【マーガレット/フラックス】(最終話)
_____2年後。
双子の妹の部屋は、
家具以外、もぬけの殻で片付いていた。
其処にはもう存在すらなかったかの様に。
けれども、元々其処にあったかの様に
自分自身の居場所は用意してくれていた。
けれども用意周到で、どういうカラクリなのか
双子の取り違えは訂正され
御影透架、本来の名前に戻る事が出来た。
純架が暮らしていた部屋に、現在透架がいる。
来た時は無機質でモデルルームの様な白い世界に驚いたが、
今では双子の妹が暮らした残り香、
その世界観を崩したくなくて、現状維持を貫いている。
馴染んでしまった病院着。
今はリクルートスーツを着ている自身にたまに、違和感がある。
隣の部屋に住む、担当医だった智慧から現実世界や
日常生活のノウハウを半年程、教わり、
後の半年は、双子の妹が歩んできた土地に脚を運んだり
玲緒から、残酷としか言えない双子の妹の生き様を聞いた。
遺骨の隣には、純架の写真と、医師時代の免許証。
透架は切なげな表情を浮かべながら、双子の妹を見た。
写真が無くて、智慧が医師免許証の名札の写真を拡大して
落ち着いたが、何処か張り詰めた面持ちをしている。
今日も彼女の方に、視線を向ける。
「全部、任せきりに、重荷に背負わせてごめんね。
でも………有難う」
結局、この言葉を繰り返してしまう。
(貴女の名前が、誇らしいわ)
だから、ゆっくりと休んで。
もう誰も貴女を翻弄させる人はいないから。
…………でも。
そっと胸に手を当てた。
たったひとつの、双子の妹の証は此処にある。
そして彼女は、この身体で此処で生き続ける。
「貴女は、此処にいるから大丈夫かな……。
私達、切っても切れない縁ね。不思議だわ」
無邪気に、笑う。
あの後、移植は成功し、
初の一瀬循環器病センターの移植第一例目として、
センセーショナルになって、漸くほとぼりが冷めた頃だ。
長い冬が明けて、街は春の景色だ。
あの頃は窓からの風景でしかなかったのに、
その風景の中を歩いていると思うとなんだか落ち着かない。
こうして町並みを歩くのは、20年ぶりで
発展した現社会は、いつか幼い頃に見た、近未来にいるようだ。
「___御影透架です。宜しくお伝え下さい」
お待ち下さい、と言われ、廊下で待つ。
透架は両面型のパスケースを不意に手を取った。
其処には愛しき双子の妹と、彼女が残した臓器提供意思表示カードがある。
それを、切なげに見詰める。
(貴女が歩んできたから、今度は私の番ね)
心理学を学んでいた影響から、
心理カウンセラーの資格を取得し、
会堂病院の系列病院に就職、心理カウンセラーとして働いている。
「あの頃はお義姉様を、
追い詰めたと思って憎しみしか湧いて来なかった。
純架が自責をずっと感じていたけれど、それは間違い…
私が、悪かったの。
冷静な判断が出来ていれば、貴方を傷付けてしまう事も
純架がいなくなる事もなかった………ごめんなさい」
面会室で憔悴した様子で、
桜はパーテーション越しに頭を下げた。
横暴て強気だった、
彼女の憔悴も謝罪も初めて見、聞いたものだった。
「責任は、はんぶんこにしましょう?
私にも非があるのだから、あの日、私が貴女の、」
(心を操り、人生を奪ったのだから)
双子の妹と一緒に居たいという思いから、暴走した心は
いつの日か大人達、
そして双子の妹の心まで踊らせていたのだと、反省した。
そして自身以外の生き者は、偽物の罪人にしてしまった事も悔いている。
(貴女に、心臓を貰っていなかったら、気付け無かったと思う)
自身の横暴さも、身勝手極まりない過ちも。
この罪の意識も。
(純架が、20年間
守りきったものを、無下には出来ない。
それが恩を仇で返すという事なんだと思うから)
御影純架が生きていた事を、否定する事になるから。
あの後、桜は自首をした。
御影透架を傷付けたのは、自身だと。
貴宏は冤罪とされ、出所後、彼は行方をくらましたままだ。
捜そうとは思わない。
きっと、彼も再会を望んでいないだろうから。
(私は、身勝手でも、
変わらず、純架だけを思い続ける)
双子の妹のいない世界は不安だったが、
形は違えど彼女は今も生きている。
妹の生き様は、この胸の奥にしまって置こう。
誰にも渡さぬように。
(私達は、一緒にいる)
Fin.
拙い小説を読んで下さり有難う御座いました。
読み手様、には感謝の気持ちでいっぱいです。
新装版としては1年1ヶ月、合計では1年4ヶ月、
連載しておりました。読んで下さった読み手の皆様
有難う御座いました。
積もるお話は、また落ち着いてから活動報告にて綴らせて下さい。




