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ヨコハマしょーもなガイズ  作者: 705(ナナ)
嵐の前の静けさ
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13/26

シーン12/アリスの憂鬱

 いよいよ明日からゴールデンウィーク、という午後、俺は大学でアリスに呼び止められた。アリスからアクションがあるのは珍しい。

「どうしたの?アリス」

「…」

また無言だ。いつも思うんだけど、この沈黙ってどういうリアクションを期待しているんだろ?ちょっと聞いてみようかしら。

「あのさ、アリス」

アリスは目を上げた。

「よくそうやって黙るじゃない?」

「…」

「そういうときって、俺、どういう反応したら正解?」

「せいかい」

「うん。もっと質問とかしたほうがいいの?それとも俺も黙って待ったほうがいい?実はさ、長いつきあいなんだけど、いまいち正解がわかんなくて」

「…せいかいは」

「うん」

「わからない」

「わからないの?」

それは困ったな。本人もわからないんじゃ、俺は相当わからない。アリスは(珍しく)言葉を続けた。

「何を言えば良いか、わからなくて、黙ってしまう…」

語尾が消えた。この語尾が消えるのも言いたいことがよくわかんない要因のひとつなんだよな。でも、そもそも俺を呼び止めた理由があるわけだよな?

「俺を呼び止めたのは、何か言いたいからじゃないの?」

「そう」

「言いたいことはあるんだ」

「ある」

「でもどう言えば良いのかわからないの?」

「そう」

理屈としてはわかる。

「困ったね」

「困った」

 うーん。どうすればいいんだろう。言いたいことをうまく言えない、つまり、ヘタクソだということだろ…。定石なら、練習あるのみだよな。あ、でもすでに練習してたりして。

「アリス、なんか、練習とかしてるの?言いたいこと言うための」

「してない」

「してないんだ」

 なら練習してみるのもいいかもしれないな。

「じゃあさ、試しに練習してみたら?今までしたことないんだったら、練習したらうまくなるかもしれないよ。ちょっとググってみようか」

言いたいことが言える、で検索してみた。へー。アサーティブコミュニケーションスキルとか、子供のための『言いたいことが言えるトレーニング』本とか、いろいろあるな。

「ずいぶんヒットするねぇ。アリス、おんなじようなことで悩んでる人、結構いるのかもね。こういう本読んでみるとかいうのも良いかもなぁ」

 アリスはスマホの画面を覗き込み、しばらくそれを目で追ってから俺を見上げた。

 俺はぎょっとした。アリスの目に涙が浮かんでいたのだ。

「アリス、どうしたの?もしかして、怒った?」

俺はうろたえた。琳さんと違って俺は女の子に泣かれるのに慣れてない。もしかしてアリスを傷つけてしまったんだろうか?

 そういえば無神経だったかもしれない。俺はよかれと思って言ったつもりだったけど、これ、いきなりアナタ話がヘタクソですね、と宣言したも同然だもんな。

「ご、ごめん、アリス。俺ちょっと言いかたが下手で…」

言いたいこと言うのが下手なのは俺のほうじゃないか。さっきの検索結果、後で読んどこう。

「ちがう」

アリスは首を振った。

「ちがう、章生」

アリスは涙を浮かべたまま、必死で言葉を探している。

「みんな、うまく話せないと怒る…。章生は…練習したらうまくなるって…」

「う、うん」

「私は、ミーティングでもうまく喋れない。みんなが怒っていないかと…」

「そんなこと気にしていたの?」

びっくりだ。アリスがそんな気配り…ん?ちがうな。あ、心配り。うん、こっちのがしっくりくる。そんな心配りをしていたなんて。そうか、それで俺に話しかけたんだ。そうだったのか。

「アリス、泣かないでよ。ぜんぜん平気だからさ。皆も気にしてないよ。奴ら遠慮するタイプじゃないでしょ。怒ってたら、その場で言ってるよ」

アリスは目をこすりながら頷いた。知り合って三年、俺はようやくアリスとまともに会話したという達成感を覚えた。そうか、そういう心配をしていたんだね。

「アリス、心配事は解決した?」

「しない」

「・・・」

「・・・」

「えーと。じゃ、心配ごとについてちょっと説明してみてくれる?」

「心配は、台本」

いきなり俺の仕事っぷりが心配なの?なんかいろいろ萎えるなぁ。

「私の役は、なに?」

うーん。なにかしら。

「いまのところ女性の役は『花嫁』なんだけどさ」

「女は二人」

そういう即物的な言いかた、どうかなぁ。女の子、とか言ったほうが婉曲でよくない?

「どっちが花嫁?」

「どっちだとしても女性の役はもうひとつ作るよ。声かけといて役が無いなんて失礼過ぎるし」

「花嫁が二人いる?」

「ふたり?」

「男も数が多い。花嫁が何人いても問題はない」

いやまぁ確かにそうなんだけど。そのオトコとかオンナとかって即物的な言いかたは、やっぱり良くないと思うなぁ。

「アリス、女、とか男、じゃなくて女の子、とか女の人、とか、すこしソフトな言いかたすると良いんじゃない?」

「れんしゅう?」

「ん?」

「言いかたの、練習?」

「ああ、そうそう。それ。やっぱり表現は少しソフトにしたほうがいいと思うんだよね」

「男の子が多いから花嫁も多い」

うーん?まぁ、すこしはソフトになった、かな?

「舞台の上を花嫁がたくさん、駆け回ったら面白い」

確かに面白い絵だ。たくさんの花嫁。走り回る。あ、でも女の子は二人しかいない。たくさんじゃないな。いっそ男どもにも花嫁衣裳を着せて走らせるか。面白そう。でもあいつら素直にやりゃしないだろうな。

「男の子たちはみんな、シンロウ?」

あいつらに心労なんか無い!あ、新郎ね。うーん。新郎?タキシード?男子全員が?ふむ?

「boymeetsgirl」

ボーイミーツガール。花嫁からみたら、ガールミーツボーイなのかな?

 俺は、極悪肉体派ストリートギャングなカインや陽太をイメージしてたんだけど。アリスはやっぱり女の子だなぁ。

 タキシードの新郎たちが花嫁を探して終末世界を疾走する。そして花嫁たちも新郎を探す、暗い廃墟のなかで。終末世界再生工事現場におけるボーイミーツガールとガールミーツボーイ。世界の終わりとハードボイルド婚活ランド。


 …ちょっと混乱してきた。


「アリス」

「…」

「そのイメージ、俺のなかで整理されるまで待ってくれる?」

「いつ?」

「いつ整理されるかってことだよね?」

「そう」

「うーんとね…。ゴールデンウィーク明け、でどう?」

アリスは無言で頷いた。連休中に頭を整理してみよう。まだ全然形になってないけど、新しいイメージが沸きそうな気がする。ボーイミーツガール。再生する世界と疾走する新郎新婦。


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