シーン14/バトル・デモンストレーション、助っ人
こんばんは!
今夜は14,15,16シーンの更新です。
お楽しみ頂けたら嬉しいです!
「さて、メンバーはこれで締め切るが、構わないかな?」
ハオランさんは全員の顔を見回した。
「チームA、コントローラーは章生くん。プレイヤーは小琳、月輝雨くん、陽太くん。間違いないね?」
「間違いないよ」
「チームB、コントローラーはグエン。プレイヤーはカイン。王超、李偉のふたりが助っ人で入る」
助っ人?中国人??それって…
「聞いてないわ」
グエンが強い調子でそう言った。
「グエン。これは喧嘩じゃない、採用試験だ。チームプレイが出来るかどうかも、採点させて貰いたい」
「私たちは二人でチームよ。私たちのやりかたでやるわ」
「とりあえずワン・チャオとリー・ウェイを紹介させてくれ」
ハオランさんはスマホを取り出し誰かにコールした。グエンはハオランさんを睨みつけたまま、椅子にどすん!と座った。
礼拝堂の扉が開いた。俺たちと同じ年頃の男性がふたり、会釈をしながら入ってきた。
「ワン・チャオです」
背が低くがっちりした体型だ。表情も硬くて服装も素朴と言うか、日本に来てまだ間が無いような感じ。黒髪の剛毛で、イメージとしては、イノシシっぽい。
「リー・ウェイです。リーと呼んでくださいね」
リーは茶髪で服装も小洒落ていてワンとは印象が違う。体型はひょろっと細長い。見た感じそれほど強そうには見えないが、助っ人だからなぁ。弱いわけはないよね。
「カインほどではないが、この二人も格闘技の経験がある。即戦力になるよ」
えー。即戦力。ずるい。
だがグエンとカインは二人を、そしてハオランさんを睨んだままだった。
「グエン、ワンです。指示をしてください」
「…」
「グエン?」
グエンはワンとリーからトランシーバに入る通信を無視した。バトルデモンストレーション模擬戦。本番を間近に控え、ルールを理解するためのミニゲームを実施している。
ハオランからコントローラーに『アクセスポイント』の情報が入った。ミニゲームなので『アクセスポイント』は一箇所だけだ。入電タイミングは両チーム同じ、必然的に『アクセスポイント』に近いプレイヤーが有利になる。ハオランはふたつのチームの位置をGPSで把握している。ふたつのチームが同じくらい離れている地点を指定したはずだ。
「カイン、シルク通りを北西へ進んで!『アクセスポイント』は青龍飯店跡よ」
グエンはワンとリーを居ないものとして扱った。『アクセスポイント』の位置さえ教えない。ハオランの手前、トランシーバとインカムは渡してある。だが、グエンがトランシーバを使うことは無かった。カインとの通信はスマホで行う。
「気を付けて。琳たちも同じくらいのタイミングで『アクセスポイント』に着くはずよ」
「章生、青龍飯店跡に近づいた。まだカインの姿は見えない」
琳はヘッドセットで章生を呼んだ。遠距離で使える高機能トランシーバーは予算的に厳しくて買えなかった。章生がPCでボイスチャットオーナーとなり、プレイヤー達はスマホからアクセスする。
「『アクセスポイント』は建物の四階だそうです」
「だれかチェックインしたヤツいる?」
「いや、まだ。『アクセスポイント』に到達したプレイヤーはいません」
「じゃ、建物の中にはまだ入ってないな」
月輝雨と陽太もスマホでボイスチャットを起動し、ヘッドセットを付けている。情報共有は問題ない。
「ひょろリーとイノシシのワン、来てるかな」
「グエンの感じじゃ、手出しさせないと思うけど」
「どっちにしろカインが一番強い。俺はカインとやりたい」
陽太はそう言いながら建物の中をうかがった。
「陽太、お前、先に入って」
月輝雨が陽太に言う。
「カインの方も陽太みたら絶対仕掛けてくる。お前、足止めして。俺ら四階目指すから」
「うん」
陽太は閉鎖されたレストランに飛び込んだ。まったくためらわない。
「おい、すこしは警戒しろよ!」
月輝雨が叫んだが、既に陽太は一階のフロアを駆け抜けていた。そのまま二階へ駆け上がろうとする。
「陽太!」
一階フロアの窓からカインが躍り込んできた。陽太は踵を返してカインに向き合った。目が合う。同時に走りよる。交戦開始。
琳と月輝雨は裏口へ回る。非常階段があるはずだ。
「章生、非常階段の位置は?」
「厨房の裏手です」
「外?」
「いや、屋内です」
琳と月輝雨は厨房を駈け抜けた。防火扉に「非常階段」と書かれている。扉は錆び、ペンキが掠れている。開くだろうか?
