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第17狂・アイビー__器に流れる血

流血表現、過激な言葉描写有。


タイトルを一部、改変させて頂きます。




 夜は、感傷的になる”



 脳裏で、いつか、誰かが言っていた台詞を思い出す。




 御影家の大人達の為に

作った部屋は見栄を張った薫のお飾りでしかなくて、

澁谷家での本当の透架の部屋は、地下室の物置小屋だった。

闇しか佇まぬ、この部屋。



 存在するのは、

簡単なマットレスと、机。

ランタン型のランプは淡い茜色を灯す。



 半面がちな物憂げな双眸。


 その瞳には生気はない。

今は御影家が求める子女の像。薫の世話を体現しなければ。

そしていつか、医師になれるだろうかという一抹の不安。


 双子の妹である純架と再会し、彼女の助けになれるのか。



 今、この時、純架はどう過ごしているのだろう。


 闇夜に横たわると将来の不安と、純架の事ばかりが浮かぶ。



 いつもそうだ。この闇夜は

張り詰めていた糸が緩んで、無慈悲な不安へと(いざな)う。

透架の不安を見透かす様な灯りがゆらゆら、優美にと揺れていた。



 ジャキリ、と鋭い鋏の音がする。

髪を切る方法は自分で見つけるしかない。

長さを決めると大胆に鋏を入れ、毛先を丁重に整えてみる。

大胆、ロングの長さで決めている。


 薫の世話や炊事家事に追われ、

髪が腰まで伸びている事にも手を入れるまで気付かなかった。



 何かしていないと感傷に呑まれてしまう。

何処か息苦しく感じるのは、きっと気のせいじゃない。




 絶望の中での拠り所は、

いつしか双子の妹となり、澁谷家の事はあまり考えない。

この思惑が見透かされなければいい。


 静かに医学部の入学に向けて

積み木を積んでいればよいのだ。

 



 けれど

闇夜に横たわると将来の不安と、純架の事ばかりが浮かぶ。

断髪した髪の房をゴミ箱に入れた時に物理的に

頭が軽くなっている事に気付いた。


 けれども、

心の重りを手放す様に思えて、自身が疎ましくなる。




 自身の描いた理想に生きれないのが、現実だ。





 茫然自失とする。そして(やが)て嘲笑う。

この身体も、この性格も、“御影透架”という人間が大嫌いだ。

憎たらしくて、恨めしくて、何処までも卑怯な女。

 

(許せない。赦せない)


 絶望の中で唯一無二の見付けた糧が、

透架を突き動かすけれど、それを引き抜いてしまえば

自分自身には何もない。ただ御影家の子女ながら


 『曰く付きの娘』『犯罪者の娘』としての

レッテルが貼られた壊れた器。






 光がささない闇夜に、

簡素なマットレスの上に人形の様に無機質に横たわる。

この暗闇は透架の冷たい心を突き動かして、

止めどない感傷が、溢れてくる。


 不意にランタンに、刃が映った。

無意識にあててみると、手首に白い肌に冷たい感情が伝う。

ただ見詰めていた。ぼんやりとした現実の輪郭とは違い


 自身への明確な殺意。

伏せられた瞳、心は物憂げなまま、そのまま_______。


 


 雨音が、鼓膜を揺さぶる。



 痛みは感じない。

それは既に心が、生き絶えているせいか。




 いつの間にか、腕には深紅が伝い歩いている。



 無感情に虚空を見詰める様に

無意識に伏せた瞳でそのまま、腕に伝う深紅を舐め取ってみる。


(これが、罪ある者の血)




 全てを壊し歯車を軋ませたあの人物の血。

憎悪の血が身体に流れている、と

そう思うと軽蔑にも似た感情を覚え、心が冷たくなっていく。



 しかし、気付いた。


 けれどこれは。




(…………私、だけじゃない)


 


 その瞳に生気はない。

けれども、瞳は少しばかり潤んでいた。


(この身体には、純架と同じ血が流れている)


一卵性双生児は、元々、一つの細胞だ。



 不意に皮肉にも

血縁が純架と繋がっている証拠だと思い知らされた刹那的に、

透架は止めのない罪悪感に襲われた。


 愛しい双子の妹の血、

憎らしい父の血。………複雑な心境だった。


だが、

(…………いや、私も同罪だ)




 不意に余儀った、あの記憶。


あの時の妹を抱えた時、

あの時の、感覚や感触、光景、

鮮血の感触は昨日の様に鮮明に覚えている。


(……純架は、傷付いたのに、どうして)


