第56狂・アイビー___出生の秘密
花言葉が同じものがありますが、
それぞれ違った意味合いでの物語構成ですので、
ご了承を下さると幸いです。
【流血表現有】
苦手な方はブラウザバック、またはお読み下さると
幸いです。(いつも申し訳御座いません)
桜の隙を付いて、玲緒は、透架を抱えて走った。
その脳裏あるのは、双子の妹のこと。
その呪縛めいた情は、どの部類に入るのかは分からない。
操り人形になっている女医の身体は、羽の様に軽いものだった。
(…………この人が、純架と私の兄………)
そう思った刹那的に、ある感覚が脳裏に、溢れ落ちる。
「…………これで、全てが………」
切羽の詰まった、狂気的な声音に、背筋が寒くなった。
「____下ろして」
「もう少し耐えて下さいな」
青年は飄々としたまま、
透架を片手で抱えて歩いている。
香取真帆として
入院しているE棟は、厳密に言うと閉鎖病棟だ。
元は全身である一瀬病院が由来で、あの場所は旧館となっている。
手入れもされず老朽化が進んだ館内は
何処か時の哀愁と儚さを残し、時は止まっている。
旧食堂と書かれた札、あちこちに散らばった椅子、砕けたテーブル。
壁の片隅で、透架を下ろした玲緒は
彼女を壁に持たせて、近くにある椅子を転がした。
重さのある椅子を逆手にドアを封鎖したのだ。
「さぞ、混乱しただろうし、お疲れでしょう。
あの人は、桜は………激情的だから。
それより」
(そんな激情的な、人間に付き合ってきた)
透架は、純架を想う。
桜と面してきたのは、純架だ。
一歩通方な私情に付き合わされ、
ストレスを受けてきたのは妹だと思いを馳せながら
それはもとい、衝撃的な発言を聞いてなかったか。
「さっきの発言………兄というのは、出任せ?」
ショルダーバックから
ガーゼ、包帯等を取り出していた玲緒は
少し視線を泳がせてから、
「………年が離れてるけれど、血縁上の兄である兄だよ」
刹那的な微笑みはそのまま、
けれども口調は崩して玲緒は告げる。
疑い深い透架を察したのだろう、玲緒は1枚の紙を見せた。
____逃げ道がない宣告を。
<対象者>
・御影玲緒
・御影透架
血液型:AB型
兄妹関係確率:99%
“上記の結果により、
御影玲緒、御影透架の兄妹関係を成立とする”
悪寒が走る。
それは出任せでもなく、本当の事なのだと。
恐る恐る紙を持っていた手を項垂れ落として、玲緒に視線を戻した。
「_____嘘」
「………年が離れた、血縁上の兄だ。
君と純架は一卵性双生児。元は同じ細胞だから、
純架と鑑定しても無意味ですよ」
「……………でも」
「私の記憶には、兄なんていません。
私の姉妹は純架だけ」
玲緒は、座り込んで片足だけ立てている。
茫然自失とする透架に対して、
「___本当に、そう断言できるか」
強めの口調で呟く。
透架は同意の意を示そうと頷きかけて、止まる。
あの事件が起こるまでは、
篠宮家では、両親と純架と4人で過ごしていた筈だ。
両親と妹、他は誰もいない。
けれどもホロスコープを覗き
思い出そうとも、当時の記憶がどうしても浮かび上がらない。
そんな透架の心を見透かした様に、告げた。
「当時、僕は
あの病院で、心療内科医として研修中だった。
20年前のあの日。
純架も透架も、二人共危篤状態のまま運ばれてきた。
純架は身体的に危篤状態で、君もある意味、危篤状態だった」
「…………それは、どうして」
「精神的なショックが原因で常に魘されていて、
自傷行為に及んだり、純架の後を追おうとしたり……。
主治医しても、兄としても、見ていて辛かった。
記憶は酷く錯乱していて、どうしていいものか。
そんな時に、病院から姿を消した」
そして桜の思惑により、誘拐された。
母である姉は、取り戻しに訪れるものだと思って。
篠宮貴宏は、“父であり、それ以上の存在”だ。
娘を殺めかけた殺人鬼の娘。
そのレッテルは消えないけれども、
“誰かの代わりに成れる程のお人好し”だった事は、
純架は納得せざる終えなかった。
(あの頃も、そうだった)
試しに、透架のふりをして現れた自身に、
母は我を忘れて虐げる自身を身を挺して守ってくれた。
母を宥めても恐怖感に包まれた彼女は歯止め等、聞かない。
透架は、玲伽から離れて良かった、と純架は心から思うのだ。
20年前、
会堂病院に、妹と共に運ばれた。
けれども桜の私情によって、自身は拐われ、御影家に連れて来られた。
桜が、私を拐ったのは、全て姉の為に。
そして自身の欲望の為に。
桜の計画だと、玲伽は訪れると思っていた。
けれども矢先にきた連絡は、彼女が自害したというもの。
それがミステイクだったのか、
桜は“道具”としか思っていなかった桜は
姉がいなくなった途端、透架を御影家から追放した。
「時間を置いて、頭を冷した方がいい」
