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第58狂・クローバー___30年前の本物の首謀者




 呑み込まれては駄目だ。

例えば、それが現実だとしても、自身の使命には関係性がない。

身勝手な大人達が招いた結果だからこそ。


(私には、純架を護らないといけない) 


 純架に罪はない。

例え同罪だとしても、その罪はこの姉の身で受けよう。



 純架への贖罪を果たしてから考えよう。

純架を護れるのは、身勝手な大人達でもなく自身だけ。

錯乱する頭を都合よく解釈して、自身を正当化しようとした。





 この権利は意地でも誰かに渡したくはない。



(妹を護る、私にはその義務がある)

 


 その為ならば、自身が幾ら傷付いても構わない。





「まだ、まだ、私の役目は果たしていないわ」

「_____役目?」



 玲緒は眉を潜める。透架は唇を噛み締める。




「私が、医師になったのは、

心臓外科に執着したのは、純架に、この心臓を移植する為」

「………え?」


 玲緒にとっては、初耳だ。

渋谷家は代々医師の家系で、息子にもそれを求めていたという。

しかしその重圧感とプレッシャーから


彼は精神的崩壊を招き

今は地方の精神病棟にいる。


 (彼の代わりに透架に継ぐのだと思ってた)



 御影家が、

桜が血眼になって、行方不明を探しても見つからなかった。

まさか誰にも告げないまま、そう計画を立てていたとは。




「一卵性双生児なら、拒絶反応も無いでしょう?

私は純架の人生を奪ったの。その罪は身を以って償うの…………」


 何処か懇願する様な瞳。

それが唯一無二…無力な自身に対して出来る(とが)めなのだから。

けれども途端に玲緒は怜悧な眼差しを向けて、呟いた。



 

「______自惚れてるね」



 怜悧な声が、暗がりに落ちる。




「自惚れすぎ。




きっとそれは自身にしか成し得ない事だと思い込んで

生きてきたんだろう?」

「…………」


 今まで、妹に心臓を捧げる事が、自身の役目だと

贖罪と思いながら生きてきた。それしか脳裏に写さなかった。

盲信して疑わなかったのもある。


「純架もかなり自分勝手と思っていたけれど、

やっぱり似た者同士は似た者同士。君も自分勝手だったんだね」

「…………どういうこと?」


 玲緒は身を乗り出すと、透架の肩を掴んだ。



「君が心臓を渡しても、どうなる?

純架は桜から受けた心の傷が癒えないまま、生きていく。

いつかは自身のドナーも知る事になるだろう。


それは即ち、純架は苦しませるだけだ。


_______それは、エゴでしかない」



「……………え?」




 今まで、妹に心臓を捧げる事が、自身の役目だと

贖罪と思いながら生きてきた。それしか脳裏に写さなかった。

けれども純架の心情を考えるまでには至らなかった事を痛感する。


(分かってる。この思いが身勝手だって)



 純架の人生を、奪った事には代わりないのだから。







 

「玲伽に、母に似ているのは、どちらだと思う?」



 消灯時間が間近に迫る頃、窓際の夜景を見詰めながら

純架は憂いを帯びた表情と眼差しで、頬杖を付きながら

そう呟く。


 傍らには桜が居た。

桜は母親を名指しで呼んだ事に不満を抱いている。

けれども思ってしまった。



 透架と純架が、義姉のどちらに似ているのかを。

二人の性格は正反対だ。純架は心理的な頭脳に長けていて


 何でも見透かしてしまう。そして、

世間では高学歴と呼べる彼女に心理戦では勝てない。

純架は名の通り、子供の頃は純木そのもので、

桜の些細な言葉でも真に受けた。


けれども成長した今、頭脳でも、口頭でも勝てない。



「貴女は、お義姉に似てる。性格面では……」



 高尚な姉。

目を離した隙に、自身の計画を遂行してきた。



「じゃあ、時効が過ぎたとしましょ?

 貴女にとんでもない秘密を、聞かせてあげる」

「………え?」



 無邪気で可憐な微笑みの筈なのに、それが怖い。



(この事を姉は覚えているだろうか)



 覚えているのなら、今もずっと苦しみ続けているだろう。

ずっと胸の内に隠してきた過去は、何時しか純架だけの秘密となっていた。




 篠宮家に来ても、玲伽は

玲緒は歓迎しても、桜は疎まれる事が多かった。

けれども 玲伽は決まって“純架としか玲緒を遊ばせないし

顔を合わせない”。



「透架はいなかったでしょ?

