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第16狂・オトギリソウ__館に呼び寄せられた裏の秘密

諸事情により完全新作のお話となります。

澁谷家の秘密。


数話にズレが生じますが

ご理解いただけますと幸いです。



 深夜2時。

透架は眠る事もせずに、リビングルームで勉学に励んでいた。

リビングルームにいるのは、薫が帰宅するかも知れないからだ。


 常に用意周到で、待ち構えなければ

ヒステリックな金切り声が、制御もなく轟くだけなのだ。

一人になりたいと思いながら、それは許されない事だと

この時間帯は思い知る。





 下ろしたセミロングヘアを耳にかけた時、

その端正に整った横顔が現れた。

すっと通った鼻筋に伏せ目がちな物憂げな双眸。

優美ながらも、何処か薄幸さを佇ませている。


『ひろちゃん』




 透架を見ると、

否が応でも脳裏には“彼女の姿”が浮かぶ。

だから見ない様にしていたが、理由も知らず

母親に虐げられている彼女を見ていると、同情せずには居られなくなった。


(母さんは“まだあの時の事”を根に持っているんだ)


 宏霧は、透架にずっと問いかけたい事があった。

だからこそ無意識に透架に近付いていた。

最初は興味本位に、今は別の意味もある。



「辛くないか。

自分自身が惨めで不条理だとは思わないか」


ぴたり、と指先が止まる。

いきなり何を言うんだろうと思う。

惨め、不条理、そんなもの、考えた事もなかった。

澁谷家に居るのは利害を果たす為に。後は____惰性で生きている。


「…………いいえ。そんな事は思いませんし

そんな感情、忘れました」


 透架は伏せ目がちでそう呟く。

絶望の奈落に突き落とされたあの日、

澁谷家で過ごしていく内に氷菓の如く凍り付き欠落していく。


 医学部に入学し医師免許を取得する事と、

純架の存在にしか透架の脳裏にはない。


(それ以外はどうでもいいの)


 感情という機能を殺し棄てて、将来だけを見据えている。

そんな透架の感情も思いも見透かせない、

ミステリアスな雰囲気と追おうとすれば、


 距離が生まれる感覚に、宏霧は焦らされた様な気分だった。




「いい事を教えてやろうか」

「なんです?」

「父さんは医師じゃなかったよ」


 ぴたり、と思考回路が停止した。

薫は宏霧の父親は医師だった、と口酸っぱく言っていたのに。

けれども同時に何処かで納得していた。


「叔父さんが医師だったんだ。今はもういないけど」

「………」


 今更、透架は気付いた。

ロークローゼットには、写真立てが飾られている。

若き日の薫と宏霧、

お人好しそうな雰囲気の男性が叔父という人か。

けれども一つ、疑問に思う。


(……あの子は、誰?)


 薫と肩を寄せ微笑んでいる少女。

宏霧はロークローゼットに飾られている

その写真を手に取ると妹だよ、と呟いた。


(………亡くなった妹?)


里穂(りほ)。生まれつき腎機能に問題があって

移植を望んでいた。で、叔父さんと再婚する人が、

里穂のドナーだった。でも……里穂は、

移植の数時間前に天国に行ったんだ」



 昔話を語る様に、宏霧は呟く。


「それから、里穂を喪ったショックで、母さんは変わったんだ」  



 里穂が亡くなって、自暴自棄になりあの姿だ。

そして移植ドナーの彼女を酷く憎む様になってしまった。


もう少し早ければ、と

彼女に罵詈雑言を浴びせていたのを憶えている。


「それに追い打ちをかける様に、

里穂の主治医だった叔父さんは失望して行方不明になって

翌年、海岸通りで遺体となって発見されたんだよ」


 澁谷家の隠れた事実。

透架は自身が、この館へと連れて来られた意味を悟った。

影武者は表、裏は亡き娘・里穂の代わり。



「大人の事情はまだ分からなかったけど、その人は消えた。

でも母さんの心の整理が付かない。

何を考えているのかすらもう分からない」


 肩を落とす宏霧。

透架と里穂は、何処か似ている。

だから余計に彼女を見るのは辛いのだろう。


「多分、

君を引き取ったのは、里穂の代わりだと思うんだ。

だけど里穂を想うなら、君に八つ当たりする理由が分からない」


 苦悩する様に、

里穂が居なくなった存在感の穴を埋めるかの様に、

透架を引き取ったのなら。


 けれども里穂の代わりに迎えた筈なのに、

透架に辛く当たる薫が理解出来ないのだ。



(私を引き取ったのは、娘の身代わりの為?)


 薫は内心、集めているのかも知れない。



 パズルのピースを。

自分自身が幸せだった頃の者を。

亡くなってしまった娘、行方不明の末に

海岸で遺体となって発見された兄。

それが、全て透架の身で果たそうとしているのならば_______。



 けれども、一つだけ引っ掛かる。

薫が時々、口にする“あの悪女”という言葉。

薫にとっての悪女は、里穂のドナー適合者だった女性。


それを何故、自分自身に向けられたのか。





だが、一方で。



(私は、同じ末路を辿りはしない)


奇妙なデジャヴに襲われた。

移植を必要としている妹、憔悴した末に消えた人物。

まだ純架の適合者に、ドナーになれるかは分からないけれども

もし同じ現実が目の前に現れたとしたら。




「だから躍起に医師を目指さなくても……」

「いいえ。気にしないで下さい」


 薫や宏霧の為に、医学部を志望している訳ではない。

この澁谷家に薫との利害、

将来の切符が存在していたに過ぎないからだ。


 薫の手駒で踊らせて見せかけても、

この利害関係は崩しはしない。


(……全ては純架の為よ)


 


 それ以外に何があるというのだ。

純架の為ならば耐え抜く、なんでもする。

彼女が救われるというのならば、もう手段は選ばない。


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