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第32狂・ザクロ__誰も知らぬ成年後見人



「自分自身が

望まれない客だって事は承知なのでしょう?」


純架の表情が険しくなった。

桜も負けていない。



「私にはね、来てもいい権利があるの。

たとえ貴女が嫌と言ってもね?」

「…………それは、どんな権利なの?」

「あんたは知らなくていいわ」


 

 


 最近になって、純架の事で異変が起こっている。



 それは純架の入院先が突然、変わってしまったこと。

突然、見知らぬ誰かから純架の入院費用が振り込まれていた。




 そんな心当たりのない事ばかりだ。



 未成年後見人の引き継ぎの様な扱いで、

御影純架に関する事は全て桜が担っていた。


 御影家からは

もう関わらなくていいと言われたが、

そうなれば彼女達との接点は消えてしまう。



 あの日から未成年後見人だったという立場を使い、

純架の所へに出向き、毒素を吐き出す日々。


 先日、伝えられた成年後見人の存在。

成年後見人の許可、個人情報の保護、と言うばかりで

何も教えてくれないのだ。


(これじゃあ、私の思い通りにならないじゃない)



 未成年後見人の努めが終わっても、

この憎悪という鬱憤という私情を

をぶつける相手がいないと生きていけない。


 その鬱憤を晴らす相手はあの姉妹が丁度良い。

否、あの姉妹しかいない、というべきか。



(____そもそもの元凶は、あの女達なのだから)




  あの双子さえいなければ、

姉は___御影玲伽は自害を選ばなかった。

 

そう思うと憎悪が止まらない。




____御影家、桜の自室。  





 畳の上には、散らばる空き缶や空き瓶。

寧ろ、それらが床を埋め尽くしていると言わんばからりか。

玲緒は半分呆れながら桜の姿を見ている。





「飲み過ぎではないですか? 似付かわしいです」



 不意に聴こえてきた声に、その双眸が鋭くなった。

テーブルの向こう側には玲緒が流れる様にそっと座っている。


「ねえ、一つ答えて」

「何を?」


 どことなく影を落とした、

穏和な微笑みを称えて、玲緒は首を傾げる。


「純架の成年後見人が、誰なのか知ってる?」

「“御影純架の、成年後見人”ですか」


 御影透架・純架姉妹の未成年後見人が、

御影桜が担わっていた事は知っている。


 その立場を未だに利用して、純架に近づいている事も。

自分自身の劣情を晴らして、純架を嘲笑い続けている。

それはずっと続くのであろう。


____けれども

御影純架の成年後見人、という話は初耳だった。



(どういう事だ?)



 御影家の人間に全ての人間に対して聞いたものの、

誰も首を傾けるばかりで該当者はいないのだという。

玲緒が考え込む素振りを見せていると、

目の据わった桜が痺れを切らした。


「まさか、あんたなの?」

「言いがかりは止めて下さい。

僕もその事に関しては今、貴女から聞きました。

言っておきますが僕ではないですよ」


 余裕感を残しながらも、冷静沈着な態度を崩さず桜を見た。

桜は、あの双子の姉妹の事には理性を喪う程に、感情的になる。


 醜態の感情を余すことなく曝け出して、

この世の悪はあのふたりと思い込んで止まないのだ。


「そろそろ親離れしません? それでいいのではないです?

ようやく長年の努めの、肩の荷が下りたと思えませんか」

「それだけは絶対に嫌よ」

「何故です? 貴女にとって不都合な事でもないでしょう?」


「それは………」


 躊躇いの言葉が、声音に交じる。

そんな桜の姿が子離れ出来ない毒親の様に見えた。



「それとも____

自分自身の感情の()け口が無くなるから?」



 その言葉にゾッとして、桜は玲緒を睨み据えた。

玲緒は余裕な微笑みを深め浮かべると、静かに頬杖を付く。


 理性を無くしかけている人間に対して

誘発する様に告げる癖は、自分自身でも

人間性が悪いと自覚している。


 ただこうでもしないと

この御影家の人間の心理の帳の本性は曝け出せない。



「最初から知っていましたよ。誰もが疎ましく思っていた、

双子の姉妹の未成年後見人の役割を進んで担わった理由は」

「………それが、どうしたのよ?」

「無垢な少女達に、自身の私的な感情を晴らす為、でしょう?

未成年後見人という立場になれば

あの腫れ物扱いの少女達に近付きやすいから」


「知ったような口を聞かないで!!」


 桜は乗り出して、そう声を荒らげた。

顔を赤くし、声を荒げる反論するのは弱い心音、

相手を威嚇する為。


相手に負けない様に、という心理だ。



 玲緒は疲れ果てた様な、

悟りを開いた様な、眼差しで少し顔を項垂れた素振りを見せた。

項垂れた前髪のせいで表情は見えない。


(高梨玲緒………貴方は、一体何者なの?)


