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イケメン上司とボク  作者: 夏目 碧央


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16/26

スイッチ~どこまで進んでいいのか

 「成海、来週またお前んち行っていい?ドラマ観ようぜ。」

「あ、はい。もちろんいいですよ。」

俺は笑ってOKした。デートした帰りの事。

「最近暑くて、外歩き回るの辛いもんなー。」

仁さんはそう続ける。確かにギラギラした日差しの中、移動するのはキツイ季節になった。家で過ごすのもいい。仁さんは他意なく言っているのだろう。

 いや、ひょっとすると……そろそろ関係を進めようという合図なのか?恋人同士が、部屋に行っていい?と聞くのはつまり、体の関係を持とうと?

「成海?」

仁さんが俺の顔を見た。そろそろお別れの地点だ。今、仁さんを家に送っているところだった。家まで行くと色々と面倒だ、と仁さんが言うので、家が見える手前の曲がり角でお別れする事にしていた。

「なんで黙ってるんだ?考え事か?」

仁さんが言う。

「いえ、別に。それじゃあ俺はこの辺で。仁さん、また月曜日に。」

俺は笑って言った。

「うん、送ってくれてありがとう。」

手を振って、俺は踵を返した。

 どうしよう。先走って嫌がられたらショックだが、仁さんが期待しているのに何もしなかったら、愛想をつかされるかもしれないぞ。やはりそのつもりで準備をしなければ。

 先日は、仁さんが「成海を独り占めしたい」と言ってくれて、めちゃくちゃ嬉しかった。もう、そう言ってくれただけで、どんな障壁があろうとも生きていけると思った。このままずっと俺が仁さんを独り占めできたなら。ああ、生まれてきて良かった。とはいえ、デートをしていても、人目があるので全くと言っていいほど触れられないのが少し寂しい。俺は、肩と肩が触れたくらいで喜んでいるのだ。でも、もっと抱きしめたり、口づけたり……そういうの、したいと思うのは当然ではないか。

 かと言って、俺の部屋に誘うのも……イチャイチャしにおいで、とでも言っているようで憚られる。だから、こうやって仁さんの方から家に来ると言ってくれるのは大変嬉しい。

 だが、前回家に来た時には軽いキスとハグだけで済ませたわけで、今回もそのくらいだろうと思って来るのだとしたら。どこまで触れていいのか分からない!

 そういう、悶々とした思いを抱えつつ一週間を過ごした。だが、必要な物を調べ、揃えておいた事は言うまでもない。


 土曜日がやってきた。家を片付け、布団を干し、シャワーを浴び、歯磨きをし、布団を取り込んでベッドの上に整え、仁さんを駅に迎えに行った。今回もコンビニに寄って飲み物などを買い、部屋に戻ってきた時、俺の心臓はバクバクと音を立てていた。

「おじゃましまーす。」

仁さんが先に部屋に入る。俺は玄関のドアを閉めるや否や、荷物をドサッと床に置き、仁さんを抱きしめた。

「あ、成海……」

その先の言葉を遮るように、唇を重ねた。

「ちょ、ちょっと待てって。」

仁さんが全力で腕を突っ張り、俺を自分から引きはがした。はっ、俺、どうしたんだ?まるで熱に浮かされていたのが急に冷めたように、背中がひやりとした。

「ご、ごめんなさい!なんか、俺おかしくなってました。外が暑かったからかなー。嫌だなー。」

床に落とした荷物を拾い、ジュースなどを冷蔵庫に入れながら、言い訳をぶちかました。ああ、変に思われたかな。嫌がられてないかな。心配で仁さんの顔を見る事も出来ない。

「いや、いいんだ。ちょっと喉渇いちゃって。飲み物もらってもいいか?」

仁さんが言う。少しホッとして振り返ると、仁さんは顔を赤くして、汗をかいていた。多分俺も同じ。何しろ外はものすごく暑かったから。

「もちろんです、今用意しますね。座ってください。」

そうして、二人でソファに並んで腰かけ、コップ一杯のレモンスカッシュを飲んだ。そうだ、まずは落ち着こう。

「暑いですか?クーラーの温度下げます?」

「いや、今は歩いてきたばかりで暑いだけだから、大丈夫。」

「ドラマ観ます?」

「あー、そうだな。」

テレビをつけて用意する。どれを観るかと話し合い、近頃話題の邦画を流した。

 観ているのに、あまり頭に入って来ない。それよりも隣の仁さんの存在が気になって気になって仕方がない。いつもはもっとくっついて座る仁さんが、今日は程良く距離を開けているのが気になる。

