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第57狂・シキミ__守護人のふりをした外道師

お久しぶりです。おまたせ致しました。

ドロドロ展開にご注意の程をお願い致します。



 目眩が起きそうだ。



 御影玲伽は母であり姉。篠宮貴宏は父親であり兄。



 篠宮家は、玲伽の狂気によって生まれた虚像の館、

まるで幾度も絡まったまま、解けない糸の様に狂気の人間達の集まり。

家族の誰かが、誰かと繋がっているのは、茨の様な鎖の様だ。



 雷鳴が轟いている。

空は灰色に包まれているのに、雨は降っていなかった。







「……………珍しいですね、貴女から此処にくるとは」

「逆に驚いています。貴方、此処に居座っているのですね」



 篠宮という表札は煤けている。

此処は___あの日まで、篠宮透架として過ごした家。




 あの凄惨な事が起きた塊。

今まで贖罪を理由にして、過去をずっと目を背けてきた。

現に今でも要らないものだと思い込んだまま生きている。




 篠宮家は、

特殊な作りで、一階である筈の部屋は実はロフトだ。

だから何処となく殺風景に見えるのかも知れない。


 隠し扉の向こう側は螺旋の階段。

そこを降りると地下2階の5LDKの広々とした作りになっている。

それはまるでパンドラの箱の様な不思議な造りだが、

 

 “全てを知った現在(いま)は”

繋がりある狂喜の人間達が息を潜める為の館だったのではないか。



 そんな呪縛と惨劇の痕を残す、

狂気の館に玄関に寝袋を以って、玲緒は此処に寝泊まりしていた。

あの日から変わらず、ずっと此処に居たのだ。亡霊の様に。


 彼は扉の前で本を呼んでいた。












 透架のその瞳は、何処か虚ろだ。

桜の言い分を確かめる為に高梨玲緒の事を興信所を

調査して貰った、その結果に透架は絶句せざる負えなかった。


 桜の狂言かと思っていた部分は彼女が、

実はオブラートに包んでいたもので、

ストレートな現実はもっと残酷で滑稽だった。




「…………高梨玲緒………御影玲緒は……貴方は桜の息子?」

「いいえ」



 玲緒は、冷たく突き放す。



 興信所に書かれていた、

貴宏と桜は婚姻関係にあった事も驚いたものの、

その先にあった事項に首を傾げたまま、呑み込めない。


“高梨玲緒”は

“御影貴宏___篠宮貴宏と御影桜の長男”と記載されていた。

貴宏と桜は婚姻関係にあるということ。



 



 ますます血縁関係が分からなくなる。





「厳密に言うと、表ではイエス、裏ではノー」





 断罪する様に、玲緒は告げた。

そして何歩か歩いて透架との距離を詰め、瞳を覗き込んだ。




「…………桜から何を吹き込まれた?」



 表情は穏やかながらも、不協和音が漂う。



「私と純架が、近親相姦で生まれた事

桜が澁谷里穂さんのドナーで………それを母親にすり替えた事も………。

そして貴方が桜と、父親の戸籍に入っている、事だけ」

「だけ? にしては情報が多い。………でも、もう隠しようがない」


 

 

 

 

 嘲笑う様に呟いて、玲緒は前髪を掻いた。

その自暴自棄的に嘲笑う微笑みに何故か悪寒がして、

警戒心から思わず後退りした。


 そして、突然真顔になり、鼻で笑う。

御影家しか知らないよね、と前置きした上で

まるで御伽噺(おとぎばなし)を語る様に話を乗り出した。




「御影家自体、本家と分家の人間の狭い世界で

血族結婚を繰り返してきた。その理由なんて単調で単純。

その血を誰にも握らせない為に…………。




 40年前に縁談が組まれた。


____御影が指名した結婚相手は誰だと思う?」



 透架は息を呑む。




「僕らの父親と、桜だった。

でもその縁談を深く哀しみ、赦さなかったのは…………」

「………玲伽?」



 (その何でも見透かしてしまう癖は時に聡明で、時に毒だ)




