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第66狂・サボテン__十字架が降りる時

智慧のシーンのみ、純架は、透架と記載。

(御影家の事情を知らないので…………)




「______さっき、脳死判定が出た」




「……………のう、し………?」



 肩を落として告げる玲緒、

透架の手が止まり、その瞳には闇色が交じ、項垂れる。



 あの茜色の屋上で会話の後、

実は純架にお願いされていた事がある。

自身の死後の身元引受人となって欲しいのだと。


 移植手術の手続き、自身の死後の手続き。

色々とあるが、これは兄にしか頼めない。


 最初で純架に出来ること、

それが最期の看取りだということは悲哀でしかない。






「純架は脳腫瘍を抱えていた」

「なら、手術すれば………」

「もう末期で手の施しようがない程に進行していて、

死を待つしかなかったんだよ」

「………………そんな」



 1週間前の事だった。

草摩智慧から連絡がかかった。

透架が脳死状態になったのだと。



「腫瘍に巻き込まれた血管が破裂した。

その時に倒れた衝撃で後頭部を強打したせいで………」





 玲緒は、何処か悟りを開きながらも、苦しく哀しそうだった。

透架の双眸に絶望の色が、桜の瞳には、

驚愕と憔悴の色合いが交じる。


「……………嘘よね? ねえ?」



 玲緒はなにも言わない。

俯いたまま、何処か抜け殻のようになっている。

 気を取り直したのか、

テーブルに置いていたファイルに手をつける。




「本当だよ。これが証拠だ」




 感情を堪え玲緒は、書類を渡す。


 


 【氏名:御影透架ミカゲ トウカ


技術担当者/執刀担当医:草摩智慧

(所属:循環器科外科医/心療内科専門医

    当院専任臓器移植コーディネーター)



要因:後頭部強打、

脳腫瘍付近にある血管破裂により、脳出血を認める。


 20××年 ××月××日 ××時××分脳死検査開始。

 20××年 ××月××日 ××時××分脳死と判定。


 備考:臓器移植の意思を表示、また移植予定有。




 脳死判定の立ち会いをするか、と言われて

玲緒は同意した。それが、咎めだと思っていたからだ。

でも咎めは理由だったのかも知れない。



「____しばらくゆっくり休んでおくれ。

生き急ぎ過ぎたでしょう、ゆっくり自分の為に」



 臓器の摘出手術が終わってから

玲緒が密かに密葬し慎ましかに見送った。



 20年前、彼女から目を離した事で

純架が煮え湯を飲まされたのだと、ずっと

取り返しの付かない後悔を抱いてきたのだから。




「………」



 脳死判定が出た時、玲緒は崩れ落ちた。

移植コーディネーターに頭を下げてからの記憶はない。






______病室。






「透架…………貴女って子は……」


 その双眸を潤ませて、指先で目許を智慧は(ぬぐ)った。

永遠に時を止めた彼女の手を握る。

心内で有難う、と伝えながら。


 眠り姫と変わらないその姿。


 そっと熱のない頬に触れた。






「………貴女の望みなら、私は何も言わない」



「けれどこれは、約束よ。今度は自身の為に過ごして。

そして私が来たら出迎えてね?…………ね?」









 中学生の時、透架が入院していた時、

毎日、お見舞いと称して、彼女に逃げていた頃だ。



 あの頃は

医師の両親からのプレッシャーに押し潰されそうで

塾を無断欠席しては、透架のお見舞いに通い詰めていた。


 精神的にも参っていた智慧は

救いを求めるような気持ちだったのかも知れない。

跡を継げと散々、言われて、本望ではない事を

している日々に疲れ切っていたから。



『透架はどうして、お医者さんになるの?』




 

 透架は、手を止めた。

そして神妙な面持ちで、呟いた。



『私ね、実は離れて暮している双子の妹が居るの。

ずっと入院してて、臓器移植しか道がないの。


その妹の為に、だけれど………』


 透架には、迷いがない。

その決意も、軸となる芯も、揺るぎやしない。

その凛然とした姿勢と理由に、落ち込んでいた自身が 

ちっぽけに見えた。



『なんだか、尊敬しちゃう』






 あとあとに両親から怒られたが、透架が両親に

『智慧さんが、勉強を教えて貰っていて』と庇い

それなら、と両親が許して貰った上に

『お友達に智慧が偉いわね』と褒められた。




(この娘は、絶対に、投げ出したりしないんだろうな)





 そんな感情を抱いた。

それから弱気になれば、親友兼幼馴染みである彼女を見れば

自身も負けていられないと心に鞭に売っていた。


 大学生になってから、ルームシェアしていた。

臓器移植コーディネーターの資格も目指していると言った時。



 透架は微笑んで凄いと言って、

智慧の背中を押しながらこう言っていた。


 

『じゃあ、私が、

妹に臓器提供と移植する時は、全部、智慧がしてね』

『勿論、いいわよ』


 

 今になって、あの時の言葉を言った事を後悔している。


 誰もいなくなった闇夜の病室で、

眠りに着いた親友の傍で密かに泣いた。





 

____病室。





「そろそろ、君のところに書類が届くと思う。

 後は…………分かるよね」

「………………」


 透架の眸から、涙が伝う。首を横に降った。




「移植なんて受けたくない。

純架と一緒にもう居られないのなら………。

無意味よ………私は純架と生きていきたいの。

だから、私も後を___」



 透架の悲痛の声音。沈痛が玲緒の心に広がる。

けれども同時に軽蔑にも感情と何処まで短絡的なのだろうと思う。



(何処まで身勝手なんだろう)





「…………これを見ても同じ事が言える?」




 玲緒はポケットから、純架に渡した。



 臓器提供意思表示カード。

その裏には、御影透架、としっかり書かれてある。

長らく持っていたのだろう。カードは何処か色褪せていた。

縁はボロボロだ。



「純架が、此処にきたのは院長のスカウトだった。

けれども、純架はある条件を提示して、


それを受け入れて貰えるなら、と言ったらしい」

「…………条件」

「自身の心臓を、妹に移植してもらえるのなら、って。

それで無ければ断っていたそうだ」


 純架もあの時に告げていたけれど

重ね重ね、言葉に重りを付けて言ってから

玲緒はしゃがんで、透架に視線を合わせると



「純架は、双子の姉の事しか考えずに生きてきた。

けど君はどうだ。妹を思っていてもそれは、

ワガママでしかない。


最初で最期の彼女の願い事を、

受け入れるのが筋なんじゃないか」


 きっと姉の事がなければ

純架は医者を志す事も、心臓を譲るという決心も

そして生きる気力すら抱かなかった筈だ。







「…………………すみ、か………」



「透架。それが、君が出来る事だよ」



 玲緒は、哀しみの表情を隠せなかった。

けれども無理をして微笑んだ。





 純架(透架)を思う登場人物達は

複雑味を帯びていましたが、十人十色の様にあるのですよね。

(様々な生き様を生きてきた彼女だからこそ、と思っています)。



次回、最終回です。

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