8P 一回戦
初心者と玄人。
康治軍、パーラー軍の選手はジェットカウンターで構える店員から、2000発の銀玉の入った箱を手渡され、各自は両手に箱を持っている。
まさにその様子はシュールだった。
「それでは、はじめっ!」
ジンは戦いの開始を告げる。
パーラーラッキーハッピーの面々は、散会し思い思いの狙い台へと向かう。
一方、康治たちは・・・。
「さぁ、ついにはじまりましたっ。生ける伝説康治軍対ぱちんこの申し子たちっ!かつてのパチンコは粘り一番頑張り一番といいますが、昨今ではそれも変りつつあります。しかしながら、大きくツキに左右される戦いではありますが、それを引き寄せる為には少なからず知識も必要とされるのがパチンコの面白いところ。本勝負において一日の長があるのは当然パチ屋軍団、しかしだがしかしっ!幾多の困難を乗り越えてきたレジェンド・オブ・康治軍には、そのアドバンテージすら凌駕する何かがきっとあるはずだぅあ~!さあ、早くも動きがっ!おおっと、康治軍不動の人気台「うみ物語」のシマに五人並んで仲良く打ち始めた~っ!」
虎徹はノリノリに踊りながら、自らのマイクアナウンスで自己陶酔している。
康治たちはうみのシマ端から並んで、康治、エリザ、エマ、ヒルダ、エスメラルダの順に座った。
そこから彼は皆にレクチャーしはじめる。
「この銀玉をこのくぼみに入れてだな、右にあるハンドルをひねって、盤面の左斜め上を狙って打つんだ。すると、打った玉の何球かは、真ん中のスタートチャッカーへ入り、数字が回り当たりの抽選がはじまる、当たりに当選したら玉がでてくる仕組みだ・・・ふふふ、これぞ作戦名、初めてのぱちんこはデートかダチ友と一緒だ。これで知るんだモン作戦だ」
康治は満足気に自身の作戦を独り言で喋る。
が。
「???」
ヒルダは目をぱちくりさせる。
「な、ハンドル?チャッカーなにそれ?」
と、エマは聞いたことのない言葉に、首を何度も振って憮然とした表情をみせる。
「ダーリン、そこに入れようとしたら玉がこぼれましたの~床に落ちたのとって~」
と、エリザの悪役令嬢ぶりが発揮される。 「・・・・・・みなさん、頑張って・・・くっ」
エスメラルダは爆音轟くパーラー内で、耳栓の上から、両人差し指を耳穴へ抑えつけ、他人任せの戦闘不能状態であった。
「・・・ああ、もう!」
康治は椅子から立ち上がると、銀玉を拾い集め、一人一人に親切丁寧に教えはじめた。
そうして皆に伝えるまで30分の時間を要した。 「じゃあ、いくぞっ!」
「はいっ!」
康治軍はついに打ち出しを開始した。
「さあ、ようやく、康治軍に動きがっ!しかし、パーラ軍はすでに本領発揮だ!」
虎徹はパチンコのシマじゅうを走り回り、つぶさに選手たちの動向をチェックし、煽りマイクをいれる。
一方。
パーラー軍は虎徹のアナウンス通り順調な戦いぶりをみせていた。
羽根物台へと向かったジグマ加藤は着実に玉を増やしていく。
「ふふふ。このぽったくりホールを熟知しているが故の立ち回りよ。店にわずかにある見せ台を常に察知、ブレ幅の少ないハネモノで確実に勝つ。これがジグマ王道の勝ち筋よ」
加藤は床下に3箱(一箱2000発くらい)を確保し、自らの立ち回りに酔いしれていた。
「おおっとぉ、ジグマ加藤選手。独り言が多すぎる。自己陶酔の極地かっ!」
「・・・ほっとけ」
響く虎徹のマイクパフォーマンスに彼はツッコミ呟いた。
「だが、しかしっ!順調そうにみえたパーラー軍に落とし穴かっ!」
虎徹は変化を見逃さない。 田中と鈴木のおじいおばあは、康治達とは反対側の列で「うみ物語」に興じていた。
「ババア、どうだ」
「走らんね~」
「さかな群が来んな」
「あっ、まりんWリーチ来るよ」
鈴木は盤面に向かって右から左に手を振る。
「生ぬるか」
田中は彼女の台を叩いた。
オカルト全開で激アツ演出を呼び込もうとする。
「ほらきた」
群が走り、途端に激アツリーチとなるが外れてしまう。
「かぁあ~」
「お前これから30回転以内にお詫びがこんと台移動な」
「もう玉なくなるて」
ジジイとババアは仲睦まじく楽しんでいる。
「そう、これがパチ屋本来の姿なのかも、ジジイババアの社交場。そこから花咲く恋もあるっ!」
虎徹は余計なアナウンスを入れてしまう。
「なに言ってんの」
「そうだ。こんなババアとなにが・・・」
「なんですって、このクソジジイ」 「お前っ、今クソって言ったな、言ったやつがクソだからなっ!」
痴話喧嘩をよそにスロプロガリけんはMAX台の「黄金騎士ガロ」を打っている。
「玉は2000発・・・だけど、一発当てれれば、俺の勝ちは揺るぎない」
「おっととぉ!ガリけん選手はのるかそるかの大勝負っ!これが吉とでるか凶とでるか」
虎徹のアナウンスの10分後、
「・・・はぁ」
ガリけんはハンドルを持つ手を止め、天を仰いだ。
「なんとぉ!最初の脱落者はスロットプロのガリけん。畑違いで浪漫を求めて、轟沈っ!」
「・・・くそっ」
店長岸は、ゆっくりと甘デジコーナーに来ていた。 そしてほくそ笑む。
(昨日の夜、しっかりと一台だけ甘い釘にしておいた。これは確実に勝てる。そうこれが店長たるアドバンテージよ)
「さぁ、店長岸が選んだ台は甘デジ「Winterのソナタ」だっ!この台は夕べ店長自らが調整してゲロアマにしておいたスペシャルな台っ!岸よそこまでして勝ちたいのかっ!そこに良心はあるのかっ!」
虎徹はマイクを大音量にして告げる。
「五月蠅い。バラすなっ!良心なんぞとっくの昔に捨てとるわっ!」
岸は開き直り、着実に当て出玉を増やしていく。 「さあ、時間は残り10分っ!どんなドラマが待っているのかっ!」
虎徹はクライマックス到来を声高に叫んだ。
そうなるわな。




