表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/69

第28話・赤いユリ___喪った糸、手繰る術

長らくお待たせ致しました。

透架の本気


【警告】

一部、流血描写有。

苦手な方はブラウザバック推奨致します。




 黒い影。

それが誰なのか、目を、凝らしても分からない。

けれど_______。


その黒い影に抱き抱えられている人物。

同じ容貌、同じ容姿。柔和な面持ちを浮かべた彼女を忘れる筈がない。


 「純架………」


呟くと、影は此方を振り向いた。

口許に微笑を浮かべたまま、表情は伺えない。

その影の正体が誰なのかも闇に隠されて分からない。


「大切な妹は、私が頂こう」

「君は天涯孤独だ」


 知らない声。

透架は必死にその腕を伸ばしたが、

腕は嘘みたいに鉛の様に重苦しい。

純架が、黒い影が、だんだんと遠退いて、霧がかかり始めた。

何よりも、誰よりも、大切な双子の妹。

 

(純架を連れていかないで)


はっと、瞳を開いた。

月夜の薄明かりがカーテンの隙間から、溢れている。


 (あれは、予知夢?)


 仰向けになり、その瞳を伏せた後に腕を伸ばしてみる。

天に向けて伸ばした刹那に袖が落ちて、

薄明かりに照らされた白い華奢な腕には、

縦横無尽にリストカットの傷痕が薄く白く残っている。


(…………これは、正夢になるの?)


 “純架が膝小僧に擦過傷を負って帰ってくる”

 “薫が機嫌を損ねて硝子を割ってしまう”


 “___父親が狂気の沙汰を持ち出す”


 あの日もそうだった。

物騒な夢を見てはそうではないと信じたくとも、

普段優しさの塊の父親はピリピリとしていて、今にも狂気満ちていたか。




 小さい頃から、予知夢を見てはそれが正夢になる。

脳がそういう体質なのか否かは分からないけれども。

透架の腕は小刻みに震えていた。

 



 酷い有様だった。

 伸び切って枯れ果てた雑草が縦横無尽に、伸び放題で

かなり白が穢れた洋館は蔦が、秘密を守る様に館を包んでいる。

一見すれば、廃墟と見間違えても、仕方がない気がする。


 澁谷家の表札の下にあるインターホンを、押した。

はい、と酒枯れた声音が、弱々しく応答する。

彼女は微笑みながら、御影桜、と名乗った。


「散らかっていますけど、どうぞお座り下さい」

「はい」


手入れのされていない髪は、

腰まで伸び切ったソバージュの様に縮れ広がっている。

床には散乱したドレス風のワンピース、

ソファーには染み込んだワインのシミ。


 桜の解釈では澁谷薫は誰よりも自分自身を着飾る女。

そうだと思っていた。けれども近年は急に老け込み

爛れた女と化していてその出で立ちは幽霊のようだ。


「何度来られても同じ回答しか出来ませんよ。

トーカの件でまた来たのですか?」

「ええ」


桜は微笑みながら、告げた。

澁谷家へ追放した透架の存在が

澁谷家から忽然と行方不明になったのは

6年前、彼女が24歳になる歳だ。


御影家は混乱の渦に飲み込まれ、

それは桜も例外ではなかった。

あれから澁谷家から突然、神隠しにあった様に、透架は消えて音沙汰は途絶えている。


「透架の行方の心当たりはありませんか」

「何度聞かれても困りますわ。朝に忽然と消えていましたから」


 桜は何度も足繁く澁谷家邸に通うのは、透架の行方を掴む為。

けれども薫は心当たりがないという。



(透架をぞんざいに扱っていたなんて、言えない)


御影家の子女だから、

大切に育てる様にと何度も釘をさされていた。

けれども実際は透架に罵詈雑言を浴びせ、ぞんざいに扱ってきた。


 一番はあの“忌まわしき記憶の()け口として”、

御影家から透架の為にと渡される養育費欲しさに。

医師免許の国家資格取得に不合格だったからと、

最終的には罵詈雑言を浴びせた末に追い出したなんて言えない。

 


(あの娘達は、何処に行ってしまったのよ)


 澁谷邸を後にした後で、桜は下唇を噛んだ。

透架が行方不明になった事を興信所や探偵事務所が、根を上げる程に分からない。

だが警察機関等に捜索願を出す事は、

御影家に泥を塗る行為としてストップがかかっている為、

自力で探すしか術はないのだ。


先日、純架が会堂大学病院から消えた事も凍り付いた。

気になるのは、あの言葉。


『御影純架さんには、成年後見人がいらっしゃいます』


成年後見人なんては話は聞いた事がない。

透架と純架の未成年者の後見人だったのは桜だ。

誰からも棄てられた子。その面倒を見ているというのは自身

以外に誰がいるというのだ? 御影の人間に聞いても

誰もが初耳だという。


循環器科のある病院を伝い、やっと純架は

見つけ出したのだが、成年後見人のせいで上手くいかない。



 そんな事を悶々と考えている刹那。

背中越しから、声が聞こえた。

振り向くと長身痩躯の青年が腕を組みながら、桜を見詰めている。

いったい、いつからそこに居たのか。


「自分自身が、あの家から追い出した割に、消息は気になるんですね」

「それは………」


余裕綽々の玲緒とは違い、

桜は途端に歯切れが悪くなり、視線を反らし顔を俯かせる。

玲緒は刹那げな微笑みを浮かべながら、

 