 何処か失望した瞳で頷いた。

元々、貴宏と玲伽の両親は不慮の事故で亡くなっていた。

それを不憫に思い兄妹を引き取ったのが、今の御影の当主だ。

彼は、兄妹の、母の弟だという。




 対する桜は元々、分家の娘だった。




 だが一つ難があったのだ。

彼女は妾の娘のではないかと噂されていて、

分家でも疎外され、本家では軽蔑され、本人もそれを気に病んだ。


 そんな常に弱っている桜に対して

従姉妹である玲伽が優しく接してしまったものだから、

彼女は義姉になった玲伽を敬愛した。その敬愛が、

(やが)て執着から依存する様になるまで時間は要さない。



 けれども

両親を喪った玲伽にとっては貴宏は唯一の家族で

慕っていた感情は執着に代わり、全ては一方通行になってしまったのだ。


桜が玲伽に依存しても、玲伽は強く兄に依存している。

それぞれの想いは届かない。



「御影の命令は、絶対的に服從しないといけない。


 貴宏と桜の結婚が正式に定められた後、玲伽は壊れた。

可愛がっていた桜を恨み、憎しんで……桜も戸惑った思う。


それで

玲伽はあろう事か、兄に“ある罠”をしかけた」

「…………罠」



「その時には既に、籍は入れていた。

女の醜い感情を何も知らない貴宏は妹の思惑の罠にかかって、



夫が罠にかかったと知った桜は、悲しんだ。

けれどそれは貴宏に向けてではないよ。玲伽へ」





「桜はさ、玲伽が変わった事は、貴宏のせいだって。

そして、玲伽が仕組んだ罠で距離が生まれる事が許せなくて

義姉の愛情を、貴宏に奪われるのだと思って錯乱したらしい。


おかしいよね。

夫の裏切りより、玲伽の裏切りに狂乱した。



 ただご覧の通り、玲伽も暴れた。自害してやると。

そして、玲伽の希望は、桜と離縁させて自身を貴宏と結婚させろと」



「…………それで………」



 胃が煮え(たぎ)り、脚は震える。気分は悪い。

思えば無意識に額に手を伸ばしていた。




「けれども、

その頃、玲伽は御影家の重鎮とも呼べる子女になっていた。

居なくなれば御影家は崩壊する。今更、手放せない。


だから、御影は諦めて、玲伽の希望を呑んでしまった」



 取り返しの付かない事態に、御影家が考えた、



解決法は

“表向き、貴宏と桜は離縁させたと玲伽に言い、裏では婚姻関係は継続させる”。



 

「玲伽に生きて貰う為に

御影は貴宏との仲も、子供も赦すと………

その罠の、証拠が僕」


 その表情が、何処か物悲しい。


「ひとつ誤解してる。

婚姻関係がある以上、僕は御影貴宏と桜の息子だ。

表向きはね。だから、表向きは君達、姉妹と関係性がない」



 透架は悲哀の眼差しを自然と流し目で、反らす。

こんな狂乱の過去、純架の耳には絶対に入れたくない。

………今でも桜の配偶者は、貴宏なのだ。



「玲伽はやっと落ち着いたんだ。

兄とも一緒になれて、息子も生まれて暮らせていた。この家でね」



 今更、気付いた。

この家は玲緒が育った生家である事も。

事件後、風化したこの家に、ひとりひっそりと暮らしていた。




 次第に玲緒の顔色が、暗雲に包まれた。


 


