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第27狂・ハナマス__報われないユリの怒り、マリオットの審判




 ここまで噛み合わなくなった歯車が

すれ違いながらも、もし互いを思い合う姉妹の感情が

壊れてしまったのならば現実はどうなっていくのだろうか?


「あなたは

私が御影純架さんの双子の姉、と言っていましたよね。

_____私、“御影純架さん”という方とは

お名前をお聞きした時から初耳で、赤の他人なのですが」


『それに“世の中には3人、

顔の似た人がいる”という噂と言い伝えがあるでしょう。

恐らく他人の空似に遇われたのかと。

きっとその類いです』


(あの家は、透架の存在を何処に隠したんだ?)


 玲緒は頭を抱えた。


透架は

『心臓にしか興味のないマリオネット』ではなかった。

ただ『双子の妹にしか興味を寄せないマリオネット』なのだ。


きっと純架に関連する事以外は、興味の欠片もない。

感情を罪滅ぼしを望む彼女は、純架の為だけに生きるのだろうか。

 

双子の妹を思う気持ちは酷い程に純粋で

実直で嘘偽りはないのだが、その中身は酷く滑稽だ。


『____まず、透架に再会したいの。

私が命が尽きる前に、私は透架に伝えなければならない事があるから。

それは、“私にしか出来ない事よ”』


純架が、自身の命のリミットに焦燥を感じながらも

透架に伝えなければならない事は一体、何なのだ?






「捜しましたわ。急に居なくなるのですもの。

全くどこまで迷惑をかけたら、済むのかしら。

「捜して欲しいなんて、私は一ミリも望んでいません」


 凍り付いた花の様に、告げる声音には棘がある。

透架でもなく、玲緒でもない訪問者には用はない。

  

「まあいいわ。

転院してから、貴女の病状は平行線は、お聞きしました」

「…………平行線であっても、これ以上、もう好転しないでしょう」




ドナーは現れない。

序列は知らないが、きっと自分自身のこの身体は長く持たないだろう。

諦観の眼差しと物憂げな顔付きで、

純架は窓を見詰めたままそう告げた。


御影(みかげ) (さくら)

御影家から選抜された、透架と純架の後見人だ。

美魔女と言われる容貌を隠す様な黒縁眼鏡に

スーツはキャリアウーマンの様な威厳を想わせる連想させる。

たまに訪れる御影桜は、純架にとって小姑同然だ。


あの日から始まった付き合いと、

その粘着質のある執念深い言葉の数々は聞き飽きた。


 桜は経過換算と評して

たまに様子を見に来ては、母親殺し娘という名の恨み節を告げる。

最初は____子供の頃は、

素直に傷付いて謝り続けていたけれども、それも疲れた。


桜はサイコパス的な要素を持ち合わせている。

純架が泣きながら謝罪する度に、

恍惚に満ちた面持ちを浮かべ、その度に悪寒が走った。


(嗚呼、なんだ結局は、私をいたぶり続けたいのね)


桜の本性を知ってから、それから、すっかり熱が冷めた。

御影家は、双子の姉妹を【母親殺しの娘】として扱いたいだけ。

特に桜はその感情が根強く、

純架の前に現れては幼い頃から罵詈雑言を浴びせた。


関わる人間の、人間性は、何処かで伝染する。

少なくとも桜の影響は自分自身も受けているのだろうと思いながら純架は嘲笑った。


だがこの箱庭で、大人達の身勝手な駒に振り回され

同時にやり場のない純家の想いは膨れ上がり、

自己処理出来ないのだ。


含みのある微笑を浮かべながらも、

純架の瞳は笑っていない。


「“あの子”は、どうなっているのでしょう」

「……………?」


「私と同じだから、

生きていたら29歳。もう立派な女性よね。

誰かさんのせいで、10歳になる年に生き別れてしまったから後は知る事は出来ないけれど。


……………ねえ、何かご存じ?

透架が恋しくて、会いたくて仕方ないの」


(ようや)く、桜に視線を向けた。

それは虚空の双眸の瞳孔を上げながら、嘲笑にも似た微笑が消えた。


「母親が殺しが欲を言ってはならないわ!!」

「へえ………」


 ゆらり、と揺れた瞳。

桜は刹那的に、背筋に悪寒が走る。

純架は視線を伏せて指先に備えているSPO2センサーある手の甲を撫でた。

たまに見せる感情的な素振りは、ぞっとさせる狂気を孕んでいる。


「矛盾しているわ。

母親殺しの娘なら、透架も同罪でしょう?

