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第37狂・キングサリ___溢れる欠片、途切れた鎖



 記憶は、人格を作り上げる上での要だ。

伝染するもの全てがこの世のもの全てだと思い込んでしまうのが子供の無垢さ。

そしてその道が「贖罪」という名の正しき道だと信じ込んだ。




自分自身こそ、無慈悲なものはない、と思う。




(純架の事だけを考えて、想えばいいのよ)


心の、もうひとりの自分自身が、そう囁いた。


自分自身に対して、興味を喪ったのはいつからだろう。

誰よりも何よりも大切だった双子の妹が倒れてから、

全てを恨んだ。周りの身勝手な大人達、

そして妹を守れなかった自分自身を。




此処は、狂喜の世界。

そして自分自身も狂気を孕んだ人間。





「内覧をさせて頂きたいのですが」


小さな白亜の箱庭。


取り壊されたと思っていた生家は、残っていた。


【犯罪の住んでいた傷物物件】として

当選だが、地元の不動産屋では有名でどうにも出来ないらしい。


10歳までは此処が居場所だった。

そして凄惨さを生み出した悲劇の場所。

透架は一人、(かつ)て、“篠宮透架”として過ごしていた家に訪れていた。

 

 表向きは売家と貼られていた家の張り紙には不動産屋の

電話番号が書かれていたので、電話をすると

即日内覧出来ると先方から言われた。

ただ担当者は付き添いたくないらしくごゆっくり、と告げた後に、

家の前で待ってますから、とまともな説明もなしに消えた。


 まともに掃除もされていない事は解っていた。

あちこちに蜘蛛の巣、塵や埃の宝庫となっている場所に足を進ませる。


ずっと過ごしていた生家なはず、全く記憶はない。

初めて訪れた感覚に襲われながら、リビングルームは

後にして2階に上がった。


階段が軋む。




訪れた子供部屋には埃被ったままの、

家具もそのままで、おもちゃや絵本、スケッチブック。

ランドセルが淋しそうに置き去りにされている。



(懐かしさすらない)


大好きな妹と、過ごした場所。

その情景すらも、妹の姿さえも脳裏に浮かんでこない。

それを思うと自分自身を殴りたくなってしまう。


手袋をはめた手で、それらに触れる。

現実味も親近感すらも心には浮上せず、

当時のものを丁重に保存された博物館、という感覚だった。




(この場所ほどに

無意味なものはどこにもありはしない、と思っていた筈なのに)


 他人事のようで、辿れば辿る程に、心は冷たくなる。

幾度、この場所で呼吸を繰り返した筈なのに、身近に感じる事はない。

取り留めていた記憶の粒子さえも、この景色を見詰めていたら

離れ離れになっていく感覚かして何処か不気味だ。

だが、


(どうして、こんなにも、)


記憶がないのだろう。思い出せないのだろう。

客観的で他人事の様に思えてしまうのだろう。

この場所にいれば心が凍り付いて、喪失した記憶の欠片も無くしてしまいそうだ。

 


売家とは名だけで、長年放置された廃墟。

この家で何かが起きていたのかは、誰もが知っているだろう。

記憶が無いからこそ、恐怖心さえも心に浮かばないのか。


 何の手掛かりも掴めないまま帰省し、

透架は、センターに戻ろうとした。ゆっくりと思考を巡らせる。



純架は、

いったい何を知っていて、抱えているのだろう。

そして自分自身は記憶喪失で、記憶が欠落したままなのだろう。



(____そしてメールの主は何が目的なのだろう?)



 

 ビルを通ろうとした時、女性の悲鳴が轟いた。

そして男性の逃げろ、という怒声が鼓膜を残響する。

透架が不意に見上げた時、烏色のセーラー服姿の少女が見えた。








「母親殺しの娘は、もう一人いるのに、

私だけこんなに罵声を浴びせられないと行けないのか」



この世でもっとも、愛しき、哀傷を共有する同細胞。


姿が現れないから、現状を知らないから、

桜の罵詈雑言を浴びせられる度に

心の片隅でそう思っていた。


姉はどうしている?