 映画を観ている間、黙りこくっていた。途中CMが入ったので、俺は冷蔵庫からレモンスカッシュを持って来て2つのグラスに注いだ。そしてまた座る。映画はあまり面白くない。集中していないからかもしれないが。

 思い出したように仁さんの手を握った。仁さんはチラリとこちらを見て微笑んだ。美しい。そして、近い。顔が近い。嬉しい。そして、なんだかとっても……下の方がムクムクと元気になってきた。

 気づかれたらヤバイ。仁さんはテレビ画面を見ているから大丈夫だと思うが……手に汗が……ヤバイ。

「あー、なんかつまんないから変えようか。」

仁さんが突然そう言ってこちらを向いた。下の方に目が行かない事を祈る。

「そうですね、変えましょう。」

俺は繋いだ手を放し、腰を浮かせてリモコンを手に取った。操作をし始めるとすぐに、以前仁さんと一緒に観たBLドラマが選択された。

「あ、この間の続き観ようか。」

仁さんが言った。ラブシーンの度に、仁さんが俺の腕にギュッとしがみついてくれた事を思い出し、下心満載でそれをかけた。また仁さんの隣に座る。いや、全然治まらない俺の下半身。増々期待してしまっている。まだダメだっつうの。

 ドラマでは、男の子同志の胸キュンシーンが流れる。やはり仁さんは俺の腕にしがみついてきた。俺の胸もキュンとする。ああ、幸せ。だけど、増々元気になる俺の分身。

 と、仁さんが俺の太ももに手を置いた。びっくり。仁さんはこちらに寄りかかっていたので、体勢を立て直し、テーブルの上のレモンスカッシュを取ろうとしたようだ。危うく硬くなったモノに触れられてしまうところだった。ヒヤヒヤする。だったら萎えればいいものを、増々元気な俺の息子。どうしたらいいのだ。

 ドラマの1話分が終わった。

「どうします?続き見ますか?」

エンディング曲が流れる中、俺がそう声を掛けると、

「観よう!」

仁さんはすっかりこのドラマがお気に入りのようだ。俺は「次の話」へとリモコンを操作した。

 俺はこんなに気持ちが急いていると言うのに、仁さんはラブシーンを観るのに夢中で、自分がラブシーンをしようとは思っていないようだ。やはり今日は無しかなぁ。

 次の話をしばらく観ていると、意外な展開になってきた。あの初々しかった少年たちが、激しいラブシーンを始めるではないか。少年たちは裸になり、ベッドになだれ込み、激しく愛撫し合っている。そして、苦し気な表情が映し出される。

 観ているのが恥ずかしいのと、仁さんがどんな顔で観ているのかが気になるのと、もう感情が忙しい。とにかく落ち着こうと、レモンスカッシュに手を伸ばす。そして、チラリと仁さんの方を伺った。

 仁さんもチラリとこちらを見た。気まずい。別に、どんな顔も何も、仁さんはいつも通りの麗しいイケメン顔で、真顔だった。その真顔のチラリと見られた流し目で目が合ったので、思い切りドキリとしてしまった。俺は今、この人と二人きりなのだ。それを強く意識した。

 レモンスカッシュをテーブルに戻し、何か言おうと思った。仁さんが今どう感じているのか、俺たちもこういう事をしてもいいのか、そうじゃないのか、それを聞こうと思った。だが、口を開いた俺の唇に、仁さんは人差し指を立てた。

「……?」

 仁さんは指をどかし、代わりに口づけをしてくれた。え、え、え、OK?OKって事?

 目を見つめ合う。テレビからは激しい息遣いや相手の名前を呼ぶ声などが流れている。邪魔なので、リモコンでテレビを消した。


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