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第34狂・コルチカム__たとえ残酷な選択だとしても



 

 それは、私情なのか、医師としての使命感なのか。





「あら、一瀬先生」


 医局に入室すると、ちょうど

理事長の息子に罰を与えた女医は、澄ました面持ちで此方の方向に出ていくところだった。



御影透架が分からない。

今までは、医師生命に生きる人間と伺えても、

御影純架が現れてから、彼女はどことなく違った雰囲気が変わっていて変化を遂げた。


全ては対等で平等。

有無も云わない実力派の完璧主義。


(けれども、それを御影純架に対しては、どうだろう?)


主治医を変える様に、彼女に差し迫った時、

まるで待っていましたと言わんばかりに軍人の如くに現れた。………何故、彼女は居たのか。

あの時、口頭で咎めるという行動ではなく、

力技で彼女は注意して、その手は此方に殺意を抱いている様にも見えた。






「君は、妹に対して異常過ぎる」

「………?」


透架は、静かに首を傾ける。

その面持ちはどことなく薄幸なその面持ちの中で

何処か殺気を孕んでいる気がして聡太は思わず息を飲んだ。


「私に妹など、おりませんが」


身辺調査表を見せたとはいえ、

御影透架は、御影純架との関係に対して認めた事はない。

けれども御影純架が妹だと前提として彼女に対する保護は何処か過剰だと思ってしまう。


「御影さんは、心臓移植を待つ患者様。

我が当院では初の移植者_レシピエントと成られるでしょう。

移植が成立するその日まで、厳重に保護するのは当たり前ではないですか?」

「___…………」


医師生命、患者の保護の責任は適切だ。彼女は淡々と告げる。



「___異常なくらいが、いいのです」



確すれ違いざまに、確かに、彼女はそう告げた。





(御影桜は、何故、頻繁に現れるのかしら)


 両親をなくした姉妹の未成年後見人だった事は分かる。

透架が介入するまで御影が全ての責任を担わっていたと思う。


しかし

今はあらから様に純架は拒絶反応を示しているし、罵詈雑言の試合でまるで水と油のようだ。

100歩譲って御影家からの命令で訪れているなら、と思うが、

監視カメラで観ている限り、そうでもなく桜の独断で来ている様な気がする。



桜に対する、警戒心が鳴り止まない。


(最も、貴女達には、介入されたくない)


純架に対する贖罪が、終わるまでは。

透架から言わせれば、皆、邪魔者でしかない。

 

『姿も現さずに、中途半端に傍にいるからよ』


心の中で、無感情な自身が、嘲笑うかの様に囁いた。

そうだ。未完成のまま彼女に関わっているから、純架が傷付くのだ。

聡太にも、桜にも。


肘を付いて組わせた指先は、雪の如く、冷たい。

淡く物憂げに開いた瞳には、手首に浮かび上がる無数の傷痕が見えた。

散々自分自身を責めては、心の毒素を血の代わりに流した傷口。

体調が悪い時に限って傷痕が強く存在感を示すのは何故だろう?



(私は、本当に純架を守りたいの?)


不意にそう思ってしまった。

贖罪を抱いた末の使命感だけが、透架の心を突き動かしているとしたら。


 だとしたらそれは結局、自己満足で罪滅ぼしでしかない。

双子の妹を、守り思い遣るふりをした何処までも残酷な双子の姉___。


 透架は、首を横に振った。

自己満足じゃない。これは、彼女への贖罪、彼女への恩返し。


(違う、違う……)


 この術しかないと、そう思い、双子の妹を思う事だけにしていた。

これが正しいのだと。この方法しかないのだと、不器用な自分自身は思えないままレールを歩いてきた。


(惑わされたら、終わりよ、透架………)


 透架はそんな自分自身にそう言い聞かせながら

同時に憎悪を抱きながら、嘲笑うかの様に手を解く。

闇夜の隠れ部屋には壊れた彼女の乾いた微笑みながら、倒れ込んだ。

頬を伝う涙を殺して。


「純架には申し訳ないけれども、私は後ろを振り向く事も後悔もないわ。過去の鎖なら要らない。私に今、必要なのは

純架を救う術だけよ」


 あはは、と乾いた嘲笑いは、彼女の嘆きの断末魔の如く弱く残響する。


(もう後戻りは出来ないのだから)







 穏やかなジャズが流れるbarでは、バーテンダーが静かにシェイカーを降っている。

硝子越しに手元のグラスの中で、氷が踊る。

玲緒は黄昏れる様に項垂れる様に片手で顔を付いて、

もう片方の手で、テーブルに置いた色褪せた写真を引き寄せた。

 


_____透架と、純架は、今年、10歳になります。

早く、貴方に会わせたいです。____ 篠宮玲伽。



 丁寧に保存してきたけれども、時代共に色褪せ、

端がところどころが端が切れているポロライドの写真。

其処には写真の中には、あどけない少女達がいる。


どちらがどちらなのか、見分けが付かない。

烏色の髪と瞳を持った彼女達はお揃いの髪型に同じワンピースを着て

寄り添う様に微笑みを浮かべている。

それは決して悲哀ではなく、慈愛に満ちた暖かな陽のように。



一瞬も忘れた事はない。

大切だからこそ、本当は身近に居て守りたかった。



(_____遅くなったけど、貴女のお望み通りになったでしょう?)

 


自分自身は、この少女だったふたりの傍にいる。



 

「_____玲緒」


目を閉じて、闇の中で項垂れた。

悲しみに満ちた恩納の断末魔を轟かせる女、呻きながら項垂れた男。

………そして、血の海に事切れ倒れ伏せた双子の姉妹を。



あの日に聞いた、彼女の断末魔の光景は今でも忘れない。



貴女は、知らないだろう。

妹、は貴女を恨み、姉は全てを忘れて、


自らを、蟻地獄に身を浸している事を。





2021.11.11




第〇〇話となっておりました。

この物語の表記は、第〇〇狂です。

ミステイクに気付かぬまま投稿してしまう形となり、申し訳御座いません。

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