「もしかして、

あの日、透架を拐ったのは貴女ですか?」

「違うわ。私は無実よ。いい加減な事を言わないで」


声を荒らげ桜の怒りを露にした表情に、玲緒は圧巻されたふりをした。

澁谷家は何も教えてくれない。

後見人として選ばれたのにその娘達が行方不明となると御影家への自身の面子(メンツ)が丸潰れだ。


(流石、母親殺しの娘なだけあるわ。人の心を揺さぶるのは得意義ね)

(私が、私を守るには、早く透架を見付け出さないと)


「自分自身の身が1番かわいいんですね。貴女」

「………何よ。誰だって自分自身が一番かわいいわ。

だから人間は自分自身の為に躍起にも欲望的にもなれるのよ?」


呆れた様に告げる桜。

しかし玲緒は何処かで、桜の表情に安堵感がある、

そんな事はとっくの果てに気付いていた。


「もしかして偽善__パフォーマンスですか?

自分自身は健気に後見人だった女の子の行方を捜していると?」

「…………え」

「その割には何処かで安堵感を抱いていません?

そして思っているのではないですか?

…………透架が、見付からなければいいと」

「そんな事は………」






「透架が現れれば、貴女は間違えなく自滅する。

それに危惧しているのは___本心でしょ?」


(なんて、戯言のような、夢を見ていたのだろう)


痛み、という感情はなくなった。

ただホロスコープの様に、見詰めている様な未知な感覚。


テーブルには、深紅色に染まった刃先。

ぽたり、ぽたりと滴り落ちた先に血だまりを成している。


 そんな中、心臓カテーテル術の音声CDを

ヘッドフォンで聴いている自分自身は、

酷く自身に対しては何処までもDV体質で何処か傍観的だと思う。



 くるくると、その細腕に純白の包帯を巻き付ける。

消毒や薬の処置を施した筈なのに、それでも鮮血は止めどなく白を深紅に染めていく。


(遺伝子は伝染する)


虚空を映した瞳で傷痕を見、

ふっと渇いた嘲笑を浮かべて、テープを止めた。


まるで不吉な毒素を吐き出すかの様に続けた自傷行為。

自傷癖は未だに消えなくて、傷痕や傷口に塩を塗るように繰り返している。


 そういう不吉な夢を見た自身が、赦せなくて

そう思うと事を肯定しようとした事も腹が立った。

一人の空間で一度自分自身に対して憎悪を抱くと、理性も正気を失ってしまう。


(純架が、誰かに拐われるなんて、ね)


 ある筈がない。有り得ない。

双子の妹にはもう、誰も手出し出来ないのに。

純架に対して誰も近付かず手出し出来ない術を、出来る事だけは自ら下した。


透架は手術用の縫合セットで何度も練習を施しながら

透架の目の前に置いているタブレット端末ある盗聴器と監視カメラ映像からは、

至って普段通りの純架が反映され、その声音も穏やかだ。


 今日は非番だ。

手術練習用縫合キットで、縫合の練習しながら、

ずっとどんな術で手を打てばいいのか、悶々としている。

 

(………私が、純架を守らなければ)


もう誰も要らない。

誰も信じない。____皆、毒素なのだから。


 ただ知りたいのは篠宮貴宏の行方。

しかし篠宮貴宏の行方を知ろうとしても、無理だ。

透架は門前払いされてしまう。


御影家は、

透架と純架の生い立ちや経歴を塗り替えた。

研修医になった年齢で戸籍謄本を取りに行った事がある。


 御影 玲伽【続柄:第一子】

 

 御影 透架【続柄:第二子】

 御影 純架【続柄:第三子】

 

御影姓になった現在 

純架と共に歳の離れた母親の妹としての御影の戸籍の欄に入れられていた。

母娘という関係も否定された先に

居ない筈の玲伽の妹として扱われているのだと。

 

御影家がいる限り、加害者家族としては扱われない。

手術練習用縫合キットで、縫合の練習しながら、

悶々と出口のない扉を考えている。


(篠宮姓だった頃の私達は居ない事にされた)


 けれども、最も忘れては行けない事がある。


(私は加害者家族であり、被害者家族………)


双子の妹は被害者であり、父親は加害者。

誰も知らない代わりに決して置き去りには出来ない大事な事柄を事実に

透架は被害者の双子の妹と罪を犯した父親の板挟みにされている。


篠宮貴宏の動向を知りたくても知り得ない。

もしあれが正夢になってしまったら、という

不安に駆られる中でずっと自問自答し続けている。





 


【自傷行為について】

あくまでも

物語構成上、登場人物像として表しております。

自傷行為に対して決して助長する意図は全く

御座いませんので、ご理解頂けますと幸いです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