経った頃、
「仁さん!どこですか?仁さん!」
と、やたらでかい声で呼ぶ成海の声が聞こえてきた。もう涙は引っ込んでいたが、また安心したら涙腺が緩んできた。
「ここだよ。」
暗がりから出て行くと、成海が目の前にいて、
「仁さん!どうしたんですか!?ああ、なんて事だ!」
騒がしく喚いたかと思うと、俺を抱きしめた。こらこら、裸の男を抱きしめるなんて、警官来るぞ……と思ったのだが、俺も涙が溢れてきて、
「なるみぃ……」
思い切り抱きしめ返してしまったのだった。
ひとしきり抱きしめ合った後、成海が持ってきたTシャツを借りて着た。そして、事の顛末を話しながら歩いた。行先は俺の宿泊先。時刻は1時半頃だった。
「ごめんな、仕事の邪魔して。」
回りにほとんど人がいないので、手を繋いで歩いていた。
「何言ってるんですか。俺の方こそ、せっかく遠くまで来てくれたのに……うっ。」
どうしたのかと顔を覗き込むと、成海は繋いでいない方の手を口に当て、涙をポタリ、ポタリと垂らした。
「な、なんで泣くんだよ。」
驚いた。そんなに大泣きされるとは。
「すみません!すみませんでした!来てくれたのに放っておいただけでも大罪なのに、仁さんをこんなひどい目に遭わせてしまって……」
「いや、こんな目に遭ったのは……あー、俺が飲み過ぎたせいだし。」
すると成海はキッとこちらを振り返った。
「そんな事はありません。仁さんが東京でこんな目に遭った事はないじゃないですか。全て俺のせいです!」
「んー、まあ……。」
「こんなに綺麗で可愛い人を、知らない土地に独りで放り出すなんて、間違ってました。どんな事があっても、ホテルに送り届けるべきでした。もう二度と独りにはさせません。」
成海が息巻いている。俺は女の子じゃないんだけど……でも、やっぱり成海の言う通りなのか?俺が可愛すぎるから、男でも安全じゃないという事なのか?
「でもお前、東京にも来られなかったりするし、今まで仕事だったんだろ?俺に構ってる暇なんてないんじゃないか?」
俺がそう言うと、成海は急に黙ってしまった。何も言わず、ただ手を繋いで歩く。図星だったか。