玲緒は、それだけ告げて病室を去る。
その数時間後、桜は病室に足を踏み入れる。
そして違和感を悟る。今までにはない不気味さ。
胃から逆流する様な気持ち悪さを覚えて、腰が抜けた。
戦々恐々とした眼の前の光景から、
悲鳴を上げようと、身体が叫んだ。でも、寸前で止められてしまう。
後ろ手から手を拘束され、口許にはガーゼを含んだ手許で。
桜は目を剥いて、此方をみる。
しかし透架は優雅な微笑を浮かべていた。
それはどことなく儚げで今にも泣きそうなものだ。
「足りない………足りない………」
病室には、血の跡がぽつり、ぽつり。
シーツに染み込んだ鮮血。辺りには、飛び散る赤。
「ねえ、あの日も、そうだった?」
幼き少女の声が、聞こえた。
今更、気が付いた。ガーゼで口を塞がれている手が
傷だらけで、その上で鮮血が浮かび華奢な腕を伝っていること。
この光景に広がっているものが、
全て彼女の自傷行為によって流れた血なのだと。
悲鳴の代わりの息絶え絶えのまま、桜は、そちらへ向いた。
「…………貴女を、待っていました」
「なんですって?」
「此処にきたからには、全てを吐いて貰う」
「_____」
その笑みのない闇色の双眸が、恐怖を増す。
微笑みのない顔色は何処か人生に諦観を抱いた切ない眼差し。
けれども物騒な彼女は、利き手にナイフをその華奢な腕に当てている。
また、ぽたり、と床に鮮血が溢れ落ちていた。
月夜に写るその女の狂気に、背筋が凍り付きながらも怯えている自身が、見えた。
「打撃はないの?
玲緒が兄で、私が貴女を拐った張本人である事が分かってるでしょう?」
その瞬間、ザシュ、と何かが切りつけられ、
髪に鮮血が付いている事に桜は心が凍った。
恐る恐る透架を見詰めると、透架は据わった眼差しに恍惚な殺気を称えている。
「あの人が関係あろうが、なかろうが、どうでもいいの。
私には人畜無害だから」
「非常ね、薄情者!!」
透架は鼻で嘲笑った。
刃物を持っている以上、下手すると怪我をしかねない。
その余裕や冷静さは何処から湧いてくる?
「心が冷めきると、
なんの打撃を受けても微塵も動かない事をご存知?
………でもね、今更考えたわ。
例え、殺人者の娘であっても、
あの日、貴女に拐われなければ、どうなっていたのかって」
「……………それは、」
母は自害したとしても、
兄の元で、純架の傍にいる事は出来たのだろう。
離れ離れになる事もなく、愛しい妹の傍にいる事は出来ただろうに。
それを引き裂いたのは、目の前にいるこの女。
「貴女が、素直にドナーを受け入れたら、全ては起こり得ない事だった。
里穂さんは助かっていただろうし、
私達もそんなに罪を感じず生きた。
____今が幸いなのは、純架の耳にこの事が入っていない事だわ。
ドナー適合者を母に擦り付けてまで、貴女は何がしたかったの?」
「_____穢れた血の癖に」
「…………?」
桜の呟きに、透架は首を傾けた。
「篠宮貴宏が、何者か知っていて言っているの?」
「…………どういう意味?」
「篠宮貴宏は………御影の人間よ。玲伽の兄の御影貴宏。
あんたの親は兄妹、そして恋仲だった………」
透架は目を丸くする。桜は急に弱気になる。
透架は悪寒と戦慄が迸る思いで足許から崩れ去った。
「玲緒は、禁忌の子として御影当主の戸籍に入れたの。
だから透架と純架を身籠ったと知って今度私は泣いて懇願したわ。
私を選んで、また間違えた道に走らないでと。
でも、玲伽は拒絶した。貴宏を手放したくも、捨てられたくもないから……
貴宏といる為には子供が必要なのだと」
_____近親相姦。
「今想えば、どうなるのか分からなかった。
けれども姉を試していたのだと思う。けれども
盲目的な気持ちは、慈悲さえも無視する事を知ったわ」
当時、玲伽は身籠っていた。
里穂を選ぶか、それとも身籠っている子女を選ぶか。
桜はドナーを偽ってまで姉が、どちらの選択をするのか、待っていた。
「冷伽は貴宏に対しては盲目的で、見境いが付かなかった。
貴宏の心を繋ぎ止める為ならば、手段を選ばなかったから。
御影家は当然、混乱したわ。どうするのかと。
でも玲伽は満更でもなくて。きっと貴女達を産んだのも、
玲伽の思惑と計画的だったのじゃないかしら。
そんな御影家も、玲伽には手が付けられない程だったから」
血の気が引いていく。
玲緒も純架も、自身も、兄妹の子供。
玲伽が暴走した末に生まれたのは、娘達。
(純架は、玲伽が、貴宏を繋ぎ止める為に生まれた、だけ?)
きっとそれ以外に意味はない。
玲伽の自己満足でしかない。ならば
この命は里穂の命の犠牲にした上で生まれ、生きているのか。
いよいよ現れた出生の秘密。
ご気分を不快にされた読み手様、大変申し訳御座いません。
その上で、生きてきた透架と純架、玲緒を思うと複雑です。