御影透架、篠宮透架だった事すらも忘れて、本来の器を他人の過ごしているのか。


双子の妹を、

忘れているのなら、とてもそれは憎たらしい。




「草摩先生。循環器科の御影先生が、」


血相を変えて、智恵の元に新人看護師が来た。



「状況は!?」

「ビルから身を投げた女子中学生、

御影先生はちょうどビルの下にいて巻き込まれたと………」



女子高生のすれ違う様に被害に遭ったという。

透架も重体であり、一刻を争う状態だ。


「サチュレーションは?」

「低下していて、定かでは答えられません」

「不味いわ。出血量が酷い。直ちに輸血を」

「でも………草摩先生、御影先生は珍しい血型ですよね」


それを聞いて、途端に智恵は青褪めた。

そうだ。透架は珍しい血液型である事を。安易に輸血が出来ない。


「血圧低下、サチュレーション下がっています。予断は出来ません」



(もうひとり、いれば)


と、

思った刹那的に、智恵はある人物が脳裏に浮かんだ。

一卵性双生児。もう一人の実体。


すぐに御影純架のカルテをパソコンで差し出す。

血液型は、同じだった。


しかし彼女は患者だ。

彼女からの採血を担当医に輸血なんて認められない。

それに二人が一卵性双生児だと知っている者は、一人もいない。



智恵は項垂れる。

しかし、軽やかに訪れた白衣の裾に目を遣る。



「おや、珍しい血液型ですね」



「奇遇ですね。僕も、一緒なんですよ」



彼は、微笑んだ。





 純架は解っている。

透架と自分自身を繋ぐものの、実態を。

生まれ持った血液型はとても繊細な数少ないもので、

それが姉と自身を繋ぐ証拠だとも。





(血縁の鎖、ね)


母親殺しの娘は、もう一人いるのに、

私だけこんなに罵声を浴びせられないと行けないのか。


この世でもっとも、愛しき、哀傷を共有する同細胞。


姿が現れないから、現状を知らないから、

桜の罵詈雑言を浴びせられる度に

心の片隅でそう思っていた。


姉はどうしている?

御影透架、篠宮透架だった事すらも忘れて、本来の器を他人の過ごしているのか。


双子の妹を、

忘れているのなら、とてもそれは憎たらしい。


その度に姉を恋しく思い、御影を恨み続けていく事で生きている。

特にあの、桜という女には。



「惑いなさい、桜。

透架を連れてこないというのなら、

貴女のその、哀傷の傷を抉り続けてあげる」


 純架は嘲笑った。

そんな中で扉の向こう側が、慌ただしい足音に純架は気付く。

そんな中でドアの開閉音が聞こえて、草摩智恵が、入ってきた。






「検温に来ました。採血後の経過はいかがですか?」


 智恵の表情が、どことなく緊迫感を残している。

いつもの笑顔そのままなのに、何処か余裕が無さげだ。


「何かあったのですか、騒がしくありません?」

「え、」


智恵は、迷った。

御影透架が危篤、と言えば彼女は正気を失う。

はぐらそうとしても、彼女は非常に洞察力に優れていて、

人の感情を先読みする人だ、と智恵は気付いていた。


「あ、ちょっとね」

「………」


はぐらかそうとする智恵を横目に、純架は呟いた。


「珍しい血液型の方が、運ばれたとか」

「…………え」


 

智恵は固まっている。


「その人って、_______の血液型ですか」


 純架は解っている。

透架と自分自身を繋ぐものの、実態を。

生まれ持った血液型はとても繊細な数少ないもので、それが姉と自身を繋ぐ“証拠”だとも。


この血型を持っている人は少ないから、

血液型で、姉を辿れるならば、と10年間、密かに思い続けてきた。


 智恵は動かない。何も言わない。

それが証拠だと言わんばかりに、瞳を伏せて、純架は告げた。

珍しい血液型、それが一致するものだと思うと、私情が交差し

思いばかりが溢れてしまうのだ。


もしかしたら、

その者が、双子の姉、透架ではないのかと。



(些細な事でも、手掛かりがあるとしたら、見逃したくない)


「…………草摩先生。私も、その血液型なんです。

もし可能であれば、その方が居られる病室に連れて行って下さいませんか」

 

 



編集ミスを繰り返してしまい、

読者の皆様の皆様を混乱させて形となり、誠に申し訳御座いません。

真摯に向き合いながら作者としての努めを果たしたいと思っております。

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