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第55狂・ツバキ___固執の先にあるゴンドラの毒

今回の花言葉は裏側の意味です。


【警告】

ナイフの描写有。

(ナイフという言葉のみです)

閲覧にはご注意を払った上で、自己責任でお願いします。




 透架に、死にたくない、という思いはない。

希死念慮に囚われて以来、死を連想した事は何度もあった。

けれども透架には揺るぎ無い責任感が、心を固く包んでいる。


____心臓を、純架に渡さなければ。




 そうしないと、死んでも死に切れない。




 それが、深く傷を負い、

人生を奪われた妹に出来る最大限の贖罪。

だからこそ現在(いま)は、意地でも持ち堪えるしか無いのだ。


 ただ、刃物は首筋に向いている。

迂闊(うかつ)な事を言って、全てを無駄にしてしまったら。

透架は、乾いた喉に生唾を飲み込んだ。




「………身の危険を以って、少しは思い出した?

………香取真帆のままでは居させないわ。御影透架に戻って貰う」


 残酷な微笑みを浮かべながら、桜は優しげに言う。

こんな切迫した状況だと言うのに、


相手が狂気を抱く程に

心は滝行に当たられた如く冷たく冷めていく。

透架は心底、冷静沈着で物事に動じていない。



「………貴女………」

 


 桜の顔色を見た刹那、

脳裏に母親が適合者ドナーであると嘘を付いた事が蘇った。

香取真帆として、記憶喪失の真似事はもうどうでもいいだろう。

こんなつまらないおままごとを続けていても、何の意味も成さない。



「何故………嘘を。

澁谷さんに“本当の事を黙って”母がドナーだと嘘を言ったの………。

貴女がドナーとして居れば、澁谷さんの娘様は生きていた筈よ………」

「_____生意気………」



 歯軋りと共に、ぽつり、と残響した言葉に、背筋が凍り付く。



「私だって、最初から拒絶した訳じゃない。

 お姉様が悪いのよ。私を拒んで貴宏を選んだのだから」

「………………?」



 浮かぶ疑問符。




「お姉様は何度も、本当の事を告げてほしいって。

 だから私は交換条件を私は出した。



 私を選んでお腹の子を諦めてほしいと。



でも、お姉様は拒んだの。

しまいには貴宏を繋ぎ止める為に、娘が必要だって言い出した」

「………………?」



(何故、貴宏が必要なの?)



 何故だが分からない。

玲伽はどういう意味合いで、桜にそれを告げたのか。

貴宏と、いったい何があったのか。


「それはどういう意味合いですか………」

「だからそれを聞いてるのよ!!私からお姉様を奪って

10年を貴女は過ごした筈よ?


母親から何か聞いてる筈でしょう。教えなさい!!」

「…………」



 充血し血走った双眸。

これが狂気の沙汰というものなのか。



(___私は、何も知らない)





 その刹那。

自身の身体が宙に浮かんだ感覚がした。

痛覚はない。だがナイフが当てられたと思い込み、

冷や汗をかく気持ちだった。



 月夜が差し込む病室。

咄嗟に閉ざした双眸を恐る恐る開けると、其処には見慣れた顔触れがある。


何処か切なく、何処か物憂げにな容貌。



_____高梨玲緒だ。



 気道が張り付く程に、喉は渇ききって、話せない。




「その子を渡しなさい!!」





 桜は、玲緒にナイフを此方に突き付ける。

血走るその鬼の形相は、まるで憎悪を実体化している様に思えた。

微動だにしない少年は首を傾げて微笑する。



「渡さないですよ。あの日の繰り返しになる。


………それにそんな挑発的でいいんですか?

貴女が最も欲しいものを、持ってきたのに」

「貴方も良い加減にしなさいよ!! ……横槍入れて何が言いたいの?」

 



「____“貴女が知りたい秘密”を、私は知っている」





 病室に響いた宣告に、桜は固まる。

玲伽の秘密を知っている___と告げた瞬間的に、

桜は呆気に取られてナイフを持っていた手を項垂れる様に落とした。



「………う、嘘よ。だって、貴方は____」

「そう思うだろうけど、実は……悪い意味で

察しのいい貴女なら気付くでしょう」


「どういう意味よ? 当て付けでしょう? 