アナタは無傷ノママ、ノウノウト生キテイルノ。



 夜は感傷的な気持ちに誘う。

けれどもこの純粋な血を穢した一因は

自分自身にもあるのではないか。



 無条件に愛しい双子の妹、

故に純架と生き別れにさせた憎い父親の思いが

ぐちゃぐちゃになりながら


 透架は自身を責めた後に、

酷く軽蔑して、憎しみ抜いた。


 腕を強く手拭いで巻いてから、

透架は茫然自失として再びマットレスに横たわる。


 目の下には色濃い隈。

人形の様な整った顔立ちに、それは異様に見える。


 何処かで自分自身を嘲笑う。乾いた笑いを浮かべた。

夜が眠れなくなってから、どれくらいの時が経つだろう。

今夜も眠れない。




 軽蔑された眼差しも浴びるのも、

この境遇も、全て当たり前なのだ。


 あの日を境にして将来を奪われた純架にとって、

雑念を覚えなからこうして生きている事は

失礼で、贅沢な事なのかも知れない。



 そう思うと

自分自身の心の中で、冷たい憎悪が沸き上がる。

自分自身を酷く軽蔑した感情で見詰めていた。

受けて当然の報いだ。


 (貴女の全てを奪ったのは、私____)



 けれども、

こんな思いを抱いて不安がるのも、

こんな思いを馳せるのも純架には失礼だ。


 彼女の普段や普通を奪い去ったのは、

紛れもない自分自身なのだから。




 孤独感の佇む澁谷家で、

皮肉にも透架の日課は読書だった。

物語の世界観に浸っている時だけは全てを忘れられる。


 本だけは手放す気にはなれなかった。

医学部志望だったのもあり、受験期には医師が登場する

医療関係の小説をを意識して読んでいた。


 御影家の使用人、純架との共同の後見人である

女性が月一度、透架の様子を見る為に訪れる。


 万が一、澁谷薫が虐待していないか、

透架はどうしているかの様子観察である。

けれどもそれは御影家の命令の上で形式上のものだ。


「まだ、しぶとく生きているのね」


 彼女は嫌味を含んだ言葉じりで呟く。

御影家にも、特に後見人の彼女にはよく思われていない。

特に彼女には私情の何ががある、と思い始めたのは、

ここ最近だ。



 例え“曰く付き”の娘だとしても、

御影家の子女である事には変わらない。

御影家の末裔の片割れとして、有力視されている様だった。


 だが、後見人の彼女は常々に透架は罵倒する。


「例え、御影が貴女を跡継ぎと決めても、

私は絶対に認めない。そうなった時は絶対に私は、

どんな手を使っても引き()り下ろしてやる」


そう息巻く彼女は、憤慨した感情を高ぶらせながら

刃の如く深く透架を睨み据えた。


(御影家の地位なんて、これっぽっちも興味ないわ)


 

 今の透架に必要なのは、

医術と生き別れになった双子の妹。

実家だろうが、地位等は論外で、どうなろうと構わない。


 後見人である彼女は、

小姑の如く嫌味を言う為に澁谷家に訪れたがる。


 

「誰かが許しても、

私が貴女を御影家には戻してあげない。

苦痛の業火の鍋の中で踊って、火傷し続ければいいのよ」


 殺意すら感じる言葉と、煮え(たぎ)る狂喜。

彼女はよっぽど自分自身が憎くて仕方がないのだろう。

現に透架が何処かしら怪我していれば、何故か喜々としていた。


 


 澁谷家での、

どれだけ酷い扱いを受け、罵詈雑言の毎日だとしても、

透架は薫を聖母の様に唄った。


(表面的に繕ってよく見せていれば、裏は見えない)



 口は災いの元。

下手に口を滑らせて今の生活が壊れるのも、

薫からの風当たりが変わるのも



 大人達の事情の事を荒立てるのは、面倒臭い。

この破天荒な養母に振り回されながらも、

自分自身のペースで過ごせている平和な今がいい。

それに、



(犯罪者の娘である、私がこれ以上の生活を望む事は

求めてはいけない罪なのだから____)

(身の程を弁わきまえて、分不相応な生活を送ればよい)




 御影家の人間も、薫も、宏霧も

透架が眠れない夜を過ごし、

自傷に依存して生きている事は誰も知らない。





物語の構成上とは言えども、

登場人物の行為を助長する意図は一切、ございません。

ただご不快に思われた方、申し訳御座いません。

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