私達は一卵性双生児で元は一つの細胞だったのだから

母親殺しが共にいる事は、罪なのかしら?」


彼女は押し黙る。

優しい繊細な花に見えて、純架が見せる毒は鋭く刺々しい。


「…………ねえ何故、私達をわざと、生き別れにさせたの?」




その表情は無表情で、言葉は無機質で、暖かみがない。

凍り付いた魚の様な諦観の瞳。


 記憶喪失になった双子の姉。

それを良い様に利用にした御影家。


(貴女達を見ていると反吐が出そう)


「透架が記憶喪失になった事を良いことにして、

何処へ隠し追い遣ったの?、何をしているの?」

「それは貴女には関係ないわ!!」


 純架に悟られた様な口振りに、

その刺々しい毒の表情と声音に、

桜は、精神的に追い詰められていく感覚を覚えた。

 

「関係ない? 笑わせないで?

私達はずっとひとつだったの。今だってそうよ。

姉を、片割れを喪って、私はずっと彷徨(さまよ)っている。

透架もそうなら、私は貴女達を絶対に許さない。




貴女達が、私達を切り離させた。


この病気が悪化したのも、ドナーが見付からないのも……

皆、貴女達、御影家の指示でしょ?」

「……………」


透架は何処へ行ってしまったの、何処に居るの。

私達を母親殺しの罪人だと言い続けるのならば、

せめて引き離ささず二人を責め立てて

懺悔させれば良かったのに!!


片割れの……双子の姉も母親殺しの娘というのなら、

私にも、姉の、その消息を知る権利はある筈よ!!」


当たる矛先がない事は解っている。

けれども自身と双子の姉を生き別れにし

切り離させたのは、紛れも無い御影家だ。


ついつい桜を見ると、御影家の一味だという感情が

(うず)いてに合うと抑えていた喜怒哀楽の感情が爆発してしまう。


「自分自身に陶酔するのもいい加減になさい!!」




篠宮 貴宏受刑者____殺人未遂、懲役25年。

 

被害者遺族 : 不明

備考:模範囚の為、仮釈放を経て出所する。出所時期は___。


篠宮貴宏受刑者の出所は、確定だった。




 

_____透架は自室の

暗い部屋の中で、彼女は1人向き合っていた。


カタカタ、と滑らかにパソコンのキーボードを打つと、

Enterキーを押して、指先を口許に当てて頬杖を

置きながらじっくりと透架は画面を見詰めた。


否、遅かれ早かれ、


(貴方が、この現実に現れるというのならば)


篠宮貴宏は、奈落に突き落とす。


純架。かわいい双子の妹の為ならば

手段を選ばないと誓った以上、もう裏切りはしない。



現実は厳冬の様に冷たく、残酷だ。


(きっと篠宮貴宏はまだ娘の暗殺を諦めてはいない筈)


篠宮貴宏受刑者が出所して

純架の前に現れる確率は99%、透架の前に確率は残りの1%。

面会に行けど双子のどちらか明かしていないので

奴は純架を、自分自身と見間違えるかも知れない。


(早く手を打っておかないと……早周りしないと)


二純架の目の前に現れてたまるものか。

もう二度彼女の心身の傷を抉る様な真似も過ちも繰り返させない。




_______御影 純架、病室前にて。






 ぴくり、と肩が震えた。

この時、初めて思い知ったのだ。

静かな優美な花の様な純架の牙を。激情を。


見知らぬ女性が妹の病室へ入っていくのを怪しみ

透架はちらり、と純架の様子を見に来たつもりだった。


双子の妹は、見た事のない表情。

冷酷な一面を覗かせながら、冷たい声音を交えて

喜怒に満ちた激動に揺さぶられている。


けれどもこんな激動を

1人で抱え込んでいたとは、透架は何も知らなかった。


(…………ごめんなさい)


 

「ああ見えて、

純架は感情的で喜怒哀楽が激しいんですよ。

貴女とは違って、特に貴女の事ならばね。

でも、生き別れてしまった貴女は知らないでしょうがね………」




何処かで知っている声が聴こえた。

嗚呼。生き別れて9歳のまま止まった彼女を

未だに見ている自分自身とは違う。


壁を背に身体を落として透架は(うずくま)る。



今だって妹から逃げている自分自身は、

双子の妹の事なんか分かりやしないだろう?




ようやく前作の話まで、追い付く事が出来ました。

私自身が未熟者故に、大変申し訳ない気持ちで

いっぱいです。


次回からは、完全新作となります。

よろしくお願い頂けますと幸いです。

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