貴女が遊びにきても毎回」

「そう言えば、そうだったわね」


 双子の姉妹、そりが合わないのだろうか。

桜はそう思っていた。けれど何処か違和感があるのは否めなかった。




(この事を姉は覚えているだろうか)



 覚えているのなら、苦しみ続けているだろう。


 ずっと胸の内に隠してきた過去は、

何時しか純架だけの秘密となっていた。





「ごめんなさい………ごめんなさい」





 姉は____透架は、玲伽から虐待されていた事を。



 純架への風当たりは優しいのに、

玲伽は尽く揚げ足をとっては透架を追い詰めていた。

透架は何も悪くないのに。



 性格的な反りが合わないだとか、そういう次元ではない。



 玲伽が透架に手を上げる度に、貴宏が止めていた。

玲伽はそれが気に入らなかった。


「どうして透架を庇うの!? 私はどうなってもいいの?」

「そうじゃない」

「双子のどちらかを御影に差し出さなければ、貴方と離れてしまう。

そんなの私は絶対に嫌よ!! 貴方はそれでも良いの!?」



 狂気に狂った声音。

後で母親の夜泣きを聞く様になってから、

それは母性ではなく身の保身となっていた事に純架は軽蔑した。

玲伽は常に御影家の血縁関係に束縛され、

貴宏とも引き離されるとも思っていたらしい。


 だから透架を人質にして、

いつかは、御影家に送り出そうと考えていたのだ。



 玲伽は常に御影家にこの家族構成が明らかになること。

子供達はどうなってもいいから、

貴宏と引き離される事をずっと嘆いていたのだ。



 その不安を透架に八つ当たりしていた。


 玲緒の様に透架を御影家に差し出せば

口止めして貰えるかと考えていた程だった。



 純架は幼心ながら、姉と離れる事を心から拒絶した。

同じ屋根の下にいても、与えられる境遇は天と地の差。

それでもと透架は、健気に耐えてる姿を、妹は見ていられなかった。



 だから。あの日。

玲緒を可愛がる両親の許を抜け出して、

庭で不貞腐れて待ちぼうけしている桜に目を付けた。


「こんにちは」

「……………」



嗅覚が可笑しくなりそうな、慣れないきつい香り、

此方を見た眼差しはまるで動物園の猛獣の様で今でも、忘れられない。

透架のふりをして、純架は桜の耳許で囁いた。



「私。姉の透架です。嬉しいお知らせがあります」



 天使のふりをした悪魔の微笑み。



「またお母様と暮らせるかも知れない」



 協力して? と無邪気に(うた)う。

その失意のどん底の様な眼差しに、

喜色が浮かぶまで時間はかからなかった。



「なにをしたら、いいの?」



「______私を××して? 代わりに妹を助けるふりをするから」

「それで………どうなるの?」



 最初は驚きの顔色を隠せなかったが、

諦観めに告げた桜に、純架は禁断の言葉を囁いた。




「_____そうしたら、また、玲伽と一緒に暮らせるよ」



 耳許で囁かれた言葉は、

義姉に冷たくされ傷心していた女の心を、見境と理性を壊した。




 淡い光りは、彼女の滑稽な微笑みを照らした。



「___本当は御影家の命令でもない。

でも人はいつ裏切り変わるか、分からなくなる。


私は生きている。今、目の前にいる真犯人を

警察にいつ自供をするか解らない。


加えて己の、その罪を冤罪として父に擦り付けた。


………………それが明らかになるのが怖いから、

毎回、来なくていいのに、足繁(あししげ)く来るのでしょう?」



 その余裕綽々の微笑みが怖い。

何を考えているのか、分からないからだ。

桜の拳は震えている。


「…………貴女のせいでしょ? 

私を誘惑して………私は、貴女を透架だと思ってた。

なのに事実は違っていて、突然、横槍の様に出てきて………。



姉が全てだった私に、あんたは弱味に付け込まれた………」


 

 純架は高らかに嘲笑う。




「あれは、母への見せしめよ。

散々、可愛がった子供が、貴女の手によって

倒れた事はさぞ沈痛でしょうね。そして

姉への虐待疑惑で追い詰められた御影玲伽は壊れてしまった」



 濡れ衣によって貴宏を奪われ、

一番、可愛がっていた娘の未来はないと宣告され、

透架の痣だらけの身体を見た病院側と

児童相談所に追求された末に、トラックに飛び込んで自害した。



 母が亡くなったと言われても、涙も出なかった。

心身ともに姉を傷付けた毒母。



(透架を傷付けるなら、私が許さない)










「………………嘘でしょう?」



闇夜の部屋で、透架の憔悴の声が聞こえた。

盗聴器と防犯カメラの確認に確認した時に、

自供された純架の無慈悲な言葉達。



(だから、桜には強気に出ていたの?)



 純架は全てを知っているから。



 そして自身の、篠宮透架の記憶がないのは、

母親の虐待や、双子の妹が目の前で倒れた事が重なった。

それが重なり合い、何時しか星屑の様に自身で消してしまったのか。



 其処に、透架の知る妹の姿ない。



(………………全ての首謀者と要は、純架なの?)





透架が出生の秘密を知ってしまったのなら、

純架はそれを知らなくとも、30年の出来事を胸に秘めていましたね。

姉妹が姉妹を思う末に………という、複雑なものです。

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