第53狂・ガマズミ__ゆずれない残酷な条件
【警告】
一部のみ、流血描写有。
あの言葉が、今になって、心に重くのしかかる。
御影透架をスカウトした際に言われた言葉達だ。
「____私には、
心臓移植を必要としている双子の妹がいます。
もう20年程、闘病していますが、ドナーは見つかりません。
厚かましい話であるのはご承知の上ですが
私の妹をそちらの新設成される循環器病センターへ
転院させて下さいませんか。
そして、私を、双子の妹の心臓移植ドナーに固定して下さい。
…………それが、“私の条件です”」
その条件を呑まければ、彼女は断るという。
高飛車という思いと、強い姉妹愛を感じ、感動さえ覚えた。
今の院長は苦い顔をしている。
手元には、御影純架の身辺調査表。
天才的な心臓外科医、と噂に聞いて惚れ込みスカウトした。
ただ彼女が新設する循環器センターに訪れる条件として、
“彼女の双子の妹を転院。
彼女の心臓を、妹に移植する”というもの。
御影透架がいなくなれば、循環器科は優秀な要を失う。
けれどもあの時はプロフェッショナルなチームを、と
思い決断したが、今は、苦い気持ちだ。
”院内学級の教師に師事。
院内学級より進学、現在は大学院生課程を学習中。
専攻は心理学“
(私は、どちらかの、天秤の皿を選ばなければいけないのか)
嗚呼。
薄闇の月夜が、
淡く神秘的な世界観の色彩を作り出す。
ベッドに横たわる人形の様な彼女は、
その憂いた瞳を伏せ、渇いた嘲笑をひとつ。
血がまだ、乾いていない。
翳した腕から伝う紅玉色の鮮血を見詰めた。
身辺警護表:澁谷薫
娘:澁谷里穂
生年月日:19××年 2月17日生
19××年 7月21日没(享年:8歳)
備考:先天性腎機能障害、闘病中に
移植手術の5時間前に死去。死因:多臓器不全。
写真には、愛らしい微笑みを浮かべた少女。
里穂のドナーが表向き玲伽で、桜が裏で糸を引いていた。
これが何よりもの証拠だろう。
問題は___。
里穂がこの世を去った年、
12月、双子の姉妹が生を受けたこと。
桜が言っていた、
唆した悪魔は、
透架と純架の事だったのか。
玲伽は桜の盲愛と薫の感情の狭間に挟まれた末に、双子の娘達を生んだ。
その時の臓器移植を待つ者、と考えて、
やはり宏霧の妹である里穂が思い浮かばせていた。
元々、桜の私情という横槍を入れなければ、
里穂は移植手術を受けていた筈だ。
里穂の適合者は桜。
けれども表向きは玲伽が適合者ドナー。
しかし問題はその当時に、玲伽が妊娠中であったこと。
里穂のドナーは、表向き、玲伽しか該当しない中で、
現実は最悪の結末を招いてしまった。
そして何よりも___。
(だったら、あの人は全てを知った上で、引き取ったの?)
澁谷薫。
娘を見捨てた仇の娘を、わざわざ、里子として。
いつの間にか、モデルの彼女の姿は、消えていた。
何を話したのかすら酒に呑まれている桜は検討が付かなくて
曖昧な眼差しで、頭を傾ける。
眠気が襲う。
顔を机に埋めて、桜はそのまま意識を手放した。
____私は、赦しはしない。
御影の居間には、玲伽がいた。
玲伽は桜の両手を握り、懇願する様な眼差しで訴える。
「桜、お願い。今からでも遅くないわ。
私ではなく、貴女が本当のドナーだと澁谷さんに言って欲しい。
そうすれば、里穂ちゃんは助かる。私だって、こんな殺生をしたくない‥………」
玲伽の懇願に、桜は目を逸らす。
「じゃあ何故、お姉様は、私に殺生をしたの?」
霜の様に冷たい棘の声音。軽蔑する様な瞳。
玲伽は不思議そうに、そして微かに驚きを称えていた双眸する。
桜は怒気を秘めた面持ちで告げた。
「…………どうして、あの男を選んだの?
どうして私を突き放したの? お姉様があの男を選んだ事は、
私にとって殺生に変わり無かった。
私は絶望したの。
玲緒が生まれた事も、
これから生まれるその腹の子も、私には屈辱でしかないわ!!
裏切りの証拠だもの!!」
居間には、桜の怒号が響く。
玲伽の瞳にへ闇色が混ざり、
桜の手からすり抜けてへたり、と床に座り込む。
憔悴する玲伽を視界に入れながら、桜は膝を着くと玲伽に視線を合わせる。
「可哀想なお姉様。薫には責められて、私からも見放されて。
そんなお姉様に条件をあげる」
「………………条件?」
「腹の子を諦めて。私を選んで。
そうしたら私が里穂のドナーとして訂正して名乗り出てあげ………」
「_____嫌よ!!」
玲伽の断末魔が、居間に響き渡る。
桜が目を見開くと共に、次は玲伽が狂気に満ちた微笑みを浮かべて
桜の頬を包むように掴む。
「____嫌よ。絶対に嫌。
桜………私にはやっとの事なの」
「………………え?」
「お腹の子は子女よ。“この時を待ってたの”」
「………どういう事なの………?」
この子達を産まないと、今度こそ、貴宏の心は離れてしまう___。
御影の子女を身籠っている以上、貴宏は私から離れない。
なんとしても、ね…………?」
恍惚な狂気に満ちた双眸に、桜は圧巻された。
いつの間にか背筋が凍り付き、悪寒が迸る。
姉の姿は、まるで、何かに陶酔しているようだった。
はっとする。
それは、酔いすら醒ます威力を持っていた。
気付いて周りを見ると朝の淡いコントラストが、包んでいる。
桜は、鳥肌が立っている事を感じながら、
答えなき問いをかける。
(___お姉様。あの言葉は………。
透架と純架の存在は、何を意味をするの______?)




