シーン11/舞台の神様の巫女
こんばんは!今夜はシーン11,12,13を連投します。よろしくお願いいたします。
礼拝堂の祭壇で、月輝雨は踊ってくれた。
薄暗がりの客席、舞台にだけ柔らかな照明が入っている。まだ照明機材が吊られておらず、弱い弱い明りだ。
舞台のうえ、月輝雨は生成りの単の着物を着流している。草履を脱ぎ、白い足袋一枚になった。電球色の柔らかな光が、月輝雨を照らす。
発端は月輝雨が着物で教会にやってきたことだ。着物姿を見たカインが月輝雨が日本舞踊の師範だということを思い出し、踊りを見たい、と言い出しだ。
グエンも見たがった。師範なら相当うまいんでしょ、ねぇ、見せてよ、とねだった。最初は渋っていた月輝雨だが、たぶん、この教会で踊ってみたくなったんだと思う。
音楽もない、無音だ。静まり返った礼拝堂、月輝雨の衣擦れの音と床を擦る足袋の音だけが聞こえる。
我知らず、息を詰めていた。カインでさえ、身じろぎもしないで息を潜めている。
ああ、こいつ、ほんとうに綺麗だな。
踊っているときだけは素直にそう思う。身長のわりに手が長く見えるのは、踊りのスキルが成せる技か。反らした背、胸を張り、肩を落として手を伸ばす。
その腕が、無音の舞台のうえ、それだけ独立した生き物のように伸びていく。
それはこの世のものではないように見える。舞台の神様の、巫女のように見える。
「いやぁ、月輝雨、ほんとに師範だったんだな」
「なんでそんなウソつく必要あんだよ」
「だって日本舞踊の師範なんてそうそう身の回りにいねぇもん。いくらお前がチビで女顔だとしてもよ」
「このガキィ!」
だからやめなさいっての!カインも月輝雨も!
「でもほんと、綺麗だった」
グエンが素直にそう言った。依然カインと揉み合っている月輝雨は怒鳴るようにありがと!と言った。
「なんであの踊りを踊る人がこういう性格なんだろ?」
グエンは俺のほうを向いて首をかしげた。
「性格と踊りは関係ないんじゃないの?」
「そうなんだ。まぁ、そういうもんなのかな?映画俳優も演じた役と本人はぜんぜん違ったりするもんね」
「うん。でも月輝雨は踊りはすごい熱心にやってるよ。一年のころは大学にも着物で来てたし」
「へぇ、そうなんだ!じゃあモテたでしょ?」
「さぁ、どうだったんだろ?月輝雨、着物だとモテた?」
「俺のタイプには効果ねぇ!」
「だって」
「そうなんだ。月輝雨ってどういうタイプが好きなわけ?」
「巨乳らしい」
「へー。感じ悪い」
「章生ッ!余計なこと言うな!」
「あ、ごめんごめん。じゃあさ、お前のタイプってどういうの?」
「えっ!」
「好みのタイプだよ」
「セクシーダイナマイトラブマシーン!」
「月輝雨ってバカじゃないの?」
グエンが呆れた声を上げた。
「バカって!」
と言いかけて月輝雨はカインに殴られ2メートルほど飛んだ。やれやれ。舞台の神様も見てびっくり聞いてがっかりだよ。巫女取り消しとかになんないといいけど。
「月輝雨、顔に傷は作るなよ。お弟子さん怯えるから」
「カインに言え!」
「カイン、顔は殴らないでやってよ」
「無理だよ、的が小さくて狙いが絞れねぇもんっ!」
「ぁんだと!」
「陽太、そろそろ止めようよ、このふたり」
俺は面白そうに見物を決め込んでいた陽太に声をかけた。
「うん」
陽太はにこにこしながら月輝雨とカインのあいだに割って入った。
「そろそろオシマイだって」
まったくもう。しかしあれだな、カインは陽太より体も大きくて力も強そうなのに、陽太はかるがる二人を引き離してしまうんだな。カインが陽太に遠慮しているのかもしれない。
陽太にはそういうところがある。理由はわからないが、一目置かれてしまうようなところが。




