シーン10/バトル・デモンストレーション、説明会
ゴールデンウィークを目前に控え、バトル・デモンストレーションの説明会が行われた。
「今回のデモンストレーションは、チーム対チームのサバイバルゲームスタイルで行う」
サバイバルゲーム?エアガンとか使うやつ?
「街中でエアガンはまずい。武器は使用せず、肉弾戦でお願いする」
それだって充分まずいと思いますけど。
「各チームの参加人数上限は、プレイヤー3名、コントローラー1名。プレイヤーはGPS機能を使って位置をコントローラーに知らせる。位置把握アプリを始めバトルデモで使うアプリは全てグエンが作ったものだが、うちのシステム部がいくつか改修を入れた」
「何を変えたの?」
「コントローラーが自分のチーム以外の情報を把握できないようにした」
「ちぇっ」
こっちの情報を盗る気まんまんだったらしい。グエンもなかなか腹黒い。
「ルールはシンプルだ。プレイヤーが『アクセスポイント』にチェックインすればポイントになる。ポイントが多いチームが勝ち。チーム対抗で市街戦を実施、相手のチェックインを妨害できる。また相手プレイヤーをつぶせばポイントが加算される」
「つぶしたって判定は誰がするの?」
「プレイヤーはバーコード付きのリストバンドを巻いてもらう」
薄いラバーのリストバンドが配られた。
「バンドにはプレイヤー固有のバーコードがついている。バーコードをスマホで読み取ると、バトルデモ専用ページにアクセスして死亡フラグを立てられる。死亡プレイヤーは退場だ」
ハオランさんは皆を見回して微笑を浮かべた。微笑というには人が悪そうすぎだけど。
「ゲーム終了時に各チームのポイント数を合算し、勝敗を決める」
「『アクセスポイント』へのチェックイン競争で、お互い邪魔しあうわけですね?」
「そういうことだ。各チームそれぞれ、参加するプレイヤーとコントローラーを申告してくれ。期日はゴールデンウィーク明け。バトルデモに必要なアプリは朱家の特設Webサイトにある」
カインとグエンはハオランさんにルールの詳細を確認している。喋ってるのはグエンだけで、カインは黙り込んだままだ。たぶんカインは体で確認するタイプなんだろう。
「しかし人数が合わないよな?」
「ん?」
「俺らは陽太、琳さん、俺の三人がプレイヤーだろ?向こうはカインひとり。ぜんぜん相手にならねぇよ」
月輝雨、だったらお前が抜ければ?
「助っ人呼んでくるんじゃない?じゃないとつまらないし」
つまらないなら止めなさい、陽太。ん?待てよ。三人がプレイヤー?あれ?
「コントローラーは?」
月輝雨と陽太は何言ってんの?という顔をして俺を指差した。俺なの?!
「他に誰がいんだよ」
「いやだって。琳さんがやるとか」
「じゃお前がプレイヤーやんのかよ?」
「俺はやらないよ!おまえら二人がプレイヤーで琳さんがコントローラーってことだよ!」
「琳さん、あれでも一応中学時代空手部だったからさあ。一応の戦力にはなるじゃん、一応」
「一応一応言うな!」
たしかにカインはすっごく強そうだから三人くらい必要かもしれないけど…。
「章生、いまカインが強いから俺らが三人なんだと思ったろ?」
ご明察。
「言っとくけど、陽太はカインとタイマン張る気だからな」
月輝雨、陽太がタイマン張るのになんでお前が威張んの?
説明会が終わると、ハオランさんは琳さんに声をかけた。
「小琳、会長が顔を出せと言っていたぞ」
「大叔父さんかぁ…」
「最近会長は気が弱くなられた。お前が行けば喜ばれるだろう」
「うん…」
「ついでだ、今日一緒に顔を出してはどうだ」
「なんのついでなのさ」
「私がここに来たついで」
「俺に関係無いじゃない!」
この一族は仲がいいのか悪いのかよくわからない。琳さんは最近まで朱家と音信不通だったと言うし、ハオランさんも朱家の事業に琳さんを誘ってる様子もない。それともゲームを餌に間接的に誘っているのかな。それに二人とも、琳さんのお父さんのことをまるで口にしない。水絵さんに振られたときはあれほど大騒ぎしていた琳さんなのに、なんだか不思議だ。
「どうした?章生」
「ん。いや、琳さん、あんまりお父さんのこと言わないなって」
「…」
月輝雨はすこしのあいだ黙った。
「なぁ、章生」
「ん?」
「自分が高校生で、親が再婚するってひとり日本に置き去りにされたら、どんな気がする?」
「…」
「おやじさん死んだこと言ったときも他人事みたいだったけどさ。琳さんて、見た目と違って意外とウェットじゃん。ああ見えてホントは結構、堪えてんじゃねーの?」
「うん…」
「ハオランさんが居てくれてよかったんじゃね?琳さんのこと小琳て呼んでるじゃん。弟みたいに思ってんのかも」
「いや、弟は関係ないよ」
「え?そうなの?」
「うん、他人でも年下だと苗字や名前に小をつける習慣だって、琳さん言ってたよ」
「他人でも?俺、他人に小月輝雨とか言われたら…殺す。ぜったい殺す」
月輝雨って、優しいのか怖いのか判りづらい。
ハオランはタブレットを鞄に突っ込むと、琳を見て頷いた。
「待たせたね。行こうか」
琳とハオランは中華街の中心に向かった。空気がぬるんでいる。ついこの間まで夜はコートが必要だったのに、季節はいつも気がついたときには変わっている。
「ハオラン」
「なんだ?」
「グエンにそれ、見せたことある?」
「それ?」
「タブレット。じゃなきゃ、スマホとか、パソコンとか」
「いや。なぜだ?」
「前に、グエンは朱家のネットワークに三回侵入したって言ったよね?」
「昨日の時点では四回侵入に成功したよ。だが心配するな、ジゥ・リン」
「え」
「お前を朱琳と登録しているアドレス帳はダミーだ。引っ掛ったな、グエン」
「…人が悪いな、ハオラン」
「ダミーくらい用意して当たり前だろ?」
「ダミー情報の中に、グエンたちを困らせるような偽情報は?」
「使い方によるな。もしダミーの情報をホンモノだと勘違いして他の企業に売ったりしたなら、グエンは相当困ったことになる。でも、単純に見るだけなら、問題は無い」
「ホント、人が悪い。大人ってヤダヤダ」
「お前はそんなに人がいいのか?」
「見れば判るでしょ」
「俺の印象ではおまえは昔と変わっていない」
「昔って?」
「おまえは小学生のときに俺の荷物を検閲で引っかかるよう細工してたよ。覚えてないか?」
「え。ほんとに?でもそのくらいは人が悪いうちに入らないでしょ?」
「小琳」
「ん?」
「おまえの人の好さの定義がわからない」
ハオランはそう言うと、人の悪そうな笑顔を琳に向けた。