「よし、開いた」
扉のさきは階段室になっている。
「屋内でよかったな、階段が錆びてたら危険だ」
「屋内だって、床抜けるかもしれないぜ。琳さん、ぼっとしないでよ」
「俺はぼっとしてないよ、月輝雨じゃあるまいし」
「俺がいつぼっとしたよ!」
「自覚ないわけ?」
「なにぃ!」
「お取込み中、お邪魔しますよ」
ふいに聞きなれない声がした。
「あ」
「うそ」
ワンとリーが、非常階段に立ちはだかっていた。
「意外だなぁ。グエンは助っ人を使わないと思ってた」
「グエンさんは指示をくれない。我々は勝手にここに来ました」
「勝手に?」
「ジゥ・ハオランが『アクセスポイント』の位置を教えてくれた」
「またハオラン、余計なことして。グエンに噛みつかれても知らないから」
「非常階段、喧嘩しづれぇなぁ」
「しかも月輝雨とはコンビ組んだことないし」
「コンビ以前に琳さんあんた、ちゃんと喧嘩できんの?」
「失礼だな、一応空手部だぞ、一応」
「はいはい」
ワンとリーはすっと上体を沈めた。そのまま階段を駆け下りてくる。
「速っ!」
ワンのハイキックが月輝雨のあたまを狙った。月輝雨はぎりぎりワンを見切ることが出来た。イノシシの印象どおりワンは力強く速い攻撃を繰り出す。続け様にローキック、避けきれない。月輝雨は足払いを食って、もんどりうった。
「もうコンビプレイとかぜんぜん無理、俺ひとりで手一杯」
琳はひとつ下の踊り場で、ぼやきながらリーと対戦していた。琳はリーを壁に追い込んだ。が、リーは防御がうまい。細長いからだに妙な柔軟性がある。琳の攻撃はひょろりひょろりとかわされる。
「ハオラン、やな助っ人呼んできたなぁ」
「でも階段てとこがミソだよね」
月輝雨は転がった状態から両手を支えにワンの足元を狙って蹴り上げた。ワンはそれを難なくよけたが、足を置いたところが階段の端だった。かかとが宙に浮き、よろける。
「頂き!」
月輝雨はよろけたワンの太腿を押し蹴った。
「わっ」
ワンは数段ほど階段を落ち、リーの背中にぶつかり止まった。
「琳さん、ワンも足止めして!」
「えーっ」
月輝雨は脱兎のごとく四階の『アクセスポイント』を目指した。
グエンのスマホが着信した。
「!」
ハオランからだった。要件は想像がつく。ワンとリーを無視していることへのお小言だろう。
「なに?ハオラン」
「『アクセスポイント』に月輝雨が到達した」
「…」
「ワンとリーがいなかったら、もう三十分は早かったな」
「どういうこと?」
「私がワンとリーに『アクセスポイント』を教えた。二人は小琳と月輝雨と交戦し、月輝雨に出し抜かれたんだ」
「じゃあ、あの二人は役に立たないってことね」
「ワンとリーは小琳を抑えて月輝雨の後に『アクセスポイント』に到達した。二人が居なければ君らは一階で永遠に足止めだ」
「へぇ。カインは何をやってたのかしら」
「陽太とやりあっていた。カインと陽太は互角だな。残念ながら、カインひとりでは君らに勝ち目はない」
グエンは鼻を鳴らした。
「わかったわ。ワンとリーは使う。それでいいんでしょ?」
「結構」
こうなることは判っていたが、素直に最初からハオランに従うのは癪だった。今だって癪に触っている。だがしかたない。グエンは頬を膨らませてスマホを切った。