 御影にいた貴方が知る筈ないもの。


やっぱり、妹の為だけに飛んできた……でしょ?」





 開き直り桜はそう告げた。

その瞬間的、(いぶか)しげ透架は眉根を動かす。





「_____妹?」




 疑問符の浮かぶ透架に、

桜は嘲笑いながら、透架に高らかに告げる。



「………嗚呼。それは知らないものね。

 玲緒の存在はシークレットだもの。



よく聴きなさい。御影透架。

高梨玲緒の本名は、御影玲緒。貴女の年の離れた兄、よ」 



 透架の双眸が見開かれる。




(_____高梨玲緒が、兄?)



 そして交互に玲緒と桜を見詰めながら、驚愕してしまう。




「…………そういう事だ。透架」

「………………」



 その刹那、

玲緒は透架を下ろすと、あろうことか

妹の目許に手を当てて頸元にナイフを向けた。

玲緒の行動に桜は茫然自失としながらも、鼻で笑う。


「無慈悲な事をする事をするのね。貴方。

実の妹に刃を向けるのなんて」

「忘れている様だからもう一度、言いましょう。その為の人質だ。 

貴方が知りたがっている姉の秘密を、俺は知っている」

「じゃあ、教えなさい!!」



 桜は呆気に取られていたが、

思い出したかの様にナイフを握り、玲緒に向ける。

その鬼気迫る桜の表情にも、優雅に微笑し、恍惚な飄々とした声音を向ける。



「良いですよ。ですが、“条件”がある」

「_____条件? いいわ、言ってみなさい」



「“あの日の事”を、教えて下さい。

 20年前、会堂病院から透架が消えた日」


 そう玲緒が告げた刹那、透架は闇の中で驚愕する。

会堂病院は純架が長らくその反省を、過ごした病院だ。




(私が消えた?)


 けれども、自身が消えた日は、

20年前は、あの事件が起こった日だった筈。




 (………どういう事?)



「あの日、揃って姉妹は、会堂病院に搬送された。

一人は危篤状態、もう一人は精神錯乱によって、ね。

けれども、その次の日、片割れが、神隠しの如く消えた。


 あの事件は、世間体を思うが故、御影家が圧力をかけた。

御影家の関係者しか、この子___透架を知らなかった訳です。


部外者はあり得ない」

「どうして、それを私が語らないといけないのよ」

「俺は主治医でした。御影透架の、ね」



 頭が混濁する。竜巻が起こって、耳鳴りが止まらない。

透架の主治医と聞いて桜は唖然としてナイフを落とした。

玲緒は優雅に微笑む。



「……………どうしました? 知りたいのでしょう?

姉の秘密が。聞きたいのなら言わないと。

交換条件を。


あの日、透架を拐ったのは、誰かと………」



 桜は、呆然とした口を震わせて、溜息を付いた。

姉の秘密を知りたいからと暴走したが最後、玲緒に追い詰められている。

この青年はどの角度から襲おうとも太刀打ち出来ない。




 少し首を項垂れさせ、白状する様に言う。



「…………そうよ。私よ。会堂病院から、透架を拐ったのは」

「…………ほう。貴女にしてはいさぎがよい。何故です?」

「純架は危篤状態で、集中治療室にいた。

だから病棟に眠っていた透架を___拐って、御影家に届けたの。



……………そうすれば、お姉様が来てくれると思って……」



 語尾が涙声で滲む。

透架は疲れ切りながらも、怪訝な眼差しを向けた。

沈黙を貫いて透架が、口を開いた。



「………そこまでして……何故、」

「お姉様にどうしても振り向いて欲しかったからよ。

だから娘を奪えば、御影の家に来ると思った。なのに……」



 憔悴仕切って、桜は小声で告げた。__姉は自害したと。



「やっぱりですか。何処かで疑わしいと思っていました。

…………まあ約束ですし、では交換条件は、成立です。

母の秘密を、子女に固執した理由を教えましょう」

「「………」」」



 闇夜の下。

目の前には、いつも見ている顔触れではなく

何処か憔悴したか弱い少女がいる様に見えた。


 

 玲緒は透架から、ナイフを離し、

透架の顔を覆っていた手をその肩に置いた。

真剣ながらも何処か物憂げな眼差しで青年は、



「御影家は、代々、子女が家柄を守り継いできた。

けれども俺では代わり等出来ない。だから母は固執したんです。

父を繋ぎ止める為には、御影家の子女が必要だと」




 (それが、透架(わたし)と純架?)




 (私達が生まれた意味は、玲伽の暴走の思いから?)




 透架は、絶句した。



 


透架に対して、おおまかの秘密を明らかになりました。

どうなるのやら。

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