いきなり御影家に現れ、

御影家の大人達から気遣われてきた存在。

その素性が何者なのか、桜には検討が付かない。

彼は何を知っている?




「__純架は貴女に似ました」



「……え?」

「子供は元々持っている気質や性格に加えて

一番身近にいる大人の性格や人格が、伝染する。

純架の人格形成に影響を与えたのは、純架を見てきたのは言わずもがな貴女でしょう?


理屈っぽくて、頑固で執念深い。

誰かを一途に思い陶酔している所も……ね。



「ただ一つ違うのは

貴女は理性の欠片もない感情的で、純架は理性的に動く。

その理性は何処か巧みだ。

感情も吐き出すのも、その言葉達も計画的。

思い付きで感情を撒き散らす貴女と違って」


 透架は形だけ澁谷家にいたけれども、薫の気性の荒さを

反面教師としたのかは分からない。けれども、純架は

何処か桜の性格を匂わせる場面がある。


 最近、桜の顔色には疲れが見えている。

その要因は分かっている。


「あの子ももう大人ですよ。子供じゃない。

その気性の荒い迫力では、もう純架は騙されはしないだろう」


途端に桜は、口を(つぐ)んでいる。

そんな桜を玲緒へ嘲笑った。

 

「何よ?」

「いや、浅はかさだな、と思ってしまっただけで。



 貴女はつくづく飽きっぽい。そして疲れた。

同等の気質を持つ者と戦うのは根気がいる。

最近は手を焼いているようですから。


 透架を血眼になって捜している理由は、

表向きは御影家に尽くしているふりをしながら、本当は


_____今度は純架ではなく、

透架に八つ当たりする為、ではないですか?」

 


 玲緒の言葉は、桜の心に図星をさしている。

なんだか心を、思惑を見透かされているようで、

段々と頭に血が昇る。 



 透架を捜さなければならないというのは、

純架が何も語ってくれなくなりそうだから。

毒素を吐く玩具(おもちゃ)が、無言になれては困る。

 


「自分自身で追い出しておいて、都合が悪くなれば

連れ戻す、貴女は何処までも自分勝手で自己中心的だ」


 優雅なソプラノが謳うように、玲緒は話続ける。

感情の機微も、野心も見えやしない。


「さっきから憶測で物事を話すのは止めて!!

だいだい何処にそんな根拠が……どうして、

そんな純架や、透架を知っている様な口ぶりをするの……………」

「では、何故貴女はそんなに躍起になって否定するのです?」




 誰も玲緒が心療内科医である事は知らない。

心理学にも長けている彼にとって心理戦のオセロでは圧倒的だ。

相手の表の白い素振りを、裏の黒の本性に変えてしまうのは。




「でも、少しばかりは、私に同情するべきよ」

「…………何に対して?」


「あの双子の姉妹が、玲伽様を死に追いやったのよ?

父親と同じ罪深い女達。御影家は誰だって

あの元凶を疎ましく思っている筈よ!! 

私の言葉なんてかわいいものだわ。


私は、御影家の人達の思いを代弁しているの」


呆れた。


(自分自身を肯定して、正当化してる)


それが、まるでそれが正義と言わんばかりに。



「現に純架は、母親に対しては何も反論しないもの」



「…………最低ですね」




(知らないだろうに。純架が、貴女に対して、どう思っているのか)




 思っていた事をそのまま、口に出た。

お酒が入って饒舌になっているとはいえ。


(恐らく貴女は、透架に潰されてしまうのだろうな)


 もしも、桜が、今の、透架に出逢ったのなら。



 桜は、忘れている。

透架を見付け出せば、自らが自滅するという事を。

そんな生き地獄のような自殺行為を知らない。



 だが、聞き捨てならない物事は気になる。

桜でも御影家の人間でもない、御影純架の成年後見人__。

純架は知らないようだ。けれども純架や、御影家の人間も

知らない誰かが彼女をを見守っているのか。


 桜が焦りと危惧をを覚えた理由は、透架の身が消息不明の今。

見知らぬ成年後見人によって、

純架がいつか消息不明になりそうな事、

御影家の手から離れてしまう事を。


純架の成年後見人。



(それは何者だ?)


例え、物理的に純架の傍に居なくても、純架を守る者。







『透架か、純架、どちらかを差し出せば、見逃してくれますか』

『______いっそうの事、この平穏な幸せが崩れ去るなら、』



 はっと、瞳を開けた。

消灯後なので部屋は真っ暗だが、

その闇が、憂鬱な気分の沼に沈んでいく。


(嗚呼、“まただ”)


 この夢を見る時、大体が悪寒を抱く。

そして思うのだ。桜の物言いはもう理想郷でしかない事を。

御影家での彼女はどうだったか、知らないけれども、

娘から彼女は悲哀と悲壮感を佇ませた母親(ひと)だった。



「桜。

貴女が思っているお母様は、消えたのに。

まだ想っているなんて哀れね」




 

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