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第47狂・タンジー___狂気を誘き寄せる罠



「草摩先生、手術はまだなのですか!!」



草摩智恵が担当する、

患者の家族が懇願する様に訴えていた。


 草摩智恵は出てこない。

そんな中で、智恵に時間を作って欲しい、話があると

と透架はメッセージを送った。


 久しぶりに帰宅した自宅マンションは

ポストには溢れる程の郵便物、殺風景で無機質な部屋だが、

塵と埃が佇んでいるのを見付けては、時の経過を感じる。


(まだ(しぱら)くは、香取真帆でいる必要がある)


窓を開閉して風景を見詰めながら、透架はそう思っていた。





____ただ、それには、必要な事がある。



 自宅マンションに約束の時間に、知恵を呼び寄せた。

対面する様に透架も腰掛ける。

 


「____私の事は、

 今までの記通り憶喪失のままでいさせて欲しいの」



「………………え?」



草摩智恵は、唖然とする。

瞬きを数回繰り返したが、透架は真剣な眼差しのままだ。 


それはつまり、

御影透架ではなく、香取真帆として偽り生きる、ということ。

今までの生活を続けていく、というもの。

 

 勿論、純架とは対面する。双子の妹との再会に

後ろ向きだった彼女に、どんな心境の変化が起きたのだろうか。

透架は視線を落としながら瞳を伏せて、少しばかりか項垂れる。


 

「____智恵。貴女、腱鞘炎が悪化してるでしょう?」

「……………」


 その言葉に、途端に智恵は黙り込んだ。

今だってそうだ。手先にはプロテクターを付けている。

透架は智恵の伏せた眼差しと顔色を伺ってから、


「だから、心臓外科での手術が遅延しているのでしょう?」


 図星を指されて、智恵は何も言えなくなった。

前々から遣い痛みから腱鞘炎と診断を受けて、最近では現場に居られない事も多い。

だからこそ、心療内科医としている多い事も透架は悟っていたのだ。


「____貴女の抱えている、

患者様の担当、手術は私が背負う」

「…………え、でも……」


破天荒な透架の言葉に、智恵の表情に困惑が交じる。

しかし透架は真剣な眼差しのままだ。



「貴女の影武者になる。

 ……………智恵には色々と迷惑をかけているし、

お世話になっているもの」


「でも、貴女が抱えている患者様は? どうするの?」

「自分自身が背負う責任は果たすつもり。

オペの前に貴女と私が入れ替わればいい。


____智恵。

これは取り引きだと思って欲しい。


私は(しばら)く香取真帆でいないといけない。

貴女の影武者として動く代わりに、今まで通りに

私の身分を香取真帆のままで、そうさせて欲しい。

…………お願い致します」


 懇願する様に告げた後に、透架は頭を下げた。


 

 あの時、御影桜と接した時に、ただならぬ脅威を感じた。

純架の身が危うい。それに彼女は御影家の秘密も握っている筈だ。

 

 カメラ越しではなく目の当たりに自分自身も、

桜の体当たりで桜の罵詈雑言に付き合わなければならないのだと感じた。


(純架の為ならば、なんだってする)

 


 実のところ、隆宏が黙秘している影響もあるが、

透架は変わらす幼少期の記憶が曖昧か存在しないままなのだ。


 あの日、何が水面下であったのか。

けれども桜が、純架に辛く当たる所を見て、

御影家の大人達が隠している何かがあるのでは、と感じていた。

何故、純架に桜が辛く当たるのか、知らないと始まらない。


 桜と相対さした時の形相が忘れられない。

あれだけ純架に辛く当たっているのであれば、

双子の片割れである自分自身にも同じ態度だろう。


(知りたくなった。あの日、何があったのか。

 御影家はどう絡んでいるのか)

 

桜が御影透架と気付き、思い込んでいる。

そうならば此方は全てを忘れ喪失した香取真帆として、

相対する方がメリットがある。


(桜が逆上して何かを言うように罠を仕向けるしかない)




 (透架は何故、水面下で躍起になるのだろう)


 智恵は知らず知らずの内にそう思っていた。

けれども尋ねれば逆鱗に触れるようで聞けないままだ。

腱鞘炎の悪化は現実であるし、医療ミスをしかねないと危機感を抱いていた所だった。


 その代わりに智恵の影武者として担当の手術を請け負う形で

御影透架は、香取真帆として今までの通りの生活を送る。

何故、御影透架に戻れないのかという疑問は、

尋ねたくても尋ねられない。


智恵は、透架の真っ直ぐな姿勢を見ていられなくなり告げる。


「解った。解ったから、頭を上げて、透架」

「…………」

「じゃあ、

秘密裏に貴女の事を香取真帆として、扱えばいいのね」

「…………そう。代わりに貴女の責任は、私が果たす。

だから誰にも言わず今まで通りに居させて………」




 パネルの向こう側にいた人物は、だいぶげっそりとして見えた。

 姉妹のどちらかがが訪れると思っていたのだろう。

名前には御影透架、と書いておいてから、

透架ではなく玲緒が現れた事に驚いているようだった。

玲緒は静かに悟りを開いた視線で、パーティション越しの隆宏を見詰める。


「驚きました?」

「何故、君が………」


 隆宏は、驚いて思わず声を発する。

しかし玲緒は平常心のままだ。


「それは此方の台詞です。

「何故、背負う必要のない名もなき毒を背負ったまま、其処にいるんです?」

「…………………」


 隆宏は何も話さなくなった。


「純架が、全ての過去を、僕に話してくれました」

「……………?」

「だいぶ自責を背負っているようでした。

“あの日”ことは勿論、玲伽さんの行動、透架に対しての……」


 「______何故、君がそれを知っている? 純架とは何処で………」

「20年前、あの子達が搬送された時、

あの病院の心療内科の研修医だった事はお忘れですか」


 隆宏は目を見開く。

そうだ。今更、思い出した。____彼が研修医になったと報告してきた事を。


 そして(ようや)く、玲緒の方に視線を向けた。

玲緒は張り詰めた面持ちをしていて、何処か泣きそうな雰囲気だ。


「透架が行方不明になった時、自分自身を責めました。

透架を捜しながらも一人になってしまった純架の事は、見守ろうと思った。

だから………院内学級の教師のふりをして、純架の事を見守ってきました」


 玲緒の一言が針となって、隆宏の心に突き刺さる。


「何故、そこまで…………」

「_____何故ですって?」



 玲緒は、一瞬、嘲笑った。




「透架も、純架も____僕の妹だから」




玲緒の素性かやっと、綴れました。

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