第62狂・ヤマザクラ___30年前のあの日
【警告】
このお話は、刃物描写、流血描写、殺害シーン御座います。
お読みする際は注意を払いながら、
自己責任にてお願い申し上げます。
「透架は、純架で、純架は、透架だったの………?」
恐怖心に包まれている、中で、桜は呟く。
「そうよ」
そう、肯定したのは、“純架のふりをした透架だった”。
玲緒は生命装置の数字を、時折に厳しい眼差しで見ていた。
桜に対して嘲笑うと、双子の妹へ微笑みを向ける。
「離れ離れになるのは、死んでも嫌。
あの頃の私達は子供でしかない。どうにも出来ない。
_____だったら、周りの大人達を排除すればいい」
透架の心に企みに、純架、玲緒、桜は、戦慄する。
最期の語尾が、迫力に包まれ強い。
けれども今更、逆さまになった砂時計を見ても、心は動かない。
彼女は微笑んで桜を見た。
「だから、桜?
貴女を利用したの。
貴女の玲伽に対する執着心が、壊してくれる。
そう思っちゃった。現実問題、
貴女は私の言葉を受け入れた事には変わりないでしょう?」
少女の微笑みで、楽しげに謳う様に。
「あの家の構成を知っているのは、
玲緒と桜、二人だけ。
だからあの日、
監禁されていた純架を前もって連れ出した。
そして子供部屋で、ずっと貴女に襲われるのを待っていたの」
(全部、幼心が生んだ、完璧なシナリオ………?)
“本物の双子の妹”は唖然としている。
純粋無垢な花はいつ、穢れを知っていたのか。
それと共に、淡い記憶が混濁していく。
______私は、監禁されていた?
思えば記憶にある、あの床は異常に冷たかった。
いつの日でも寒く、煤けた暗闇の壁が気味が悪い。
あの冷たい世界を忘れるのは、罵声と痛みからくる熱さ。
篠宮純架であった頃は、
四季とは隔離された世界にいたのだと今更、気付いた。
「あの時、貴女は、嬉々としてきたわよね」
「…………………」
「恨み辛みを私達にぶつけながら」
煤けたボロボロの身なり。
喜色と狂気を孕んだ双眸、そして右手には鋭い刃。
薄ら笑いながら敵意を向けたその眼差しに気迫された。
『私からお義姉様を奪った悪魔______』
『返してよ………お義姉様を。
返してぇ………私にはお義姉様しかいないの!!』
脳裏に木霊する狂気の言葉達。
どんどん姉妹が壁に追い詰められていく中で、
桜の叫びを聞いて真っ先に駆け付けたのは…………。
『…………桜。____やめろ!!』
切羽詰まる貴宏の叫びにも似た声音。
貴宏に向けた刃。
桜の瞳は狂気以外のものは、映さない。
『元は全部、あんたのせいよ。
あんたが、お義姉様を唆(そそのか}して、私から奪った。
自身の行動は間違いだったと今から教えてあげる』
『……………』
狂乱の微笑み。
何処か自暴自棄じみているのに、その瞳には
一筋の希望が称えている理由が分かる。
闇夜の中で、桜は恍惚な微笑みを浮かべていた。
ぎらり、と光る何かが、危ういものだと理解しながら
立ち尽くしたまま居ると狂気が迫り、黒い何かが迫ってきた。
ドス、という声。
『______っ、』
鎖の様に自身を抱き締めていた細い腕。
それが雪崩れの様に落ちていく。泥濘の感覚に
手のひらを見詰めた時。
赤黒い何かが、手を染めていた。
壁に項垂れる様にして、座り込んだ。
深紅に染まった片割れが、自身の膝の上で倒れている。
震える手を見つめた後のちに
恐る恐る顔を上げると、自身達を嘲笑った魔女がいた。
魔女は今度、貴宏に近付く。
そして微笑んで血に染まる刃を貴宏に持たせる。
『_____全部、あんたのせい___………』
狂喜を孕んだ微笑は、背筋を凍らせた。
そう笑った時、同時に金切り声と悲鳴の断末魔が聞こえた。
玲伽がいた。
彼女は恐れ戦いて、項垂れている。
桜が持っていた刃は隆宏の手の中にあった。
玲伽は震えながら、見詰めた。
同じく項垂れ座り込んでいる貴宏の背中。
彼の手のひらに乗せられた深紅に染まった刃。
隅で深紅に染まり、
重なり合う様に倒れている双子の姉妹。
『___た、かひろ? なんで…………貴方が、』
玲伽の声音は、震えている。
『貴方が…………あの娘を………』
『………………そうだ』
『嘘と言って…………? 嘘と言って………?』
貴宏の元に行って、強く肩を揺さぶる玲伽。
その手を止めたのは桜だった。桜は玲伽の両腕を掴むと
桜は泣きそうな表情で義姉を見詰め、抱きしめる。
懇願する様な眼差し。
『お義姉様、目を覚まして………。
お義姉様は、この男に
唆されて騙されているだけよ』
けれど彼女は、間髪入れずに桜の頬を叩いた。
姉に拒絶された事がショックで、そして同時に走る憎悪。
『そんな事はないの!!
私には、貴宏さえ、いれば、どうでもいいの!!
貴女だって____この小娘達も私には要らない』
その玲伽の叫びに、桜の双眸に絶望の色が広がる。
そんな中。
『……………何をやってるの?』
不思議そうに、茫然自失とした声音。
視線を向ければ、玲緒が立ち尽くしている。
そして隅に置き去りにされた、
深紅に染まった妹達を見ると眸を見開き、
妹達の方へ一目散に駆け寄った。
『透架、純架!! 純架………!! 透架は………』
玲伽が下した二人の身なりの差で、
玲緒はどちらがどちらなのかを気付いていた。
『…………こんな………。桜、どうして…………』
沈痛な眸で、玲緒は桜を見遣る。
『え…………?』
息子の言葉に、玲伽は固まる。
貴宏ではないのかという問いに、
桜だ、と玲緒は迷いなく返した。
「返り血の量を見て、父さんは何もしてない!!
刺したは桜だよ、母さん………」
反射的に2人に送る。
桜は大量の返り血を浴びているけれど、
貴宏は手のひらにしか付いていない。
そう、叫んだ。
『取り敢えず、救急車…………。早くしないと』
「玲緒は、たまに顔を出していたわ。
わざと桜も玲緒も居合わせる日を狙ったのよ」
「大人がいなくなる様に………全て崩壊になる様に向けたの」
全ては、双子の姉の手の駒の中。
全ての悲劇を起こしたのは桜。
貴宏は桜の罪を被り冤罪に、そして
貴宏を奪われ、路頭に迷う玲伽は絶望の末に自害した。
…………彼女の思う通りに、大人は消えたのだ。
その傲慢な微笑み。闇夜に照らされた
双子の姉は、滑稽でも、美しき毒牙に見えた。
目を伏せて、彼女の心臓の数値と波数を見た刹那。
いつもよりも安定していた。
ようやく明らかになった、30年前の全ての記憶。
そして、ご不快な気持ちになられた読み手様に
この場を借りて、謹んでお詫び申し上げます。
大変申し訳御座いませんでした。