「けれども僕が成長するにつれて、玲伽は不安に包まれた」

「………全てが望みに通りになったのに、何故」



「理由は簡単だ。

踊り子として御影は子女を求める。

俺はどうあがいても代わりにはなれない。

考える必要ないのに、次第に兄が略奪されるのだと思い込み始めた。


……本心は知らないけど、玲伽の罠にかかったあの人は

妹と子供の責任を取らないといけない、という一心だったのかな。

でも。


どう思っていたのか分からない。

だって、あの人は大切な事を何も言わないから。


ただ、

だんだん不安に苛まれた玲伽は、俺の時と同じ行動に出た」




 思わず背筋が凍る。

呼吸をさせない程の狂乱は殺意にも似ている。

玲緒と兄妹ならば、次に玲伽が暴走した際に身籠ったのは………。


 しかし疑問が残る。

透架も純架も、御影姓を名乗っていない。

それに御影家の周りに篠宮姓の関係者はいない。


「私も純架も、名字は篠宮だった。なのに何故?」

「それは…………背乗りだよ」

「………え」



 玲緒は、ポケットから写真を一枚取り出す。

そこには10代後半だろうか、あどけない少年がいた。

見覚えない青年はぎこちない微笑みで貴宏と写っていた。


「だれ………?」

「篠宮貴宏。偶然、同名の人だった。

彼は家族を喪って天涯孤独になった後に、

公園てホームレスとして夜空の下で寝食をし、暮らしていた。


 でも。自殺願望があって

公園で何度も自害する方法を考えていたんだ。


そんな願望を抱く青年と

切羽に詰まり、父親だった貴宏と、

彼の利害が成立した場合どうなると思う?」


 事を呑み込んだ刹那、透架は、項垂れた。

求める者と捨てる者。その利害関係が成立したならば。

彼はいない。その名前と情報を受け継いだのは、事情を知っている唯一の人間。


「……………貴宏はこの人に成り済ました。

そして玲伽を連れてこの人里離れた田舎町に来たんだよ」

「____貴方は、どうしたの?」


 

 透架の記憶は、酷く曖昧だけれども

どうしても兄がいたという認識はないのだ。


 玲緒は、自傷的な微笑を浮かべる。


「わざと、御影家に残ったんだ」

自らの意思だったし、それに玲伽が、子女を身籠ってると

逆手に取って、俺の事は人質にしたしね」



 母親、玲伽の事を語る、

その声音は何処か軽蔑に似た冷たさ。



「人質?」

「泣付く桜に言ったんだよ。

「___玲緒を御影家に預ける代わりに、見守ってくれれば

いつでも会いに来ていいと。


それが交換条件。

俺も母親の顔色を伺いながら生活に辟易していたし。ね。

だから___」


「_____待って、」


 

 透架はこめかみを抑えた。

いつの日か見たセピアカラーの映像が、脳裏を巡る。

あの夢に現れた少年と、玲緒は酷似している。

その低い声音もその儚さが浮かべる表情も。


(気付いたら、駄目)


 

 壊れてしまう。心臓が破裂しそうだ。

鼓動が警告する様に鳴り響いて、悪寒からの全身の震えが止まらない。


(気付いてしまったら、戻れない………)


 


 正気では、居られなくなる。

贖罪を終える前に精神が破壊されたら元も子もない。

けれども確かなものは_____。



 

『君は___玲伽の息子だと?』



 和室では、留袖を袖に通した男が、そう困惑しながら呟く。



『初めまして、御祖父様。そうでございます』



『このまま貴女の身勝手を通したら、里穂がいなくなっちゃう』


『…………じゃあ、この子達を殺せと?』


『お願いよ。

 その子達を諦めて、今は里穂を助けて頂戴。

これも運命と思って。貴女しか里穂の命綱はいないのよ』

『…………………』


 女性二人が争う後ろで、襖の戸の向こうに半分だけ顔を出し

大人の顔色を(うかが)う不安げな少年は………。


 


 『お母様を、責めないで』



 

 閉じた涙が溢れていく。開いた時には視界がぼやけている。



「______私が、見ていたものは、見続けていたものは……………」


 

 全ては、玲緒の記憶。

ホロスコープの如く、望遠鏡で見詰め続けていた。

星の如く点と線が繋がる。



狡猾なその意味が、今更になって、現れた。


 

 外道師の如き、微笑み。

絶望的な気色をその双眸に写した透架の前に、

目線を合わせて玲緒は佇み、そうだ、と肯定した。




毎度の事ながら、

ご不快な思いやご気分をされた読み手様には

とても申し訳気持ちでいっぱいです。



この場をお借りしてお詫びを申し上げます。





そろそろ物語も、終盤です。

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