第41狂・アセビ__罪なき身に宿された因果
『第〇〇話』となっておりました。
誤字のまま投稿してしまい大変、申し訳御座いません。
作者である私の落ち度です。
(現在は誤字の修正を済ませております)
薫の言葉を見て、薫がどれくらい透架に対しての激情という名の憎しみを抱いているのかを改めて思い知った。
そして“本当の罪人”を思うと、心が痛む。
“あの日の過ち”は、誰かを不幸にしか出来なかったのだと。
それを知りながら喜んでいた自身も同罪だ。
“あの人”の暴走は、誰かの首を締め続けるものだったという事も。
そして思ったのだ。
薫は“何処かで透架を手放したくなかった”のだと。
御影透架は養女ではなく里子。
誰かの人格を受け継いではいない。
御影透架、それ以外の名前なんて何処にも存在しない。
…………そして、彼女は、薫の感情を揺らす火種には成れても
その娘の代わりにはなれなかった。
火に油を注ぐ存在、そう言うのが相応しい。
御影純架の双子の姉。
そう確信を得たものの、何処か煮え切らないものがある。
御影純架の医術の責任者として彼女は暴走している。
彼女が一瀬循環器病センターの初の心臓移植待機者とはいえ、
純架を周りから遠ざけている様な感覚は決して嘘ではないと思う。
今の彼女達は
まるで姫君を守る騎士の様で美しいけれども、
裏を変えせば女医の毒々しい独占欲の様な、不思議なもの。
けれども最も不思議なのは
(何故、御影純架から遠ざかりたがる?)
医術や人間関係に干渉しても、それ以上は干渉しない。
御影純架の人格には触れない。
寧ろそれは彼女から逃げ、身を隠す様に思えた。
思い入れは強く彼女に寄り付く者に警戒しているという風に想う。
現にその純架を眺める眼差しだけは純真無垢で複雑味を帯びながらも優しいものだった。
「君は玲伽の____だと?」
和室では、留袖を袖に通した男が、そう困惑しながら
呟いている。青年は律儀に正座をしたままで頭を下げて
動かず、ただ固まっている。更に首が項垂れ髪に隠れて表情は見えない。
肝心な言葉は、霧がかかり聞き取れない。
青年は誰なのだ。しかし留め袖の威厳ある、
男性の厳しい面持ちも、青年の姿も忘れられない。
この青年は誰なのだろう?
そしていつも、青年はいつも影を落とした顔をしているのだろう。
幾度とない記憶の波にいつしか浮かんだ疑問を、誰も答えてくれない。
(桜には、悟られない様に行動しなければ)
桜に、御影家に悟られてしまったら一環の終わりだ。
御影家が、桜が、透架に対して酷い仕打ちをするのか分からない。
想い焦がれた双子の姉。愛しき同細胞。
傷だらけの硝子細工に更にヒビを入れる様な真似をしたくない。
だが疑心暗鬼に苛まれる何処かで疑問符が拭えない。
(どうして、透架と私を離れ離れにしたがるのかしら)
殺人者の娘というレッテルは同じ。
恐らく人間が違うだけで、透架も煮え湯を飲まされては、傷付いてきたに違いなかろう。
同じ後ろめたさを背負っているのに、御影家は双子を切り離そうとするのか。
桜は感情的な性質故に私怨の感情からだと分かるのだが、
御影家の本心が読めないままでいる。
まるで、合せてはならぬ、破片の様に。
居場所も教えてくれない。
想像する事でしか透架を思い返せない。
(空想を思い浮かべる虚無感程、哀しいものはない)
純架にとって透架は9才の中で心に留まっている。
無垢な淡い少女は、傷だらけの硝子細工の女として、純架の前に現れた。
まだ自分自身は御影家から離れていたこそ、護られていたのかも知れない。
けれども、透架は………。
桜は爪を噛んだ。
そして疎ましげに、アンニュイな表情を浮かべては
流し目で瞳を動かしもう片方の手で頬杖を着いた。
『貴女は、シンデレラに例えると継母? 義姉達?』
それまで自分自身に怯えて謝ってばかりいた純架が、
知恵が付き反抗する様になった時の問われた言葉が過ぎる。
姉を殺める罪を犯した要因である娘達に対しては
とことんその心の真髄まで傷めつけ、不幸にしてやる。
けれども、娘達が同じ屋根の下で共に居たとしたら、
互いの傷を舐め合う様になる。
(同じ制裁なんて、面白くもなんともないわ)
離れ離れにして、
それぞれがどんな人生を歩み不幸を味わうのか。
だからこそ、別の罪を与えた。
誰もいない孤独の檻に閉じ込めたら、それぞれの不幸の煮え湯を飲まされ溺れ続けると思えば、滑稽で笑いが止まらなかった。
一石二鳥、それぞれの味が楽しめる。
未成年後見人だった頃、一ヶ月に一度の面会の時
透架の腕にあった傷や痣がある事を、桜は気付いていた。
薫は大人しい夫人を装っているけれども、その本性は
激高しやすく、感情に留め金がない喜怒哀楽の激しい性格だ。
薫の感情を逆撫でる事でもしたのだろう。何とも不器用な娘。
(そうよ。心身共に傷んで傷ついたらいいの。………それがお似合いよ)
それを見て見ぬ振りをしていた。
それが身の丈に合っていると相応しいとすら思い嘲笑さえ浮かんだ。
それぞれの孤独な中で生きる不幸な、様を見ていたかった。
それだけだ。
けれど。
(純架を操って、望みを叶えているのは、一体誰なの?)
あれほど姉妹の再会を、阻止をしてきたのに。
その為の監視も続けてきた中で全く見抜けなかった。
必ず水面下で純架を助けている人間が何処かに存在している筈だ。
そして。
(このままじゃ、どんどん遠退いていく)
引き剥がれされる様に、純架が遠くなっていく。
あからさまではなく遠巻きにじわじわと、御影家から、自身から純架は遠退いて行っているのは確実だ。
(…………私の計画を邪魔するなら、誰だって容赦しないわよ)
絶対にこの目で、
あの娘達の破滅を見届けるまでは、この激情は収まらない。
午前2時。
時々、後ろを振り返りながら、進んだ。
こつ、こつ、と闇夜の病室に残響する靴音。
そっと病室のドアを開けると其処には眠り姫が、横たわっている。
“あの日”の記憶が降り注いで、思わず固唾を飲む。
御影透架が意識不明になり、もうすぐ一ヶ月だ。
月夜が物憂げな青年の双眸を映す。
「君を拐った人は、誰だ?」
「___…………」
独り言が闇夜に無慈悲にも、消える。答えのない自問自答。
その無垢な寝顔を見ていると同時に
“あの日”の記憶が心に刺さって申し訳なくなった。
「守ってやれなくて、ごめんな。___透架」




